(和)


目覚めた時には病院のベッドの上だった。


僕に突っ伏して眠っているのは・・・


・・・智・・・


その奥にバイオリン🎻が見えた・・・


ドアをノックする音が聞こえて


慌てて眠ったフリをした。


翔「智さん。ご隠居と大奥さまです」


智「お。・・・爺ちゃん婆ちゃんか」




爺さん「また何をしでかして病院に?」


婆さん「おやまぁ。綺麗な子ね」


智「和也っていうんだ。俺の嫁」


(和)!!!!!


爺さん「なるほど。で、・・・この子の首は、どうしたのかな」


智「バイオリン🎻の弦が切れたんだ」


爺さん「可哀想に。痛そうじゃ」


婆さん「この子、うちで預かろうかね」


(和)・・・!!!👀!!!


智「え???なんで?」


婆さん「智の嫁ならば、嫁教育が必要ですよ。お茶、お花、お習字、着付け、短歌、これくらいは必要ですよ。銀座の店に出しても恥ずかしくないように育てておかないと。お前さんの母上殿に虐められますよ」


爺さん「美咲さんとかいう候補は。あの子はもう銀座の店を乗っ取ろうと躍起になっておったわい。この子もひとりで何処かの部屋に閉じ込められていたら可哀想じゃ。戦ってこい」


翔「・・申し訳ございません。今までどうしていたのかと聞かれまして・・・」


婆さん「退院したら、いらっしゃいね。カリブ海のお話もしましょう。バイオリン🎻も聴かせてちょうだい」


和「・・・はい・・・」



🌼もえこさんの絵です💛




智「和っ!!!起きてたの?

いつから?👀!!」


婆さん「はじめから、ね。うふふ」


和「はい。はじめまして」


婆さん「すぐに呉服屋さんを呼んで寸法を測らせないと。忙しくなるわね」


爺さん「櫻井。ここに呼んでくれ」


翔「かしこまりました」



🌼もえこさんの絵です💛


僕の暮らしは一転した。


病室には毎日、智のお爺さまとお婆さまがいらして、いろんな稽古をつけてくださった。


はじめに習字、五七五の俳句、川柳。


俳句用に、季語。


それから三十一文字(みそひともじ)の短歌。


百人一首も全部覚えさせられた。


連歌を一日中、お爺さまと詠み続けた。


起き上がれるようになると


すぐに呉服屋さんがいらした。


婆さん「訪問着、色無地、大島をとりあえず二着ずつ。それぞれの着物に長襦袢付けてね。裏地も八掛も全て正絹(しょうけん)でお願いね」


呉服屋さん「織元のご指定は、いつものところでよろしいでしょうか」


婆さん「加賀友禅の訪問着をひとつ作りましょうか。他は京都の方にもお願いして」


呉服屋さん「かしこまりました。紋は、いかがなさいましょう」


爺さん「大野の紋を」


婆さん「無地にはひとつ紋と、いつつ紋を」


呉服屋「かしこまりました」


そうして退院する頃には


僕の寸法で着物も出来上がり


お婆さまに連れられて


僕は極道の社交会にデビューすべく


料亭でのお食事のお作法


帛紗や着物の畳み方


襖の開け閉めに至るまで


厳しく躾けてもらったんだ。