(智)



鳰(にほ)の海はあまりに大きかった。



もしや流されてしまわれたか・・・



波は静かだったので



私はかなりの距離を湖の中まで進んだ。



月光が湖面に降り注ぎ



美しいばかりの宵だった。



何時間経過しても見つからず



体力を使い果たしてしまっていた。



皇子さまが見つからなければ



私の命だけでなく



家中のものが成敗されてしまう・・・



何ということをしてしまったのか。



このままでは帰れない。



なんとしても皇子さまをご無事に



連れ帰らねば・・・と己を責めた。



あの可愛らしい様子が思い出されては



もっと優しくしてやればよかったと



悔やまれて・・・



探して探して探して・・・



体力の限界を超えても泳いだ。



空が白んできた頃・・・



私の足には無数の藻が絡み付き



もうそれさえも取れないほどに



疲弊していた・・・






父よ・・・母よ・・・



情けない私をお許しください。



せめて私の代わりに皇子さまのご無事を。



そう祈りながら湖水の中で目を閉じた時



すーっと身体が浮くのを感じた。



もう何がなんだか分からない。



天国へ連れて行かれようとしているのか。



導かれるままに



鳰の海の岸辺の芦まで



誰かに運んでもらうのを感じていた・・・





*赤ずきんさんの絵です*




助けてくれたのは、美しい人魚だった。


幾夜、彼に憧れて湖面に臨んだか。


皇子さまがご無事なら


胸踊った筈の・・・


はじめての触れ合いだった。


岸まで送られた私は


朝の鳥達が何やら騒いでいる声を聴いた。





人魚🧜‍♂️「必ず子どもを連れてくるから


ここで待ってて」




美しい人魚は鳥の鳴き声に向かって


真っ直ぐに泳いでいった。




やがてそれと反対側から


舟がその方向へ進むことに気付いた。





皇子さまはご無事か。





そう思うが早いか


舟から銛(もり)が人魚を襲うのを見た。





智「やめろ。やめてくれ」




人々「人魚だ。捕らえろ」


人々「人魚だ。


ハ百年の寿命だ!」



智「やめてくれ。


彼は恩人だ」




舟から何本もの槍や銛が


人魚を突き刺す。




智「やめてくれ」




あれだけ穏やかだった湖は


怒り狂ったように


大きな轟音を響かせて


まるで海のような大きな畝りを見せて


舟を一瞬のうちに呑み込んだ。








こちらにございます⬇️


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