他人に資産形成とか投資を勧める人で

「2024年に新札が発行され、その際に預金封鎖が行われる。」

と人々の不安を煽るような投稿をし、

その後で

「その政府の暴挙に対する防御策として、外貨や金、株などの金融商品を持ちましょう。」

という話に持っていく方が結構よく見かけます。

 

 

その根拠として

「日本における預金封鎖は実際1946年に行われた。」

「戦争によって膨れ上がった借金を、国民の財産を没収することで帳消しにしようとしたのだ。」

と力強く説明するのです。

 

 

この元ネタになったのが、

NHKの下記番組です。

 

 

 

 

 

確かに預金が封鎖されたら私達は生活が出来なくなりますので、これは非難すべき大暴挙としかいいようがありません。

当時の人が苦しんだことは間違いない事実ですし、今後二度と同じことが行われてはいけません。

 

ただこの動画でも冒頭登場しますが、この1946年の新円切り替えと預金封鎖は

日銀のHPにおいても

「終戦直後のインフレ進行を阻止するため」

と説明されています。

これまでに発行されたお札のうち、現在使えるお札はどれですか? 古いお札を持っていますが、現在も使えますか? : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)

 

(※同時に同ページでは

「一度発行された銀行券は、法令に基づく特別な措置が取られない限り、通用力を失うことはありません。そうした特別な措置は、以下のとおり、過去に3回発動されたことがあり、(略)

 

1.関東大震災後の焼失兌換券の整理(1927年<昭和2年>)

2.終戦直後のインフレ進行を阻止するためのいわゆる新円切り替え(1946年<昭和21年>)

3.1円未満の少額通貨(つまり「銭」)の整理(1953年<昭和28年>)」

 

とあり、銀行券の通用力が失われることが歴史上極めて稀な措置であること、

2024年の新札発行によって旧デザイン紙幣が使用できなくなるわけではないことを説明している。)

 

 

敗戦によって日本はインフラが破壊され、極度な物資不足に陥ります。

にも関わらず人々の「銀行預金」の残高はそのままでしたので、「買い手は多いにも関わらず商品はない」という

「需要>>>供給」という図式から物の売買価格はどんどん上がっていき、

社会は激しいインフレに見舞われます。

 

 

ここで勘違いされたくないのは、『政府の負債が大きいからハイパーインフレになったのではない。』という点です。

(ハイパーインフレの定義については本稿では省きます)

 

巷のハイパーインフレ芸人は決まって「現在の国の借金は戦時中よりも酷い(=「政府負債対GDP比が戦中よりも高い」)ので、いつハイパーインフレが起きてもおかしくない。」と主張しますが、

彼らは根本的に何も理解してはいません。

 

ハイパーインフレは極度の物資不足と政府の信用力の低下によって、「通貨の信認が失われ」た結果起こるものです。

 

 

「通貨の信認が失われ」、ハイパーインフレが起きた際の対処法は、万国共通で「通貨の切り替え」です。

社会に流通しすぎた通貨と新通貨を「不等価交換」することで、通貨の流通量を無理やり落とし、インフレを収束させるのです。

 

通常はここで「1兆マルク=1レンテンマルク」というように、上がり過ぎてしまった価格の桁を切り落とします。

これが『デノミネーション』。略して『デノミ』です。

 

1946年に行われた新円切り替えは、価格こそ等価交換でしたが、預金封鎖によって交換額に制限を加えることで通貨の流通量を落とした、『事実上のデノミ』政策です。

 

まあ当時の大蔵省は、その後の「財産税」によって本当に日本の政府負債を返済しようと考えたのかもしれませんが

(勘違いしたFPが「財産の90%を没収して日本の借金を返済した」とブログに書いているのを見つけましたが、実際は累進課税で税率には段階が設けられていました。)

データを見ればそのような事実はありません。

 

NHKの動画では印象操作なのか、本当に理解が足りないのか、分かりませんが

「政府負債対GDP比」のグラフを掲示し、「(預金封鎖によって)政府の財政状況が改善されたが、現在は当時より酷い状況」という説明をしています。

 

 

このグラフは財務省が作成したもので、実によく出来ています。

確かにこのグラフを見た人は上の説明と同じ印象を持つことでしょう。

 

 

しかし、本当に国が国民の財産を没収することで借金をチャラにしたというのなら、1946年に政府負債は激減していなければなりません。

ところがそんな事実はないのです。

 

 

左の桁表示に違和感を持つ人もいるでしょうが、とにかくここから分かることは、

終戦後も政府債務は一貫して増え続け、一度たりとも減少したことはないということなのです。

 

ここから分かることは、「戦後、『政府負債対GDP比』が改善されたのは、政府が負債を返済したからではなく、インフレによって日本の名目GDPが増えたから」ということが分かるのです。

 

では当時日本の名目GDPはどれ程増えたのか。

それを研究したのが次のブログです。

 

公式データがない日本の1945年のGDPを推測してみた | 閑古鳥ブログ (kankodori-blog.com)

 

 

なんと日本の名目GDPは戦争末期1944年には678億円だったものが、(1945年はデータがなかったということ。)

終戦後の1946年には4,254億円と、6倍超になっていたのです。ならば「政府負債対GDP比」が劇的に改善されたように見えるのも道理です。

 

終戦間もないことですので、これが日本の経済が成長しての事でないことは明白です。

インフレによる激しい物価上昇のためです。

 

 

ここまでで確認出来たの事実は次の通りになります。

1.1946年の預金封鎖に「政府負債を返済するため」という目的と結果は認められない。

2.終戦後「政府負債対GDP比」が改善されたように見えるのは、負債を返済したためではない。

3.明治より政府負債は一貫して増え続けているが、敗戦を除いて日本の経済が破綻した歴史的事実はない。

 

ならばなぜ、財務省やハイパーインフレ芸人どもは、「増税、緊縮財政、借金返済」を唱えるのでしょうか?

調べれば調べるほど、一つとして納得できる要素がありません。

あるのなら私の面前で、私が納得するまでご教授してほしいものです。

 

重要なのは「借金返済」ではなく、「適度なインフレと確かな経済成長」なのです。

歴史がそれを証明しています。

 

 

 

ということでさ、

2024年の新円が発行されるまでに経済が破綻して?

預金封鎖が実施されて、国民の財産が没収される?

 

下らなくて低レベルな話を吹聴している人は

有害な風説の流布ですので、どうぞおやめになってください。