8月9日 日経新聞の一面トップ記事

『チャートは語る』 から。

 

ドルの信認問う金高値

供給増で価値低下 基軸通貨に試練

 

新型コロナウイルスの感染拡大で金製品の需要は減ったのに、金の国際価格は連日、史上最高値を更新している。

金を買うために支払う米ドルの価値が落ちているのだ。基軸通貨の信認が問われている。

 

 

 

と、いう記事です。

最初に結論を書きますと、非常に馬鹿馬鹿しい記事ですね。

 

 

これはあれですか?

「日銀が円を刷り過ぎると底が抜けたような円安になり、ハイパーインフレになる。」

と言っていたものが

 

 

実際のところFRB(連邦準備制度=アメリカの中央銀行)がそれ以上にドルの供給量を増やしているために逆に円高になっているから、

(2020年の2月では1ドル=110円を越えていたが、8月12日時点で106.70円)今度は

「金に対しドルの価値が落ちている。基軸通貨の信認が問われている。」

に変えたんですかね。

 

 

因みに対ユーロでは1.17ドルと最近「ドル安ユーロ高」になってきていますが、それでも2018年の夏には1.24ドルを付けていた事を考慮すれば今のドルレートは全くおかしな数値ではありません。

 

 

要するに

「カネを刷り過ぎると通貨の信認が失われる」

という話がしたくて堪らなくて、その何らかの根拠を示したかったと、そういうことじゃないですか。

 

 

全く馬鹿げた話ですよね。

だってこんなの単なる相場の話でしょ。

投機家の人気が集まった金融商品の値が上がるのは当たり前じゃないですか。

 

 

今は世界中がコロナ禍に対する経済対策で大規模な金融緩和を行い、各国のカネの供給量が増えている中で

希少価値の高い貴金属である金を投資家や投機家が買っている。

ただそれだけの話でしょ。

 

 

昨年の段階から金を買っていた人が今それを売れば、1トロイオンスあたり500ドル程の儲けになる。

ですからそれを『金に対するドルの価値が下がっている』と言い換えれば、それ自体は事実ですが

だからなんなんだという話です。

 

 

相場をやらない人、ゴールドを買わない人(世間の大多数の人)には何の関係もない話ですし、

ましてや 「基軸通貨としての信認」  とは全く別次元の話です。

 

 

じゃ何ですか?

今世界では貿易に際し「代金については金塊で支払ってください」という動きでもあるんですか?

アメリカでは人々が買い物をするのにお店から「ドル紙幣では信用できないので金貨で支払ってください」とか要求されているんですか?

(「金を持っていれば儲かる」と考える店主がそういう行動に出る可能性はありますが、払える人がいないでしょう。)

 

 

違うのでしょ。今でもドル経済は健在ですし、何より今年に入ってからアメリカの「消費者物価指数(CPI)」は下落しています。

普通「社会的にカネの価値が下落している」のであるならば、モノの値段は相対的に上昇するはずです。ですがアメリカで今現在それは起きていません。

というか、事実は逆で「人々がカネを使わず不況になってしまっている(物価が下落している=相対的にカネの価値が上がっている)ので、アメリカ政府がカネの供給量を増やしている」のです。

https://info.finance.yahoo.co.jp/fx/marketcalendar/detail/9052

 

 

 

 

今現在世界でコロナ禍による経済活動の低迷によって、大不況が生じています。

そこで各国が中央銀行と連携してカネを大量に「ばら撒く」ことによって社会混乱を防ごうとしているのです。

その最中にあって、この日経の記事は素っ頓狂にも程があります。

 

 

結局これはかつて、国家は自国が保有するゴールドの量に応じて通貨(カネ)を発行していた 『金本位制』時代 の記憶からくる「勘違い」なのです。

 

(いや、本当の事を言うと財務省がカネの供給増と減税をしたくないために、「世界各国の経済政策」と「経済学」に喧嘩を売っていて、それをプレスリリースによって新聞記者に書かせているだけなのですが。それは今は言いますまい。)

 

 

前置きが長くなりましたが、今回のブログでは通貨(カネ)とゴールドの関係の変遷に触れ、 『金本位制』 『商品貨幣論』『管理通貨制』 『国定信用貨幣論』 『基軸通貨』 とは何ぞやについて考えてみたいと思います。

 

 

・カネとは何か? 

 

まず貨幣(カネ)とは何か?についてですが、経済学では

 

1.交換手段 …モノやサービスへの支払いに使うモノ。

2.計算単位 …「それってお幾らですか?」「幾ら払えばこれをやってくれる?」

3.価値貯蔵 …モノを貯め込まなくてもカネを貯め込めばOKです。

 

のためのモノと説明されています。

ただしこれには人々が「そのカネの価値を信用している」ということが大前提となっています。

 

 

例えば、あなたが商売をしているとして、どこか知らない国の誰か知らない人が発行している数字が書かれた紙を、商品の代金として受け取るでしょうか?

