世界の金融市場で金利の上昇が広がっている。

米国は長期金利の指標となる10年物国債利回りが2%の大台に乗せた。(略)新型コロナウイルス対策で各国の債務が増える中、金利上昇は利払いの負担増につながる。

 

…ので、日本も早く日銀の金融緩和(通貨供給)と政府の財政出動(国家の歳出増)をやめて増税しなさい。

という日経新聞なりの老婆心による記事、ということでしょうが、私はこの趣旨には反対です。

 

 

さて金利については

212.「『長期金利』とは何ですか?なぜ変動するのですか?どんな影響があるのですか?」 | 伊藤和成『庶民が天下国家語って何が悪い』ブログ (ameblo.jp)

 

213.「『利上げ』は『金利上昇』とは違うの? & 政策金利が他の金利や景気に与える影響とは。」 | 伊藤和成『庶民が天下国家語って何が悪い』ブログ (ameblo.jp)

 

 

で書きました。

「金利」という言葉は大別すると、

①「市場で売買されている長期国債の利率(長期金利)→利払い負担は『政府』」

②「中央銀行が決定する政策金利→利払い負担は『銀行』(各銀行はこれにつられて民間に貸し出すローンの金利も変えるので『民間の人々』の負担も増える)」

とがあります。

 

この記事では前者の①「長期金利」について語られています。

因みに、「急激な物価上昇に対応するためアメリカFRBは金利の利上げを決定した」なんてニュースは後者②の方になります。

実際アメリカでは高インフレのために利上げの話がなされています。

米インフレ40年ぶり高水準 「FRBの利上げペース加速」観測も | 毎日新聞 (mainichi.jp)

 

これは中央銀行が貨幣を発行し社会に供給したことによって景気が良くなり、モノの値段が上がった(インフレが起きた)ので、

今度は貸し出し金利を上げることによって社会に流通しすぎた貨幣を回収する作業を意味しています。

 

 

 

記事に戻ればアメリカでは①長期金利が2年半ぶりに2%になったというものでした。

なぜ上がったかと言えば、アメリカはコロナ禍に対する経済対策によってコロナ以前よりも景気が良くなったために物価が上昇、つまりインフレが起きたためです。

 

これ先程の②の話と混同しそうでややこしいのですが(実際新聞を読んでいても明らかに記者が混同して記事を書いていると思われる場面がある)

投資家にとってみれば、例えば今後物価が2%上昇すると予想した場合、利回りが2%以下の国債を買っても儲けにはなりませんから、国債市場では国債が売られて売値が低下し利率が2%を超えたぐらいで売買が成立するようになるという話です。

 

 

さらに記事を読むと、

「日本でも6年ぶりの水準に上昇し、日銀が金利抑制策の発動を決めた。」と書かれています。

なるほど日本において長期金利は2月14日時点で0.244%

日本国債10年 年利回り | マーケット情報 | 楽天証券 (rakuten-sec.co.jp)

チャートを見ても上昇トレンドにあることが分かります。

 

これについて日銀は金利抑制策の発動を決めた、わけですが

日銀が指し値オペを発表、新発10年国債で0.25%-14日にオファー - Bloomberg

 

もともと日銀は「イールドカーブコントール」によって長期金利の変動幅を「ゼロ上下ともに0.25%」以内に抑えると明確化してましたし、事実市場において国債を売買する「オペレーション」によって金利をコントロールしてきました。

2%の「物価安定の目標」と「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」 : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)

 

ですから、記事自体は「日銀は言った通りの事をやっているんだな」というレベルのものでしかありません。

むしろ投資家は「じゃあ長期金利0.25%が上限なんだからここで国債を買えばいいんだな」と考えることによって、これからは日本の長期金利は下がっていく事でしょう。

 

「金利上昇 世界に広がる」…だから何?日本は関係ありませんけど。

というのが2月12日日経新聞1面の話なのです。

 

 

本題はここからです。

アメリカはなぜ物価が上がり長期金利が上がっているのか?それは悪いことなのか?

果たして日本はインフレなのか?

です。

 

なぜアメリカは物価が上がったか?については過去のブログ

211.「『需給ギャップ』とインフレ率の関係から、日本とアメリカの経済対策の差を考察してみよう」 | 伊藤和成『庶民が天下国家語って何が悪い』ブログ (ameblo.jp)

でも書いた通り、アメリカは後述する需給ギャップに比べて、政府の経済支出が過大だったからです。

 

アメリカはコロナ禍による経済ダメージを克服するために、数々の経済政策を打ってきました。

 

とりわけバイデン政権は昨年の3月に1.9兆ドル(約200兆円)という巨額の追加経済対策を打ちましたが、この時クリントン政権で財務長官を務めたロレンス・サマーズから「予算局が資産した『需給ギャップ』4200億ドル(のデフレギャップ)に対して1.9兆ドルは巨額に過ぎ、高インフレを招く」という批判を受けました。

