「尊敬する政治家は?」
と聞かれれば、私は「池田勇人 元総理」と答えるようにしています。
ということで本の紹介。
これは本当にお勧めです。
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『嘘だらけの池田勇人』(扶桑社新書 倉山満)
を読み終わりました。
タイトルだけ見ると池田勇人が嘘ばかりついている人のようですが、さにあらず。
これは著者の倉山満氏が『嘘だらけの〇〇』というシリーズ本を書いているからで、巷間に言われている通説に異を唱えていく内容となっています。
本書においては
「それまでの歴代総理は押し付け憲法を何とか改正して日本を自主独立の国にしようと努力した。
ところが池田が憲法改正を封印してしまった。池田は日本人をエコノミックアニマルにした元凶だ。」
という説を否定し、
池田勇人こそが戦後最高の総理大臣であったと強く断言する内容となっています。
池田勇人が総理に就任したのは、安保闘争の末の岸信介退陣の後。
日本は革命前夜ともいうべき物々しさに包まれていた時でした。
池田勇人は『所得倍増計画』を謳い高度経済成長を旗印とし、表向きは憲法改正を封印しましたが
裏では自衛隊が事実上、軍隊として機能するよう計らいました。因みに次の佐藤栄作内閣でこれがひっくり返されます。
(著者の倉山満はこれを念頭におき、『憲法改正しなくても安保改善のために出来ることは沢山あるのに、今保守を語っている奴らは「憲法改正」を空念仏しているだけ』と現在の状況を批判します。)
また高度経済成長と所得倍増政策にしても、単に「豊かになろう」と言っていただけでなく
「職場でまじめに働けば、十年で月給が二倍になる。それならデモに行くより働いた方がよほど建設的である。
将来に希望がないから左翼の活動家などになるのであって、バラ色の未来が見えるのであればもっと別なことをする」
という意味があり、結果として池田内閣四年四か月によって日本国内の革命活動は下火となります。
そして「十年で国民の所得が二倍になる」という公約は、僅か七年で達成されることになります。
ただしこの時池田勇人は既に鬼籍に入っていたのでした。
著者の倉山満は池田勇人を評してこう書きます。
―池田と言えば自ら「経済の池田」を名乗りましたが池田にとって経済は手段にすぎません。池田の真の目的は、大国に戻ることでした。
まず経済、国民に飯を食わせる。そして戦争に負けた日本人に、真っ当に働けば真っ当に評価される社会を用意する。そして世界に媚びない国になる。
そして倉山は、池田勇人は日本を高度成長に導いた政治家というだけではなく、「日本を赤化からも守った」とし
『戦後最高の宰相』
と書いています。
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本書では
「ブーちゃん」こと、『池田勇人その生と死』を著した伊藤昌哉氏が池田勇人のために読んだ鎮魂歌も紹介されています。
大変印象的でしたので抜粋します。
伊藤は
―池田総理。あなたは在職四年四か月で、あなたはなにをされたでしょうか。
と書き始め、池田の在職中の功績を書き記した後で
―池田総理。あなたは日本の国民に自信を与え、進むべき方向を示されました。
これがあなたの最大の仕事であったと思います。どちらに進んでいいのか分からないというのは大変な難儀であり、方向感覚を与えるということは、それだけで大した再建策なのです。
もしそれに、自信が付与されれば、ことは既に半ば成就したと言ってよいでしょう。
と記し、故人の功績を讃えたのでした。
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最後に本書終章から少し長くなりますが一部引用します。
私も『就職氷河期』ど真ん中に青年期を過ごした『ロスジェネ(失われた世代)』の人間なので、ここで倉山氏が書いた内容には強い共感を覚えます。
―ところで日本の戦後76年で、経済状況が悪い時期の方が実は長いお気付きでしょうか?
(略)
昭和48年以降の約50年だと、本当に景気が良かったと言えるのはバブル期の5年だけです。
それでも日本は落ちぶれたとはいえ世界第三位の経済大国です。
池田の遺産がいかに大きかったかが分かろうというものです。そして、私達はその遺産を食いつぶしているのです。
もっともそれは経済の話で、外交はもっと悲惨です。
世界政策を持つなど夢のまた夢。アメリカの属国ですらなく、アメリカと中国に小突きまわされて、ダブルコリアにまで舐められるような惨状です。
(略)
我々の生活だって落ちぶれていくだけです。
例えば多少のサービス残業だって、「頑張って会社が業績を出せば自分の給料も上がる。」と希望を持てるのであればまだ耐えられます。
(略)しかし会社は都合が悪ければクビにするのに、タダ働きを強要してくる。断ればクビになる。それが嫌なら訳の分からない労働問題を起こすしかない。
これまた池田勇人の遺産を食い散らかした成れの果てです。
今の40歳の人は、モノの値段が上がるのを見たことがありません。経済が成長していないからです。
高度成長時代は、頑張って働けば報われる時代でした。
結婚して、子供が出来たら教育が大変。でも今は、就職して結婚で苦労する。したくても出来ない。当然子供を産んでも育てられない時代です。
低所得同士で結婚しても日々の生活で精いっぱい。子供が生まれても親は塾なんか通わせられません。
(略)
ではどうするか?
池田勇人は、総理を辞めたら、全国を旅する教育者になりたかったとか。
自分の国を愛するようになれば、おのずと何をすればいいか分かる。憲法改正なんて、おのずとできる。
経済力も軍事力も大事だけど、何よりも国家の根本は教育である。
(略)
指導者が大国に戻る意思を示す。そして国民に希望を示す。
経済を豊かにし、軍事力を持ち、諸外国に媚びなくていい国となる。
まさに明治維新で富国強兵をやったのと同じです。
強兵をつくるにはまず富国。
経済大国が不況のままでは取柄がありません。
お金だけあっても使い方を間違えれば意味がありませんが、お金がなければ何もできません。コロナのような災害如きであたふたするような政治など論外です。
(引用ここまで)
いや、本当わっかる。
何はともあれ、国家は経済が良くならないことには、国民が豊さを感じることが出来ないことには、何も出来ないんです。
世界には国民が困窮していても独裁者の強権によって国家が動く所もありますが、それは歪な国家であって、
日本はそれを良しとしては絶対にいけないのです。
私も過去のブログで書いてきましたが、政治とは「社会保障」と「安全保障」の二つに収束されるが、この二つで優先すべきは「社会保障」である。というのはまさに上の事情によるからです。
それで今の岸田内閣が総裁選の時に『令和版所得倍増』を公約にしたときは、
かなり期待したものでしたが、
今日の日報一面を見る限りにおいては、やっぱり期待外れかなあと思ったのでした。