先日、大変貴重な経験としてデイビッド・アトキンソン氏から直接「財政拡大は経済成長率に直結するものではない」と言う指摘を受けました。正直面食らい恐縮しました。

 

 

 

そこで目にしたのが「相関関係であっても、因果関係を示すものではない。」と言う言葉でした。

 

 

私の不勉強でアトキンソン氏の主張については確認しておらず(「新自由主義者」と言われていたので私の中で拒絶感があった)、「相関関係であっても、因果関係ではない」という主張がそもそも理解出来ませんでした。

その後のツイートを読み進めたところ、この方は政府支出がどれだけ乗数効果として経済成長に結びついたかのデータを取っていたのですね。

 

 

私自身、国債発行額がそのままGDPに直結せず、政府負債対GDP比が増えることについて以前から疑問を感じていたので、「あなたが言っているのは概念論。こちらはれっきとしたデータ」と言われると反論出来なかったわけです。

 

とはいえ、国民総支出の計算方法は

 

Y=G+(政府支出)+I(企業投資)+C(民間消費)+(X-M(貿易黒字))

 

で、政府支出がGDPを構成する大きな項目である以上、ここに因果関係がないはずはないのです。

これに関しては、アトキンソン氏が提示した資料で判明しました。

日本においては企業投資が減少しているのです。

 

だったら公共事業の停止や、増税や増負担による需要減退に問題があるのであって、その対策にはやっぱり減税と積極財政が必要ではないかと思ったわけですが、結局これも概念論でしかありません。

 

 

しかしこの人の主張もやっぱりおかしい。

GDPの構成要件はあくまで「その年の政府の支出」であって「赤字国債の累計発行額」ではありません。

 

 

この資料。

国債の累積残高は毎年積み上がるのに、それと名目GDPのグラフを出して「国債はこれだけ積み上がっているのにGDPが横ばい」だなどと、財務省が使う詐術そのまんまです。

 

それならこちらの資料を見るべきでしょう。

 

 

 

2020年のコロナ禍で大規模な財政出動をするまで、やはり2000年からの日本の政府支出は横ばいだったのです。

それを右肩上がりになるのが当然の累積国債残高に挿げ替えて、さも財政出動が意味のない物に見せるなど、良識を疑うレベルです(悪いのはそんな資料を作った財務省なのですが)。

 

さて、政府支出とGDPの相関に関しては「政府支出が伸びたからGDPが伸びた」という見方も出来ますが、「GDPが伸びたから結果、政府支出も増えた」という見方も出来ます。

 

勿論後者の場合もありますが、「GDPが増えなければ政府支出が増やせない」わけではない事は2020年の日本がまさに証明しています。(まあ、これについては「あくまでそれは後世へのツケで、その結果増税が必要になるんだ」と彼らはあくまで言うのでしょうが)

 

因みに「GDPの変化は政府支出に影響しない。が、政府支出の変化はGDPに影響する」ことは朴勝俊氏がレポートにしています。

PEP DISCUSSION PAPER 2022-1 朴勝俊「タマゴが先かニワトリが先か? : 政府支出と GDP のグレンジャー因果性に関する検討」 - People's Economic Policy

https://economicpolicy.jp/2022/06/29/1262/

 

 

と、今であれば反論することも出来たと思うのですが、ともかくやっぱり痛感したのは、

まだまだ積極財政論というのは社会的コンセンサスを得ていないということ、そして大切なのは相手をムキになって論破しようとするのではなく、その主張を理解し「結局どうやったら日本のためになるのか」の意見を冷静に交わし合うことなのだと思いました。