6月14日毎日新聞(まあ、この日の新聞なら何でもよかったのですが)一面より。

日本運航タンカー砲撃

13日午前6時45分(日本時間午前11時45分)中東のホルムズ海峡で、東京都千代田区の海運会社「国華産業」が運航するケミカルタンカー「KOKUKA COURAGE(コクカ カレイジャス)」(パナマ船籍、総重量1万9349トン)が何者かの攻撃を受け、被弾した。

 

 

 

続いて翌15日の地元紙一面

米大統領「イランが実行」

イラン沖のホルムズ海峡付近で起きたタンカー攻撃で、トランプ大統領は14日FOXニュースの番組で「イランがやった」と名指しで非難した。イランは完全否定しており、全面対決に発展した。

 

 

更に16日の地元紙一面

政府、米に証拠提供要求 「イラン関与」同調せず

政府がホルムズ海峡付近で起きたタンカー攻撃を巡り、イランが関与したとする米国の説明に同調せず、裏付けとなる証拠を示すよう米側に求めていることが分かった。米国主張は説得力に欠いているという受け止めが背景にある。

 

 

因みにアメリカが提出した「証拠」というのは、「イラン革命防衛隊による爆発物回収の記録」とする映像なのですが、現実に「砲撃」を受けたタンカーの所有者である国華産業の社長が会見で「乗組員が飛来物を目視した」と言っており、アメリカの主張する所の「吸着爆弾(機雷)による爆発」と矛盾することが指摘されています。

 

 

 

今回の事件の前提として、イランとアメリカとの緊張関係、イランと周辺アラブ諸国との関係、イランとイスラエルとの関係が背後に絡んできますが、それらを書くとかなり長大なものとなりますので、以下に概略だけ書きます。(私自身詳しくないので一部不正確の所があるかもしれません。)

 

・イラン、1978年「イスラム革命」によって、それまで世俗的で親米(アメリカの傀儡とも言われた)政権を打倒し、イスラム法学者が統治する宗教色の強い国家体制となる。そのためアメリカとの仲は険悪。ユダヤ教国家でありアメリカと親密なイスラエルのことは存在すら認めていない。以後は西側諸国と距離を置き独自の外交・安全保障政策を採り始める。

 

・サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)とは同じイスラム教ながらも宗派の対立がある。

 

・2002年、イランで核濃縮施設が見つかり核兵器開発が疑われ(バレ)る。アメリカのブッシュ大統領(当時)はイランを「悪の枢軸」(他にイラク、北朝鮮も併せて)と名指し批判し、西側諸国から経済制裁を受ける。

 

・2013年、長引く経済制裁のため国民生活が困窮する中、穏健派であるロウハニ氏が大統領に就任したことを機に国際協調路線に転換。2015年、米英仏独中ロ+EUとイランで「イラン核合意」を締結。原油輸出や金融取引の制裁解除を条件に、貯蔵濃縮ウランや遠心分離機を削減。

 

・2018年5月、アメリカ・トランプ大統領が「合意内容は甘い」という理由で、「イラン核合意」を離脱。イラン産原油の全面禁輸措置を採り、諸国にもそれを強いる。(日本は2019年5月1日にて適用除外措置が切れる)。イラン憤り、ホルムズ海峡封鎖を示唆するなど緊張高まる。

 

・イラン、独自外交ルートを駆使しアメリカの制裁解除の道を探る。2019年5月、ザリフ外相来日。安倍首相にイラン訪問を要請。

 

・2019年6月 安倍首相イラン訪問。ロウハニ大統領からは歓迎を受けるも(12日)、宗教指導者ハメネイ師からはアメリカに対する不信と強い愚痴を聞かされる(13日)。

 

・安倍首相とハメネイ師の会談時刻に合わせて、何者かにより日本タンカーが砲撃を受ける。アメリカが即座に「イランが実行」と非難するも、日本はそれに同調せず。

 

 

ざっと、こんなところでしょうか。

安倍首相、緊張緩和のため「平和の使者」として赴いたはずでしたが…動乱の渦中に巻き込まれる形となったようです。

安倍首相を嫌う日本や海外メディアの中には「アベ外交の失敗」と評価する声もあるようですが、事はそんな単純なものではないと私は考えます。

 

 

さて、

この話題については次の動画がとても詳しく、事件に対する考察に大変参考になりますので紹介させて頂きます。

私もこの方の意見に同意します。

 

「20190617 タンカー攻撃 誰かが嘘をついている!【及川幸久BREAKING】」

https://www.youtube.com/watch?v=a4jgNrMTiEA

 

ここで注目すべきは、

アメリカによって犯人と断定されているイラン側の主張です。

イランのザリフ外相は自身のTwitterで、このタンカー攻撃を「Bチームによる妨害外交だ」と発信しました。

 

Bチームとは何か?最近イランのザリフ外相が流行らせた言葉だそうで構成メンバーが4人います。

アメリカ: ジョン・ルトン大統領補佐官

イスラエル: ンヤミン・ネタニヤフ首相

サウジアラビア: ムハンマド・ン・サルマン皇太子

UAE(アラブ首長国連邦): ムハンマド・ン・ザイ―ド皇太子

 

この4人の「B」でBチーム。

ザリフ外相はこの4人がアメリカのトランプ大統領をけしかけてイランに戦争を仕掛けさせようとしている、とかねてより非難しているのです。

しかも数か月前からこの事件あることを予告していたそうですね。

 

