6月12日の地元紙一面から

 

 

政府骨太方針案 1%超の経済成長目標

賃上げへ「政策総動員」

 

政府は11日、経済財政諮問会議を開き、経済財政運営の指針『骨太方針』案を公表した。

人口減少が深刻化する中で社会保障を持続させるため、実質国内総生産(GDP)の成長率が1%を安定してい上回る経済をあるべき姿として提示。物価を上回る賃上げによるデフレ完全脱却に向け「あらゆる政策を総動員する」と強調した。

 

とあります。

目指す所はいいと思います。

 

実質GDPが伸びることは即ち国内の実質総所得が伸びるということ。むしろ「伸ばさなければ国民は貧しくなる一方」です。

因みに現実は5月16日発表の2024年1-3月期の実質成長率(1次速報)は前期比-0.5%(年率換算-2.0%)と2四半期ぶりのマイナス成長。この事実は重く受け止めなければなりません。

国民経済計算(GDP統計) : 経済社会総合研究所 - 内閣府 (cao.go.jp)

 

是非目標達成のため「あらゆる政策を総動員」して欲しいです。

 

にも拘らず、同じ紙面上にあるもう一つの見出しが

「25年度の財政黒字堅持」

です。

 

記事によれば「財政健全化のため、政府の歳出歳入から借金(国債)に関わる部分を除いた基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2025年に黒字化する現行目標を堅持する一方、26年度以降の取り組みを後戻りさせない姿勢にとどまった」と報じられています。

 

私としては「あらゆる政策を総動員」するのであればPB黒字化目標など真っ先に再送りすればいいではないかと、強く思わずにはいられません。

といいますか、PB黒字化目標を堅持しながらGDPの成長率を維持するなど無理です。

 

そもそもGDPとは国内総生産であり、国内総消費であり、国内総所得のことです。その式は

 

Y(国民所得)=C(民間消費)+I(民間投資)+G(政府支出)+(X-M:輸出-輸入)

 

で表されます。要するに国内で動いたお金の総量になります。

 

このうち民間消費は物価変動を考慮した実質値では既に12カ月連続でマイナス。

家計調査 12か月連続減少 企業はどう消費を喚起? | NHK | 物価高騰

 

 

 

 

内閣府が今年の年初に出した試算によれば高経済成長による税収増を考慮しても25年度の基礎的財政収支(PB)は1兆円超の赤字とのことでした。

 

25年度、高成長でも赤字1兆円超 基礎財政収支、黒字化は26年度―内閣府試算:時事ドットコム (jiji.com)

 

ならば素直に読めば、PB黒字化を堅持するために来年度は政府支出を1兆円超削減することになります。

 

民間消費は減っている、政府支出も減らすのであるならば、GDPを増やすために残っているのは企業投資の増加と貿易黒字になります。しかし今は3年連続で貿易赤字です。

23年度の貿易収支は3年連続赤字、5兆8919億円は過去最大の前年度から7割縮小 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

 

ではそんなに企業が投資額を増やすのか、という話になります。

GDPを実質で1%上げると言う事は、現在の物価上昇率は2%超ですから、名目GDPで3%超上昇させることになりますが、さすがに企業投資額だけで1年で18兆円も増えたりしません。

honbun_1_3_2.pdf (meti.go.jp)

 

というより、どれだけ経済において企業頼みにするのかという話です。

デフレ払拭のために「物価上昇を上回る賃上げ」を企業に求めるばかりで、政府はステルス増税を行うは、日銀は金融引き締めに走るわでちっとも「あらゆる政策を総動員」するつもりがあるようには見えません。

 

税収=名目GDP×税率×税制弾性値

 

ですから、経済成長なくして政府の歳入を増やすには今以上に国民の負担を上げなければなりません。

すると猶更現役世代の生活が苦しくなり晩婚化・少子化が進みます。

まさに悪循環です。

 

逆に言えばGDPが安定して増え続ければ、国民の負担を増やさなくとも政府の歳入は増えます。事実税収は3年連続過去最高を更新しています。

 

経済を成長させ続けるためには、民間の消費が伸びていないうちは政府が支出を拡大させる必要があります。

現在の状況下で政府が支出を削減するというのは、経済を成長させるつもりがないと言っているのと同じです。

 

それは計算の上からも自明なのです。

 

最大の問題はそれを『報じる側』が理解できていないことなのです。

 

新聞は、財政赤字が諸悪の根源であるかのように書きます。

 

『円安は長年にわたる放漫な財政・金融政策の結果である。税収をはるかに上回る財政支出を続け、これを日銀がファイナンスし続けたからだ。円安を止めるためには、財政も金融も引き締め、経済活動を落とさなくてはならない。』

なぜ円安なのか - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

などという「よくこんな不見識な記事を配信でき、かつ人からカネが取れるものだ」と驚愕するような事を平気で書きます。

 

今の円安は投機筋のドル買い円売りからきているものであり、またアメリカFRBの金融政策の結果によって生じているドル高の反射的結果として起きているものです。『長年にわたる放漫な財政』のために円安が起こるのであれば、どうして安倍政権以前は今よりずっと円高だったのでしょうか?その理屈で言えば当時の日本の財政はさぞ健全だったはずです。

 

本当に馬鹿馬鹿しい。

 

昨年末日銀は『中央銀行の財務と金融政策運営』という論文をHPで発表しましたが、そこでは

『管理通貨制度のもとで、通貨の信認は(略)適切な金融政策運営により「物価の安定」を図ることを通じて確保される。』

と書かれています。

 

財政赤字によって通貨安・国家破綻が起こるのであれば、アメリカは21世紀が始まって20年で政府負債残高を5倍にしているのにどうしてドル安・財政破綻しないのでしょうか?イギリスも同様です。

アメリカの政府債務残高の推移 - 世界経済のネタ帳 (ecodb.net)

 

 

なぜマスコミはこうした事実を調べそれを報じないのか、そればかりか間違いを世に吹聴し国内を混乱させるのか、まるで理解出来ません。

 

なぜ日本は経済成長できないのか?

簡単です。

成長できるはずがないことをやるからです。

 

果たして財政が黒字化することで誰が幸せになるのでしょうか?

 

そんなのはただのドグマ(宗教上の教義)でしかなく、それを叶えたからといって得られるのは『財務省の役人が仕事をした気になれる』だけです。

 

日本国民が本当に豊かになり、全ての世代が安心して人生を謳歌できるようになるためには、

この事実をこそ国民は目を向けるべきなのです。