(鮫島零治)



文化祭の日の午後。


体育館には黒い厚手のカーテンが閉まり


演劇部さんが音響・照明をやってくれて


いざ、俺たちの出番となった。




なんと・・・前列には保護者がズラリ。


嵐のウチワとペンライトを持ってる。


俺はリーダーのウチワを見つけると


犬の尻尾みたいにぶんぶん手を振った。




・・・あ・・・


大野さんを見つけた。


そこだけ光が当たっているかのようだ。




隣にいるのはお母さんかな。


すっごく仲の良い母と娘だ。


お母さんの肩に頭を寄せて


クスクス笑う大野さんがめちゃ可愛い。


あんな顔して笑うんだ・・・





見ていると・・・


自分の母親をちょっと思い出した。





相葉「Oちゃん、どうしたの?」




失敗した。


上手く歌えなかった。




松本「もう一回、あるから」


櫻井「俺もね、緊張した」




大野さん・・折角聴きに来てくれたのに。


混んだ体育館の出口で前後になった。


大野さんはお母さんとふたりで


どうやらお兄さんの教室へ行くみたいだ。


卒業研究の発表の時間云々と聞こえた。


というか。


聞き耳を立てて、聞いていた。




櫻井「俺らも、行く?」



・・・行きたい。


っていうか。


行く。




高校生の展示はレベルが違っていた。


お兄さんは物理系の研究で


「波」をテーマに2万字の論文発表。


彼女さんがパワーポイントで資料を出す。


その阿吽の呼吸とレベルの高さに


俺も櫻井くんも。


口をポカンと開けて見ていた。


言ってることの1/10も理解できない。




お兄さんの研究発表の後


今度は彼女さんの発表となった。


テーマは「音」


今度はお兄さんが補助に回る。


こんな関係、素敵だな・・・


なんて見ていた。




先生「質問はありますか?


・・・中学生が来てくれていますね。


質問、あるいは感想を聞いてみましょう」




やっべ・・・




ここがスゴイ場所だと気付いたのは


この時だった。


教室の奥にはズラリと


物理・化学・生物・地学の先生方が


何か書き込みながらこちらを見ている。


俺も櫻井くんも固まった。


汗をタラタラ流して沈黙していると。




大野詩「音も波のひとつだと思いますが


波の中でも音について研究されたのは


何か理由がありますか?」




・・・助かった。


っていうか。音って、波なの?




華麗なる大野さんが居てくれてよかった。


次の人が発表準備を始めたから


俺たちは慌てて廊下に出た。




大野詩「さっき、どうしたの?」




・・・え?お、俺?



大野詩「いつもの練習通り、歌えば?」



・・・あ。



零治「き・・・緊張して・・・」



今も緊張してまっす。



大野詩「いつもはもっと上手なの」


大野和(母)「後でもう一度、行こう」


大野詩「うん」




・・・もう一度、聴きに来てくれる。


大野さんと大野さんのお母さんが。


よく見ると・・・


嵐さんのウチワ。


リーダーのウチワだ。


お母さんのも大野さんのも。


ふたつとも・・・リーダーのウチワ。




俺は。


にへらにへらと顔が緩んだ。




零治「リ、リーダーの担当ですかっ?」



勇気を出して訊いてみた。



大野詩「うちは全員サトシックよ?」



自分は鮫島零治で


嵐のリーダーじゃないのに。


まるで自分の担当だと言われたみたいに


浮わついた。


少なくとも。


学年イチかっこいい松本くんより


俺よりずっと頭の良い櫻井くんより


俺より手足の長い相葉くんより



俺がイイと・・・


そう言ってくれてると・・・



都合よく脳内変換した。



大野詩「これ、貸してあげるから」



iPodだ。



綺麗なハンカチで


イヤホンを拭いている。


ふ・・・拭かなくて、大丈夫・・・


お母さんが除菌シート出した。


あ・・・余計なことを・・・


さらにそれで綺麗に拭いて・・・




大野詩「リーダーの声、よく聴いて」




♬ I seek リピート♾


パパラパラパラ〜🎺🎺




やっべぇ・・・



大野さんのiPod・・・



しかもイヤホン付き・・・



俺の手に置いてくれた大野さんの手は



真っ白で


ぷくぷくしていて・・・


隣で除菌シートとハンカチを持っている


お母さんの手に・・・そっくりだった。