そんなことはありえませんね。その紙のカネとしての価値を信用できないし、社会でその紙がカネとして認知され出回ってなければ自分もそれを使用できないからです。

 

 

さて歴史においては、国家は当初貨幣を貴金属によって製造していました。「銅銭」「銀貨」「金貨」などのコインです。

貴金属はそれ自体が価値のある「商品」であり、時間とともに劣化することもなく、「交換手段・計算単位・価値貯蔵」にも適していたからです。

 

 

「銀貨」が主に使用されていた時代もありましたが、19世紀以降は「金貨」がメインとなります。

 

経済の拡大により金貨は低額の貨幣にのみ使用されるようになり、多額の額の貨幣については金との交換が可能な券「紙幣」によって売買が行われるようになります。

この「金との交換が可能」な紙幣のことを『兌換(だかん)紙幣』といいます。

 

 

そして国家は自国が保有する金の量に応じてのみカネを発行出来るというルールが出来上がります。

これを「金本位制」といいます。

これは同時に国家がカネを追加発行するためには、自国で金を発掘するか、他国から金を得るかとしなければならない、ということでもありました。

 

 

ここから経済学では、「カネとは貴金属の代用品であり、従って有限であり、それ自体が価値を持つ物である。」

という「商品貨幣論」が生まれ、主流をなすようになります。

 

 

実際「商品貨幣」であれば人々にその価値を信用させるのに十分ですし、外国と貿易するに際してもお互いの通貨の金銀の含有量によって代金を決めることが簡単だったのです。

 

 

商品貨幣論は1971年までは確かに正しいものでした。

しかし1971年アメリカ大統領リチャード・ニクソンが「金とアメリカドルとの交換を停止する」と発表した「ニクソン・ショック」によって、

 

商品貨幣論は終わりました。

 

これは理論上でもなんでもなく「歴史的事実」です。

 

 

その後各国では、中央銀行がカネの発行量を調節する事で、物価の安定、経済成長、雇用の改善、国際収支の安定を図るようになりました。これを「管理通貨制度」といいます。この制度のもとでは国家は保有する貴金属に束縛されることなくカネを発行することが出来ます。

 

 

「管理通貨制度」の世界におけるカネとは「貴金属の代わり」ではありません。国家が「これがカネである」といい、国民がそれを信用すれば、それがカネとなります。従って有限のモノではありません。

 

 

日本においては江戸時代の5代将軍、徳川綱吉の時代に勘定奉行を務めた 荻原重優 の言葉にこのようなものがあります。

 

「貨幣は国家が造る所、瓦礫をもってこれに代えるといえども、まさにおこなうべし」

(貨幣は国家が造り、その価値は国家の信用で決まる。瓦礫を貨幣とすることさえできる)

 

 

まさに至言で、江戸時代においてカネとはなんであるかを喝破していた人物が日本にいたということに驚愕します。

 

「交換手段・計算単位・価値貯蔵」としての有用性を 「国家が保障」 できさえすれば、国民は例えそれが瓦礫であっても、それを信用してカネとして使用することができるのです。

 

 

では国家は何をもって、国民にカネの価値を信用させるのでしょうか?

それは「徴税」と「警察権」によってです。

 

 

国家がカネとして指定したモノで税を取り、それに違反した者に刑罰を与えること。

国家がカネとして指定したモノを非合法で入手した者に刑罰を与えること。

国家がカネとして指定したモノでの売買の支払いについて、額面を無視するものへ刑罰を与えること。

 

 

それらが繰り返されることによって、国家がカネとして指定したモノが「交換手段・計算単位・価値貯蔵」の手段として有効であると国民は信用するのです。

これを「国定信用貨幣論」といいます。

 

 

では駆け足で、1971年までの「おカネとは何か?」の変遷を追っていきます。

 

 

・『基軸通貨』の変遷と『金本位制』への転換

 

商品貨幣については、古今東西に応じて「銅銭」「銀貨」「金貨」と存在しましたが、

最初に国際通貨として認知、流通されたのは「銀貨」でした。

 

大航海時代、世界の海を席巻したスペインがアメリカ大陸の銀山を開発し、時同じくし日本の戦国大名達も日本の銀山を開発(島根県の石見銀山は世界遺産にも登録されている)しては中国やスペイン・ポルトガルとの貿易で代金として使用したため、世界で銀貨が流通します。

 

 

