side N

 

 

 

やっと会えた・・・




 

少なくとも僕は・・・

 

見つめあって手を取るずっと前から

 

もうあなたに堕ちていた。

 

 

 

 

 

人が少なくなった海辺のバー。

 

11月の夜は駆け足でやってくる。


翔さんに雇ってもらった

 

バーの裏手からそっと入ると




・・・あ///


あの人・・・僕の待ち人・・・///


この時をずっと待っていた・・・




 

その人はひとり静かにカウンターに座り

 

バーボンを飲んでいた。

 


 

 

 

 

翔「今回の滞在はどれくらいなの?」

 

智「二週間くらいかな・・・」

 

 

 

 

たった二週間・・・



 

二週間で船出をしてしまう・・・





二週間でもいい。


少しでも近くに居られるのなら・・・

 





バックヤードの隅っこのカーテンの奥で


こっそりウィッグを着け


リップを塗る。


翔さんに教えてもらったあの人のタイプ。





翔「俺の知る限り、智さんは


女を切らしたことないんだよな・・・」





女か・・・





ここの制服に着替えながら


翔さんとあの人の声を拾う。



 

 

 

智「うん。バーボン一択」

 

 

 


なんて良い声・・・


なんて甘い声・・・

 

 

 

ドキドキしながら


空になったグラスを下げに行く。 


どうか震えていることに


気付かれませんように・・・


男だと気付かれませんように・・・


 


 

和「・・・///」

 

智「あ、すみません」

 


 

 

震えてた手、握られちゃった///


その手が今も脈打っている。


ドキドキは手から心臓へ


そして全身に広がっていた。

 

 

 

 

翔「これをそちらのお客さまに」

 

 

 

僕は無言で頷くと

 

バーボンをお盆に載せて運んだ。


こぼさないようにしなくちゃ。

 

嗚呼・・・


どうかこの胸のドキドキが


バレませんように・・・

 

 

 

 

 

智「ありがと」

 

 

 

お辞儀をして顔をあげると


その人とバッチリ目があった。



 

高い鼻・・・ぽってりとした唇・・・

 

血管の浮き出た逞しい腕・・・


その腕で助け出してくれましたよね。


僕をマグロ漁船の冷凍庫から・・・


凍死する直前の僕を抱き上げて


南の海に飛び込んでくれた。




 

智「・・・・・」

 

和「・・・・・」

 

 


 

その姿に見惚れたまま目が合うと

 

あれ?・・・どうして?

 

目線が外れない・・・

 

僕が見つめ続けているから・・・?

 

 

 

ふたり見つめあったまま・・・

 

汐風が僕らの間をすり抜けていく・・・

 



*ララァさんのお写真です*




波の音が耳に帰ってきた。

 

海辺の楽団から

 

Shawn MendesとCamila Cabelloの

 

♬Señoritaが流れていると気付いたのは

 

海辺へと降りていく途中だった。

 



そんな素敵な恋は


僕に許されていないけれど・・・





翔さんを振り返ると無言で頷いてくれた。





 

僕のこと何も覚えてないでしょう?


僕はあなたのこと知ってるよ。


これって、ズルイ?


ぎゅっと手を繋いでみる。


僕のドキドキは止まらない。


まるで心臓がこの手の中にあるみたい。

 

 

 

 

智「señorita(お嬢さん)」

 

和「・・・・・」

 

 


11月の風が冷たく頬をピシャリと叩く。 


本当の姿じゃない。


欺いていると・・・


心のどこかで警鐘が鳴る。





こんな借りの姿で・・・


声も出せないまま・・・




僕ってシンデレラ?


それとも人魚姫?


そんないいもんじゃないね・・・ 

 




だけどもうそんなこと考えられない。


考えたくない。




ただ・・・見つめあっただけ。

 

それなのにもう・・・

 



この身体の疼きに逆らえない。


繋いだ手からジンジンと波が押し寄せる。


触れてもらったその箇所から


Z・・・La La La・・・


熱く熱く・・・


トキメキがこの身を駆け巡る・・・




せめて今だけ・・・


あなたの腕の中にいさせて・・・