(智)


・・・しまった。


やらかした。失敗した。


泣いてたよな?


泣かしたの、俺だよな?


俺は必死で後を追いかけた。


俺だって抱きたいよ?


必死で誘惑に打ち克ったつもりだった。


大切にしたいから・・・


ふたりのハジメテを大切にしたいから・・・


だけど傷付けたんだ。


俺の痩せ我慢のために。


俺がカッコつけたばかりに。




アイツ、足、速いな。


瀬田の交差点から先は玉川通り沿いに


駅の方へ駆けて行くのが見えた。


俺は道の寂しくなるところへ廻った。


治安の良い街だけれど


もしものことがあったら・・・


そう思うとじっとしていられなかった。




(和)


遠回りしちゃった。


一度駅まで戻った僕は


実家へのいつもの道を歩き始めた。


涙はもう乾いていた。


・・・


・・・・・


僕。怒ったりするんじゃ、なかった。


・・・ご馳走さまも言えないで・・・


よく考えてみれば、泣くことじゃない。


好きだと言ってくれたんだし。


・・・


・・・・・


それよりも。


実家まであと少しのところに学校があって


夜は寂しくなっていて。


僕の真後ろをコツコツと革靴の音がする。


気にしない、気にしないと


思いながらも・・・


さっき全速力で走ったから


足が痛くなっていて・・・


もしもの時は靴を脱いで走って逃げようと


そう思っていた・・・


だけど、いよいよ距離を詰められて


どうしよう!と思ったその時。


和母「・・・あ・・・和!」


母さんと大野さんがふたりで街頭の下に


立って僕を待っていてくれた・・・


僕の後ろの人は暗闇に消えていった。


和母「こちら大野さん」


・・・知ってます。


和母「こら。ご挨拶なさい。


和を心配して来てくださったのに」


智「あ、いえ。無事ならいいんです。


おやすみなさい」


和「・・・おやすみなさい・・・」


・・・僕を心配して・・・


素直になれない心を温かな風が包み込む。


僕を心配して・・・


大野さんの足元は・・・


室内履きのスリッパのまま・・・