そのため世界各国は他国との交易のために、銀貨を自国通貨の基準とする「銀本位制」を確立させ、16世紀の世界では世界の覇権国であったスペイン領メキシコで発行された銀貨「メキシコドル」が国際通貨として世界中で使用されることになります。

 

 

この「世界の覇権国家によって発行され、国際通貨として世界中で使用される通貨」のことを「基軸通貨」と言います。

ほとんど「覇権国家が使っているカネ」と同義です。

 

 

冒頭の日経新聞が「ドルの信認問う」「基軸通貨に試練」と書いていましたが、本当にアメリカドルが基軸通貨としての信認が得られなくなるのは、アメリカの覇権が弱まり別の覇権国家にとって代わられる時です。

たかが金の価格が上昇したことをもって「基軸通貨」としての立場が危ういかのような書き方をしているのは失笑以外のものではありません。

 

 

さて、各国が銀山を開発しては世界中に銀貨が流通した結果、銀貨の価値は下落します。

この時代では財やサービスの生産よりも、銀の採掘の方が早かったために「カネ余り」が発生し、需要>供給によるインフレが発生したのです。

そこで世界は銀よりも希少性の高い金を自国通貨の基準とする「金本位制」へと移行していきます。

 

 

19世紀に入り、既にスペインに代わる覇権国家となっていたイギリスは世界から蓄えた金をもって「ポンド金貨」を発行し、

これにヨーロッパ各国が追従し金貨の鋳造したことにより、19世紀末には「金本位制」が国際的に確立され、「ポンド」は基軸通貨となりました。

同時にそれは「金を保有する国こそが強国」であり、「金を採掘できない国にとっては他国より受け取るか奪うかしないと自国でカネが発行出来ない(不況下にあっても財政政策が出来ない)」ということでもありました。

 

 

その後第一次世界大戦の結果、イギリスが荒廃し、代わりにイギリス・フランス・ロシア連合国に戦費を貸し出していたアメリカに金が集まることになり、アメリカがイギリスに代わる覇権国家となり、ポンドからドルに基軸通貨は変わることになります。

 

 

・銀行と紙幣

 

金は重いので持ち運びには不便で、高額商品の支払いには向きません。

そこで人類は近代に入ると金を直接持ち歩かずに、金を預かり又は金を貸出しを行う「銀行」というシステムを生み出します。

そして人々は銀行が発行する「借用証書」を商品貨幣の代わりとして使用することになります。

これが「紙幣」です。

 

 

古くは様々な国家で、紙幣も政府が発行していましたがそれが紙幣乱発を招き、モノの価格が暴騰する「インフレ」を起こすために(ようするにここが問題のキモなのである)、国民を苦しめ、国家を破綻させる要因となりました。

 

 

そこで現在では国の中央銀行(日本では日本銀行、アメリカではFRB)が紙幣発行の責を担っています。

そして最初の「国家の中央銀行」として誕生したのがイギリスの「イングランド銀行」です。

 

 

 

・『金本位制』の欠陥

 

「金本位制」の持つ欠陥は簡単です。

世界経済の成長に対し金の発掘量が全然足りないのです。

 

 

現在、金の採掘量は年間約3000トンです。

今世界にある金の総量は約18万トンと言われてますので(因みに地球上に埋蔵されているゴールドの総量は23万トンと言われている)、

https://kaitoriagent.com/column/579192-2/

金の量は年間で約1.7%増えていることになります。

 

 

これに対し、この10年間の世界経済の成長率は3~4%。

https://finance-gfp.com/?p=145

 

世界では絶えず新しい技術が生まれ、それにより新しい財やサービスが産み出されるのに対し、その売買を行うために必要となる金という貴金属はあまりにも「希少」なのです。

 

 

従って「金本位制」というシステムを遵守しようとすれば必ず「カネ不足」になり、デフレ不況になるのです。

そして一度不況が起きても、政府は自由にカネの供給量を増やすことが出来ません。

 

 

そういうことは当時の人達も認識しており、1930年代の世界恐慌において各国は「金本位制」を離脱し、「管理通貨制度」を採っています。

日本では高橋是清が、金本位制を離脱し日銀による紙幣増刷と大規模な公共事業によって、世界で最初に世界恐慌から脱却することに成功したことは特筆に値するものです。

 

 

しかし高橋是清は、デフレ脱却後のインフレコントロールのために財政引き締めを行ったところ、更なる軍事費拡大を求める軍部の恨みを買い、二.二六事件で若手将校によって殺害されることになります。

これもまた現代の財政拡大派の人達はよく記憶しておかねばならないことです。

 

 

・ブレストン=ウッズ体制とニクソンショック

 

第二次世界大戦中、アメリカは次のようなことを考えました。

 

