side O




それは君と結ばれた後


呉から次の任務地へ向かう途中。


移動日に半日時間が取れて


報告したいことがあって実家に寄った。


玉ねぎ小屋で作業していた親父は


俺を見つけると


ちょっと釣ってくる、と言って


ふらり海へと出て行った。





智母「来るなら来ると言いなさいよ。


旅行にでも出掛けていたらどうするの?」




そんな小言を言いながらも


親父のサクッと釣ってきた鯛を


ふたり仲良く嬉しそうに料理してくれた。






智「人生を共に歩む人を見つけた」





そう報告をすると


ふたりは興奮して


根掘り葉掘り聞いてきた。


だから。


洗いざらい全て話した。





南の島での出逢い。


正確には再会だったけれど。


どうしようもなく惹かれて


他の人はもう考えられないこと。


その人と一緒に生きていくと


意思を確認しあったこと。





智父「それで。


お相手は、どこのお嬢さんなんだ?」


智「大鳴戸橋を越えた向こうのseñoritaだよ」


智母「あらぁ〜。親子ね。


私達も夢中になっているseñoritaがあって。


大鳴戸橋の向こうなのよ。


見て!このピクルス!最高に美味しいの」


智「!!!!!」


智母「なんだか懐かしい味がするのよ。


婆ちゃんのあっさり漬に似ているわ。


身体にもとても良いの。


ひとつ持っていきなさい」


智「あの、このピクルス・・・」


智母「ほら、見て。箱買いしてあるの」


智父「香川の老舗旅館から


お取寄せしたんだよ。毎日食べているんだ」


智母「神戸大丸まで出掛けた時に


催事場で出会ってしまったの。


señoritaのピクルス瀬戸内版。


南の島版はもう売り切れていたの。


なかなか手に入らないのよ。


すごく美味しくてリピートしまくり」





智「・・・それ・・・


そのピクルス、作ってる人だよ」





智母「なんですって!」


智父「なんですって!」





そこからふたりの質問攻めは


もっと激しくなった。






señoritaのピクルスを検索して


南の島観光課のページにまで飛んで


俺のseñoritaの例のアレを見てしまった。





智父「可愛いな」


智「うん///」


智母「え?この人なの?本人?


広告用のモデルさんか女優さんかと


勝手に思っていたわ」






智「うん、まぁ・・・


いや、普段はこんな恰好してなくて・・・


女装した姿よりも


ずっと・・・


ありのままの彼はもっと素朴で・・・」


智母「女装?彼?」


智父「この旅館に行けば


この子に会えるのか?」





señoritaのピクルスのラベルを見た父親が


もう右手に電話を持っていた。





智「うん。そこにいる。


そこで板前をしている彼」




智父・智母「板前をしている彼?」




智「うん。


その写真では、その・・・


そういう恰好をしているけれど。


普段はもっと・・・飾らないっていうか。


爪も塗っていないし


化粧もしない」





両親はしばらく顔を見合わせていた。





智父「もう・・・ふたりは、その・・・」


智「うん。ちゃんと未来を約束した」


智母「彼って・・・


señoritaは男の人なの?」


智「うん」


智母「実物も・・・こんなに可愛い人?」


智「うん。とても可愛い人。


まるで瀬戸内レモンのような・・・


爽やかな・・・だけど料理が美味くて


そして・・・俺のこと、大好きなんだよ」





智父「それは・・・最高だな」


智母「うんうん。


智が幸せになれるわね」


智父「その人に・・・会いに行ってくる」


智母「私も・・・行ってくる」




智「・・・ん・・・」





親父が予約の電話を入れた。


きっと和の母親だろう。


電話の向こうから


ハキハキした声が聞こえてくる。





予約の取れる日を聞いて


次の休暇と最終日が被っていることに


気付いた。





智「最後の日、合流しようかな?」





智父📱「最後の日だけ三人で。


はい、大野と申します」





智母「この子は一度言い出したら


突き進むからね」


智父「智の決めたお人だ。


是非会ってみたい。


こんなに愛らしい人が


智に惚れているなんて素晴らしいな。


連れて帰ってうちに飾りたいね」




うんうんと頷く母親。





両親は大鳴戸橋の向こうへと


俺のseñoritaに会いに行くことになり


俺は半日の休暇を終えて職務に戻った。





そして


ありのままの君を見た両親が


すぐに気に入って


すごく気に入って


二宮さんご夫妻と意気投合もして


結婚式をプレゼントしてくれると


言い出したのは


それからすぐのことだった。





智父📱「男同士は、厳しい道だぞ」


智母📱「だけど私たちはいつだって


あなたの味方よ。


たとえ世間の全てが敵に回っても


私たちだけはあなたの味方よ」


智父📱「二宮さんも祝福しておられる。


お前は四国中を探しても


なかなか見つからない良い男だって」


智母📱「門出は、ちゃんとしましょう」


智父📱「誰か呼びたい人はいるか?


二宮さんの旅館で


お世話になった人達を呼んで


食事会をすることになった」


智📱「それなら三人追加してくれる?


南の島で俺たちふたりが


世話になった人らがいて・・・」





俺とseñoritaが世話になった


あの楽しい人達に声を掛けると


ふたつ返事で


南の島から駆けつけてくれた。





なぁ・・・和。


俺たちを祝福してくれる人たちを


見てごらん。


こんなに多くの人達が


俺たちの為に喜んでくれている。




これを幸せと言わずして


なんて言うんだ・・・?





和「幸せだよ。


生まれてきて・・・よかった・・・


あなたに出逢えて・・・


本当に幸せ・・・」






瀬戸は夕暮れ


明日も晴れる。


ふたりの門出、祝っているわ・・・





あと少し続きます。

コメ返お待ちくださいませ。🙇‍♀️