side N




勇気を出して送ってみた。





会って話がしたい






捻り出した文言は一行だけ。


未練たらたらの僕のラインは


なかなか既読にならなかった。






気になって仕方なくて


一日に何度もチェックした。


だけど・・・一向に返事も来ないし


既読さえ付かない。





海上にいるのかな・・・





翔さんに訊ねると





「智さんの船は既に出港してしまった」





もう・・・終わった・・・と。


・・・諦めてしまえたら


どんなに楽だろう。





一日千秋。





携帯を気にしている自分が虚しかった。


ただ時間が過ぎるのを待つことが


・・・悲しくて・・・


・・・寂しくて・・・






旅館の掃除や洗い物を手伝っても


時計の針は遅々として進まない。


溜め息はお腹の底から吐いて吐いて


吐き果てるところまできていた。






和父「なんか作ってみろ」






厨房の端っこを


お前のスペースだと許された。


出入りの業者は新鮮な野菜を届けてくれた。






それで。


señoritaのピクルスに再び取り掛かった。






南の島で採れる野菜とは


微妙に味が違う。


それはどうしようもないけれど


ここ瀬戸内で採れる野菜も美味い。


野菜だけじゃない。


柑橘系の醸造酢が


なんとも深いまろみや


深い味わいをもたらしてくれる。





和母「señoritaのピクルス


箱で注文したのが届いたわよ」





父さんが食べ比べをしたのを合図に


母さんも


板前さん達も


肥えた舌で食べ比べをしてくれた。





雄一「すげぇ。美味っ」


親父さん「和くんは。


特に根菜を使うのが上手いね」





島のピクルスに味を近付けるのは


みりんや酒、糖類を調整することで


可能かもしれない。





だけど。


そうじゃない。


そういうことじゃない。




素材の味を生かして


調味料で誤魔化さず


独特の風味を生かしたい。


均一性よりも。


その土地で採れた新鮮なものに


あまり手を加え過ぎず


美味しいものを届けたかった。






「señoritaのピクルス瀬戸内版にしたら?」


「あ!それ!いいっすね」


「そっちは南の島🏝️マーク入れて。


こっちは瀬戸内🍋マーク入れて。どう?」





・・・うん。


それなら。


消費者に嘘をつかなくて済む。





和「一緒にやっている仲間がいるので


意見を聞いてみます」





翔さん、相葉さん、潤くんと


グループラインを繋いで


ああでもないこうでもないと


企画会議をやった。


こっちから試作品を送ると


是非商品化しよう!と言ってくれた。


次から次へとアイデアがいっぱい出てきた。





「そっちってさ。


オリーブ🫒もあるでしょ?」





オリーブか。


それで。


瀬戸内のオリーブやレモンも


漬けてみることにした。


瀬戸内二宮旅館のお土産コーナーに


試しに置いてもらったら飛ぶように売れた。


翔さんが東京のデパートに


サンプルを送ってくれて


東京でも売り出して貰えることになった。





出来ることが見えてきたら


早朝から夜遅くまで厨房に立つことが


楽しくなった。


そして一日が終わるのが早くなった。





和母「お風呂、最後よ。


入れ替えたいから入っちゃって」


和「はい」





お客さん時間の終わった旅館の


広い露天風呂に入って疲れをとる。


満天の星が見えている。






智さんも・・・見てる?


この同じ空の下


あなたもきっと何処かで


同じものを見ている・・・





そう思うだけで


まだ終わっていない、と感じられた。


まだ繋がっている、と・・・思いたかった。






ある夜のこと。


風呂から出て携帯をチェックすると


ひとつ。


未読のお知らせがあった。


心が跳ねた。


それは待ちに待った人からのライン。


僕が送った日から三週間を過ぎていた。





智📱「呉にいます」





呉って、呉?広島の?




始発で行けば


8時台には呉港に着く。





和📱「始発で会いに行きます」







しばらく間があって





智📱「呉の駅まで迎えに行きます」





行っていいんだ///


会ってくれるんだ///






ドキドキして眠れない。



眠れないよ・・・