「世界恐慌の結果、各国は金本位制から離脱し各々の経済政策のもと自国経済圏でのみ経済活動を行った(ブロック経済)。

そのため植民地を持たない日本やドイツは貿易を自由に行えなくなり困窮し、軍事力の行使によって事態の打開をはかった。

 

やはり世界平和のためには貿易が自由に行われるべきである。

また戦争で荒廃した国を甦らせるためのIMF(国際通貨基金)からの資金供給のためにも、各国の通貨が共通の価値を持っていた方がいい。そのためにはやはり『金本位制』を復活させねばならない。」

 

 

そこで1944年、アメリカはニューハンプシャー州のリゾート地、ブレストン=ウッズにおいて、

連合国45か国の財務・金融担当者が集まり、戦後の世界経済について討議した結果、「ブレストン=ウッズ体制」と呼ばれる「金・ドル本位制」が生まれることになります。

 

 

ポイントは

1.金1オンス(約30グラム)を35ドルとして固定

2.アメリカドルと各国の通貨の交換比率を固定(固定相場)。例として日本なら1ドル=360円で交換。

 

 

この結果為替リスクはなくなり、世界中で貿易が促進されることになる…のですが

これが逆にアメリカを苦しめることになり、1971年の「ニクソン・ショック」によってアメリカ自身が反故にしてしまいます。

 

 

何が起きたかと言うと、日本や西ドイツのドル交換レートを極安に設定したために、日本と西ドイツの工業製品がアメリカに大量に輸出されるようになり、その結果日本と西ドイツには大量の金が入り戦後の奇跡的復興を遂げるのですが、逆にアメリカからは大量の金が流出することになりました。

 

 

またベトナム戦争によってアメリカは戦費が拡大し、ドルの増刷の結果1オンス35ドルの固定相場を維持する事が困難になります。

 

 

そして1971年、世界との約束を反故にし、当時のアメリカ大統領リチャード・ニクソンによって

「金とアメリカドルとの交換を停止する」

という発表がなされることになります。

 

これが「ニクソン・ショック」です。

 

以後現在に至るまで、各国の為替レートや金の取引価格は市場での売買によって値が動き続けることになったのです。

 

 

・「カネの供給量はインフレ率によって決める」

 

ここまで見た通り、1971年のニクソン・ショック以降、世界は「金本位制」から離脱し「管理通貨制」を採ることになりました。

この「管理通貨制」の最大のポイントは、中央銀行は「カネの発行量を調節する事で、物価の安定、経済成長を図る」ということです。

 

 

つまり、中央銀行の仕事は「物価の安定」と「経済成長」にこそあって、カネの発行量の増減はその必要に応じて行うべきであり、

必要に応じてカネの量を増やした結果、金の取引価格が上がったからといってそれが一体何なんだ、という話なのです。

(ここで日経新聞の記事に戻る。)

それによって「ドルの信認が問われている」など、本当に馬鹿馬鹿しい話です。

 

 

日本においても当然「管理通貨制」がとられている事は、2020年4月1日参議院決算員会における黒田日銀総裁の以下の答弁からも確認できます。

 

(西田昌司参議院議員の質問に答え)

「指摘の通り現在は金本位制を採用しておらず通貨供給量などは日銀の保有する実物資産の量に制限されていないが、買い入れる資産の量は物価の安定を図る観点から決まってくる」

「2%の物価目標実現が近づく際には、日銀が国債を買い入れる量を適切に調整する」

http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN21J3WP.html?fbclid=IwAR2lxw5QBRKcuFwfv2tiGA_ByWnJwt9vFR3S41vf_nBPizI3vfzVc2xd9mg

 

つまり逆にいえば黒田総裁は 「物価上昇率(インフレ率)2%までは通貨供給量を増やすことが出来る」 と述べているのです。

 

「金本位制」は国家の金の保有量によってカネの供給量は決まっていましたが、「管理通貨制」では「インフレ率」によってカネの供給量は決まるのです。

 

 

そしてインフレとは 需要>供給 ですから、国民の生産供給能力が高ければそれに応じてカネの発行量も増やすことが可能となります。

 

 

つまり、現代における「管理通貨制」とは

 

「国民生産力本位制」 と言い換えることが出来るのです。

 

そして「国民生産能力」こそが即ち「国力」に他ならないのです。

 

だからこそ、国民の生産力を低下させるデフレ不況は「必ず脱却すべきもの」なのであり、

そのための経済政策が国家においては必須なのです。

 

 

そして、それについて絶対にやってはならない事が、

「景気後退中における増税」

なのです。

 

 

ですから、このコロナ不況で増税なんてやったら本当に日本滅びますよ。

いや本当に本当。

 

なんでこれが財務省の役人と大手マスコミには分かってもらえないのでしょうか。