☆*:.。. o(≧マグロ漁船≦)o .。.:*☆
side N




ここに流れ着く前の僕は。

地元の高校を卒業後

調理学校に通う為に田舎から出てきて

大阪で一人暮らしをしていた。

実家は瀬戸内で料理旅館を営んでいる。



父親ゆずりの日本料理部門。

それなりに真面目に取り組んでいたら

根菜の煮炊き物でAの評価をもらった。

やった!と思ったのは一瞬だった。

周りの人達はB、Cの評価。

それからは仲間に入れてもらえず

都会に馴染めなくて、ひとりぼっち。



・・・いいや。

オンラインの向こうの人達と

世界を救いに行くから。

リアルな友達なんて・・・




そう思っていたところに。

声を掛けてもらえた。




「小料理屋のバイト、やってみない?

うちの親父がやってる小さな店だけど」




そいつ。

魚部門でAの評価を貰えたやつ。

友達いない同志ってやつ。

陰キャ同志だけど

切磋琢磨というのかな。

一通りの日本料理を作れるように励んで

年末にはお節料理のために

ふたりで朝から晩まで仕込みをした。





南港にあるその店は繁盛していた。

おやじさんは親切にしてくれて

温かい賄い飯を食べられるから

正直助かった。




年を越して

調理師免許を無事にもらえて

卒業レポートの提出も終わり

故郷に帰って親の営む旅館を継ぐか

それとも此処で、もう少し修行するか

大いに悩んだ。



「お前ん家の料理旅館で修行してくる」



おやじさんの。

他人さんの飯食べた方がいいという教え。

こっちで出来た唯一の友達が

自分の親の料理旅館で働くことになり

そして自分は。

両親はまだまだ元気だから、と

そのままこっちに住み込みで

包丁を握るようになっていた。




そんなある日のことだった。

店の前で喧嘩が始まった。

珍しいことではなかった。

オシャレな港街に生まれ変わったけれど

ここ南港は。

ならず者達の故郷でもあった。




おやじさん「和くん。

危ないから相手にせんとき」

和「・・・はい・・・」



暖簾を出すのは、喧嘩が終わってから。

そう思って店の中で

出汁をとったり野菜を切ったり

おやじさんとふたり下拵えをしていた。




だけど喧嘩は一向におさまらず

とうとう店のガラスがガシャンと割れた。




おやじさん「もう通報するしかないわ」




警察を呼んだのは、うちだけではなかった。

サイレンが鳴って

悪党どもが次々に連れて行かれる。




ようやく騒ぎが収まったところで

店の前のガラスを綺麗に掃いて

壊れたガラス窓に障子紙を貼って

なんとか暖簾を出した。




男「おい。ちょっと顔かせや」



その時、屈強な男に手を引っ張られた。

きっと僕がひ弱に見えたから。



おやじさん「おい。

うちの子に何するねん?」

男「こっちは仲間ようけ捕まったんや。

数が足りんねん。ちょっとコイツ借りるわ」

おやじさん「やめてくれ。

その子はカタギやねん。置いてってくれ」

男「用事済んだら帰したるわ」



なんとか逃れようとしたけれど

男には仲間がいた。

大きな船に連れ込まれ足を繋がれ

僕は「雄一」と呼ばれた。

それは友達の名前だった。

ということは。

この悪党はおやじさんと息子のことを

知ってるってこと・・・




おやじさんが岸まで追いかけてきて



おやじそん「その子、無事に返してくれ。

頼むわ」

男「用事済んだら帰す言うたやろ」

おやじさん「どこ連れて行くつもりや?」

男「美味い魚を土産にするからな」




エンジンオイルの匂いがする。

無情にも船は岸から離れていく。

おやじさんがどんどん小さくなる。

店・・・大丈夫かな・・・






だけど。

店の心配をしてる場合ではなかった。

確かに漁船なんだけど・・・

この船・・・やばい。




夜中。

十分に沖に出たところで

周りに船が集まってきた。

繋がれた足は青いビニールで隠されて

僕の目の前のテーブルには

白い粉の入ったビニール袋が

小分けにされて並べられた。

目の前に札束がどんどん積まれていく。




犯罪に・・・巻き込まれてしまった。

こんなの見てしまって

もう無事に帰れる筈がない・・・



いや。

自分は。

見ただけでは済まされない。

実行犯にされているんだと気付いた。

だって。

顔が割れてるのは僕だけ。

さっきの怖い人ら。

みんな帽子にマスクしてる・・・




「雄一。お前、なんか色っぽくなったな」




それはヤバイ取引の終わった時。

札束を握る男らが僕を取り囲んだ。




・・・え?

・・・なに?