そして実際今その通りになっているわけです。

 

需給ギャップとは、国内の総需要に対し総供給がどれだけかを試算したもので、総需要の方が高ければ「インフレギャップ」と呼ばれインフレ状態にあることを示し、逆に総供給の方が大きければ「デフレギャップ」と呼ばれ、社会がデフレ状態にあることを示しています。

 

経済が成長するためには若干「インフレギャップ」であることが必要となります。

何故なら総供給に対し総需要の方が多ければ、企業は需要に供給を追い付かせるために新しい設備投資をしますし、雇用も生まれ失業率の低下や労働者の賃金の上昇につながるからです。

 

日本は残念ながら長い年月デフレ状態でしたが、この場合企業もはモノを作っても売れませんから設備投資をしなくなり、雇用を抑え、賃金も伸びなくなります。人々も消費よりも貯蓄をするようになり経済が成長しなくなってしまうのです。

 

なので、個人的にはモノの値段が安くなるのはいいことでしょうが、国家で見ると明確にデフレは『悪』なのです。

 

さて、アメリカは巨額財政出動によって経済が急回復しました。コロナになる前よりも景気が良くなりました。

名目GDPでは2019年213,726億ドル 2020年208,937億ドル 2022年229,395億ドル。    

2021年の経済成長率は5.97%でした。

 

翻って日本はどうでしょうか?

名目GDPで2019年5,598,623億円 2021年5,386,885億円 2022年5,534,902億円。

2021年の経済成長率は2.36%でしたが、その前の2020年が-4.59%だったのでコロナ前の経済を回復出来てません。

それでまだ経済活動の抑制とか言っているわけです。

日本の経済成長率の推移 - 世界経済のネタ帳 (ecodb.net)

 

 

インフレ率はどうか?

なんとアメリカの直近のインフレ率は2022年2月発表で7.5%でした。

米国 - インフレ率 | 1914-2022 データ | 2023-2024 予測 (tradingeconomics.com)

そりゃ、長期金利も上がれば、FRBも引き締めにかかりますよ。上がり過ぎです。

 

アメリカは、コロナ禍で経済で落ち込んだ時に即座に対策を行い、早期に景気を回復させたどころか景気を良くし、

社会にカネがダブついているのでこれからそれを回収するという、真っ当なプロセスを踏んでいるのです。

 

 

 

じゃあ比べて日本はどうか?

インフレ率は1月20日発表で0.8%。しかしここから生鮮食品の物価変動を除いたコアCPIは0.5%。生鮮食品及びエネルギーを除いたコアコアCPIに至っては-0.7%

統計局ホームページ/消費者物価指数(CPI) 全国(最新の月次結果の概要) (stat.go.jp)

 

総需要と総供給のバランスである需給ギャップは-1.54%。つまり未だ8.5兆円のデフレギャップなのです。

 

つまり日本でインフレと言われているものは、単に原油価格高騰によるエネルギー価格上昇によるものだと言い切ってしまっていいのです。

 

景気が良くてモノとカネが巡るようになり、今よりも高い値段を値札に書いても(もう少し利益を取っても)モノが売れるようになった。

そういうふうにして起きている価格上昇ではないのです。

 

そんな状態で、日銀の金融緩和が終わったり、政府が増税などしたらどうなるでしょうか?

もう、どストライクで人々の生活苦に直撃です。

 

今までのどんな「景気を良くしよう」という試みも(そんなものがあったのかどうかさえ、あやふやですが)全くの元の木阿弥。

「失われた30年」が40年、50年と続くことが確定してしまうのです。

 

 

あああああああああああ!

しかしそれをやれといっているのが、(日本で何故か経済の教科書替わりにされている)日本経済新聞であり、財務省なのだ。

 

というか、もはや今の日本人にとってインフレとは、輸入代金上昇による「コストアップインフレ」(悪いインフレ)しか知らなくて、

「今よりも高い値段を付けてもモノが売れるだろう」という理由でモノの値段が上がるなど忘れてしまい、想像もつかない状態なのです。

 

だからデフレよりもインフレの方がいいという理屈も殆どの人にはピンとこない。

 

アメリカと日本とは全然、 全 く 状況が違うのに、新聞が「アメリカが引き締めにかかっているから、日本もそれに倣わなくてはならないのだ」みたいな記事を書く。 マ ジ で そ れ 日 本 滅 ぶ か ら や め て !

 

経済のデータは、需給ギャップとコアコアCPIを見てください。

それで経済政策を決定してください。

その時の気分とか風とか、なんとなく今なら増税が認められるだろうからとか、アメリカがやっているから日本もやるべきなのだ、とか。

 

そういのではなく、

経済指標を見て経済政策は決定してください。それが国益のためであり、国民のためなんです。

 

それをこそ説に願わずにはいられません。