夢のように幸せなマレーシアからの

空の旅が終わって 日本に帰国してすぐに

ノエルから着信があった。

📱ノエル「到着口におりますが、専務の奥さまがいらしています」

📱和「・・・そう・・・」

鏡が割れる音がして・・・

それが鏡ではなく自分の心だと気付いた。

智に、「先に出ていて。ちょっとトイレ」と嘘をついて、俺は京成本線に飛び乗った。

まーくん💚家に泊めてもらおう。

佐久間「和さま、足速いですね」

あ。しまった。佐久間を忘れていた・・・

さすが護衛のプロだ。

佐久間がノエルに連絡をして

俺の動きは既に智にバレていた。

佐久間「幕張本郷の駅に車をつけるとのことですが」

和「智を返してあげないと、ね。断って」

佐久間と二人、幕張本郷から歩いてまーくんのお店に寄った。

ランチの時間の終わりかけで

お客さんは一人だけだった。

相葉「おかえり、和くん💛」

和「まーくん💚タイガーバームあるよ」

いつものお土産を渡して

まーくんの店のランチをいただいていると

俺の目の前に、スーツ姿の・・・智に似た

男の人が、スッと立って俺を見た。

和「・・・?」

佐久間「失礼ですが、何か?」

成瀬「・・・あ、すみません。知人によく似ていらしたので・・・。あの、これをどうぞ」



和「・・・え・・・?」

成瀬「もらってください」

その人は身を翻して勘定を済ませ、店から出て行った。

相葉「和くん達の分も払ってくれたよ」

和「・・・誰?」

相葉「弁護士の成瀬さん。お姉さんがこの先の病院に入院しているらしいよ」

俺は百合の花束を持って、成瀬さんを追いかけた。

和「待って。待って。これ、お姉さんに」 

息を切らせて、呼吸を整えていると

成瀬「あ・・・失礼」

俺は花束ごと、この初めて会った弁護士さんに手を握られていた。

和「・・・あの、手を離してください」

目の前に黒塗りの車が停まる。

中から殺れそうな目をした智が出てきた。

成瀬「大野さん」

あれ?智を知っているの?

智「成瀬さん、お久しぶりです」

成瀬「もう、シオリさんの弁護は下りました。友好的になっていただけますか?」

その瞬間、智の手が宙を舞って成瀬さんに向かったから、俺は咄嗟に智に抱きついて止めた。

成瀬「・・・そういうことか・・・」

まーくん💚が出てきて、外で騒ぎになるのも困るから、店に戻ってと、

俺と智、成瀬さんはまーくん💚の店の円卓を囲み、事実関係を確認した。

俺と智の関係は、すぐにバレてしまった。

和「あの。成瀬さん、大野の側の弁護を引き受けていただけませんか?」

成瀬さんは、はじめは断っていたが、やがて少し考えさせてくださいと帰っていった。

あ・・・百合の花束を返せなかった・・・

智に促されて、その日は広尾に帰った。

和「奥さまのところに行ってきて」

智「もう空港で用は済んだ。もともと、こちらからは直接会う用事も何もないんだ」

和「ご用事は、どんな?・・・あ、いや、いいんだ。ごめん」

百合の花束から甘い香りがして

俺はその匂いを嗅いだ。

智が無表情で百合を取り上げて

和「あっ。やめて」

百合を地面に振り下ろそうとするから

慌てて止めた。

和「・・・さとし・・・」

智「百合の花は苦手なんだ・・・ごめん」

俺は黙ってその花束を持って

マンションのコンシェルジュのところへ行き

ロビーに飾ってくださいとお願いしてきた。

部屋に戻ると

和「っ!!智!!」

智が苦しそうに息をして

智「・・・和・・・」

袋にゆっくり息をしてもらい

背中を撫でて

和「お花はマンションのロビーに飾ってもらうから、怒らないで」

智「どこにも行かないで」

和「うん」

智「俺の側にいて」

和「うん」

ソファーに二人で座って 

暮れていく東京の空を静かに見つめた。

もう離れられない。

離しちゃいけない。

夕飯は作る材料が何も無くてデリバリーを

頼んだ。日本の味が美味しかった。

夜遅くに、智の側の弁護士から連絡がきた。

智「・・・無効?結婚そのものが?」

それは、結婚そのものを無効とする内容で

この先の調停を進めていくというものだった。

・・・成瀬さんが動いているんだ。

智にそっくりな成瀬さんを思い出して

俺は自分で驚き、そして戸惑った。

トキメキのようなものを・・・感じていた。

だけどすぐに智を想った。

既に智は俺の伴侶だった。

俺らは一対のなにか。サンダルの右と左。 

俺の中から溢れ出る想いは、愛だ。

智に与えたくてこの胸から溢れ出てくる。

そして奥さまを思った。

あの、可憐な方。どうすればいいのだろう。

智が背後から俺を抱きしめて

智「何を考えている?」

和「幸せのゆくえ」

俺は振り返って智を見つめた。

真っ直ぐな愛をくれる人。

和「幸せになろう」

まもなく東京タワーの電飾が落ちる。

俺と智、二人きりの愛の時間が始まる。

まず、俺と智で幸せになろう。

仕事の成功は俺に自信を与えた。

不安を抱えた智に、俺を与えたくて

俺は自分からボタンを外した。