(智)
デパートの三階の催し物コーナーは
お中元の特設会場になっていた。
俺は寸法が知りたくて図面をお願いした。
高さ、奥行き、柱の位置、そして電源。
櫻井「花を生けてくださる先生方とも
いずれ打ち合わせを考えています」
正面玄関からの動線も考えた。
素敵な花の道にしたかった。
受け取った売場の図面と睨めっこをして
女子が淹れてくれたコーヒーを飲み・・・
そうだ。
・・・花を買いに行こう。
机の上の一昨日の薔薇の水を入れ替えて
ふらりと出てきた。
爽やかな香りのする店内には
草花で素敵なブーケを作るいつもの人がいて
そして・・・
俺の二宮さんが奥の薔薇のコーナーに居た。
ドキン。
背中を見ただけで愛おしい。
柔らかな髪がとても素直なんだ。
華奢な肩を抱きしめたい。
今すぐに、道玄坂のホテルに連れ込んで
イケナイコトを白昼からやりたかった。
だけど。
俺は紳士のふりをした。
獰猛な部分は隠して笑顔で近付いた。
*ララァさんのお写真です*
彼に優しくお手入れされた花は
どれも幸せそうに咲(わら)っていた。
智「今日はどの花を選んでくれるの?」
和「・・・いらっしゃいませ・・・」
そっと目を閉じて柔らかくはにかむのが
・・・たまらない。
抱きしめたい。
キスしたい。
その柔肌を貪って本能のままに突き上げたい。
俺の下に組み敷いて・・・
和「・・・さん。これは・・・?」
あ。イケナイイケナイ。
智「それは・・・?」
和「この薔薇は香りが特別いいの」
一昨日の薔薇と一緒に生けよう。
・・・いや。
また預かってくれる・・・?
うちで飾るのも、いい。
その一輪を二宮さんの手ごと包み込んで
・・・まさか、他の客もこんなこと、する?
俺だけだと言って欲しい。
甘く目線が絡みあって・・・
触れた指先に電流が走り・・・
薔薇の香りが俺たちふたりを包み込んだ。
・・・その時。
A子「やだぁ。大野さん。
薔薇を見にいらしてたんですかぁ?」
うちの女子社員に見つかった。
二宮さんがさっと身を引いて気配を消す。
A子さん「綺麗な薔薇」
二宮さんの薔薇を横から嗅いで
うっとりした表情を見せる。
智「あとでまた来ます」
A子さん「あ。大野さん、待って」
そぅーっとしておいて欲しかった。
俺と彼の大切なひとときに
土足で入り込んでこないで欲しかった。
二宮さんがどんな表情で
俺たちを見送っているかを
想像する余裕もないままに
俺は事務所へと駆け上がっていった・・・