(和)



そのK大学卒業生による歓迎会には


欠席と返事をしたつもりだった。




✉️今から帰ります。




くふふ。先生、すぐに既読がつく。




✉️気をつけてお帰り。おつかれさま。




優しい言葉にニヤニヤしちゃう。


アウェイな職場からスキップしながら


門を出たところで




教務部長「おおお。和先生。こっちです」




よりによって教務部長に見つかり


祇園の高そうな料理屋さんに連れられた。





ズラリと並んだ先生方は見事に男ばかり。


母校の先輩ばかりだという。





教務部長「蛇先生が頑張ってくれましてね。


なんと男性陣、全員参加ですよ」


和「はぁ・・・すみません・・・」





目の前に先付けが運ばれビールが運ばれ


とても逃げられそうにない・・・




教務部長「あれ?肝心の蛇さんは?」



助教「蛇先生はやんごとなき用事があって


今夜は欠席とのことです」



教務部長「そうかそうか。


では、和先生の前途を祝して、乾杯」




ぱちぱちぱち👏👏👏・・・




教務部長「和先生、一言」



和「あ、あの・・・今夜は有難うございます。


どうぞ宜しくお願いします」




当たり障りのないことを言ってみる。


早く帰りたい一心で。





四月のお料理は、桜尽くし。


先付けから桜の塩漬けが添えられて


お膳は桜を施した和紙で飾られて


出てくるお料理は桜花色の和食器に


美しく盛られていた。




八寸

桜生麩のお吸い物
鯛の昆布〆、刻み茗荷と針胡瓜添え
穴子煮凝り、アスパラ添え
近江牛の時雨煮、菜の花添え
南禅寺の豆腐、桜餡掛け
京野菜のおばんざい
京野菜の揚げ物
筍ご飯
伊勢海老のお味噌汁
苺の氷菓子​、桜のゼリー寄せ




こんなに食べ切れないよ・・・





僕の前に次から次から


偉い先生方がお酒を注ぎにくる。


帰るチャンスは・・・無さそうだ。


僕はゲンナリして諦めた。




舞妓さん「おおきに」




綺麗な舞妓さんまでやってきて




困ったな・・・


先生に連絡できないまま・・・


時間がどんどん進んでしまう・・・




教務部長「和先生。もう一軒行きましょう」


和「いえ、明日もお仕事ですし


僕はこれで・・・」


教務部長「いやいや!」




教務部長は離してくれなかった。


祇園の料亭からスナックに移動して


酒と煙草と女の香水の匂いが入り混じる中


僕の前にロックがどんと置かれた。




お酒・・・強くないんだけどな・・・



でも、これを飲まないと帰れない?



一杯飲んでも二杯飲んでも


次から次へとお酒が出てくる。




お手洗いに立った時


ふらりと立ちくらみがして


近くにいた長身の人に支えられた。




雅「え?和くん?えええ?」





あ、相葉さん・・・



トイレでリバースして


そこからどうなったかわからない。


八坂神社の階段までは歩いたような・・・




相葉「大野先生に連絡した。


和くん、危なかったよ」


和「有難う。危なかった、とは?」


相葉「あの人たち。


男は初めてだって話してた。


和くん、やられるところだったんだよ」




・・・え・・・?まさか。



慌ててお尻を押さえた。





その時・・・



丸竹夷ニ押御池 姉三六角蛸錦



童歌と共に桜の花が何処からともなく


舞い落ちた。



まるで・・・よく見る夢のように・・・



夢なのか現実なのかわからない。



だけど・・・桜が残っていた。



*ララァさんのお写真です*





雅「あ!先生」


智「相葉!世話になった」




先生が来てくれた。




白川疏水の入り口で相葉さんと分かれた。


今度、ちゃんとお礼をしよう。




智「あんま・・・心配・・・かけんな」


和「・・・ごめんなさい・・・」




先生の背中に負ぶわれて


哲学の道を一歩一歩帰る。




何処かで猫の鳴き声がする。




あ・・・また・・・



丸竹夷ニ押御池 姉三六角蛸錦・・・




ひらひらと桜の花弁が


白川疏水を流れていく・・・



いや、違う・・・



流れてきたんだ・・・



遥か幽玄の彼方から・・・



四綾仏高松万五条 


雪駄ちゃらちゃら魚の棚・・・



桜花からどんどん妖が出てくる。


先生の背中で


僕は守られながら


綺麗だと思ったそれは次々と妖に変わった。


何匹もの桜の妖が襲ってくる。


ベロンと頬をねぶられて


時の彼方へと


疏水の向こうへと


連れて行かれそうになっていた。



怖い・・・先生!!!




🐈‍⬛ニャー チリンチリンチリン📿




その時、一匹の白猫が宙を斬って


僕を目掛けて突進して来た。