Twitterでの発信だからといって、それを単なる個人の「つぶやき」などと考えてはいけません。

イラン政府要人が英語で世界的に、今回のタンカー攻撃の犯人がこの4人だと名指しで発信しているのです。

無論、「アメリカから犯人扱いされたイランが責任転嫁で言っているだけ」とも考えられますが、アメリカには「でっち上げを戦争の口実とする」前科(後述する「トンキン湾事件」)があることから、今回のタンカー攻撃「アメリカ陰謀論」に一定の説得力を持たせています。

 

イランの責任転嫁、という言葉が出てきましたが、私はそれについては疑問を持っています。

というのも、今回の安倍首相のイラン訪問は「イラン側からの要請」でもあったからです。

日本国内では、一部今回の安倍首相のイラン訪問を「トランプのメッセンジャーとして出向いたが、結局相手にされないで帰ってきた『失敗外交』であった」と批判する意見も散見されましたが、これについては上の事実が悪意を持って無視されています。

 

(参考)

産経新聞 「首相が12日からイラン訪問 緊張緩和『シンゾーしかいない』」

https://www.sankei.com/politics/news/190608/plt1906080013-n1.html

(記事の中で、イラン・ザリフ外相が訪日時に安倍首相に対しイラン訪問を要請したことについて触れられている。)

 

FNN PLIME「安倍首相 イラン訪問を検討」

https://www.fnn.jp/posts/00418179CX

(こちらも同じ。)

 

そしてイラン政府もまた、安倍首相にアメリカとの仲介を要請するつもりであったことをロイター通信が報じています。

 

ロイター通信 「イラン、米の原油制裁回り安倍首相に仲介要請へ=当時局」

https://jp.reuters.com/article/iran-japan-usa-oil-idJPKCN1TD0W2

 

実際にイランの大統領は共同記者会見の冒頭で「安倍首相が我々の招待に応じてくれた事を光栄に思う」と謝意を述べています。

 

日本とイラン首脳、共同記者発表【全録】

https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3698280.html

 

 

それを踏まえたならば、今回のタンカー砲撃はイラン政府にとっても「不本意の事態」であったと考えられます。

もし仮に今回の事件の犯人がアメリカの主張する通り、イラン国内の武装組織である可能性が認められたならば、イラン政府としては友好国の首相を賓客として迎えた上での不祥事ということになりますので、むしろ積極的に犯人を捜査し、日本に対し謝罪したことでしょう。

イランにとっても、アメリカとの戦争を回避し、かつ経済制裁を解除されるためには日本の仲介は必要なのです。

日本との関係を悪化させるメリットがありません。及川幸久氏が動画で言っている通りです。

 

及川氏の動画では更に興味深いことに言及しています。

アメリカ内におけるこの事件の分析なのですが、「イラク戦争」「ベトナム戦争」の状況と似ているというのです。特に後者についてはニューヨークタイムスが「21世紀版トンキン湾事件か?」と書いているということです。

 

イラク戦争では当時のチェイニー副大統領が、「イラクは大量破壊兵器を保有している」とブッシュ大統領(当時)を焚きつけ戦争を起こしましたが、戦争後、イラクに大量破壊兵器がなかったことが証明されました。

 

ベトナム戦争では「トンキン湾事件」という、トンキン湾で北ベトナム軍がアメリカの船を攻撃したという「でっち上げ」によってジョンソン大統領(当時)が議会を説得し、ベトナムに軍事介入を始めました。

 

これらに今回の事件が似ている、という声がアメリカ国内からでさえ上がっているのです。

 

 

また及川氏は動画の最後で非常にいいことを言っています。即ち「この事件で得をするのは誰か?」です。

イランには得はありません。

しかしアメリカにはあります。アメリカは「軍産複合体」の国家であり、兵器の製造・消費によって産業が成り立っている国家ですので、定期的に外国を攻撃する必要性があります。

 

またイランは「石油産出国」でかつ「ホルムズ海峡という海上交易の要衝を押さえており」かつ「反米国家」です。

早期のうちに叩き以前のような、そして現在のイラクのような、「親米傀儡国家」を建設する必要があります。

それが「Bチーム」ボルトン大統領補佐官の狙い。少なくともイランのザリフ外相はそのように世界に発信しているのです。

 

そう考えると、今回日本政府がアメリカの主張に(例外的に)同調しなかったのは賢明でした。

(もちろん、これは私の勝手な憶測ですが)下手に同調していたならば、それを以てイラン攻撃の口実にされていたかもしれないからです。皮肉なことに日本で散々紛糾した「集団的自衛権」の法理によって。

もしそうなっていたなら恐ろしいことです。戦後日本の拭えない汚点となったことでしょう。

 

 

安倍首相の態度にも含む所があるように思います。

(船とはいえ)自国が攻撃されたのに、「いかなる者が攻撃したにせよ、船舶を危険にさらす行動で、日本として断固非難する」と言うだけで犯人捜しをしないのです。アメリカに同調せず、自らも犯人捜しを行わない事で、この件の責任の所在を事実上不問にしています。

 

日本国には独力で犯人を捜し出せるだけの能力はなく、報復を行う能力もない。という悲しい現実があるのは認めますが、それにしても「いかなる者が攻撃したにせよ」なんて言い方、まるで「犯人は誰だっていい」というふうにも聞こえます。大切なことなので繰り返しますが、自国が攻撃を受けたのに、です。少し不自然ではないですか。

その不自然さが既に一つの答えになっているのではないか、そう考えるのは私の妄想でしょうか?

 

しかしこれは確信を持って言えますが、今後この件について日本の側から問題にすることは、ないでしょう。

 

 

国際社会は巨大な悪意が渦巻く場であり、綺麗ごとだけでは動いていません。

今回の砲撃事件はまさにそういう事件なのです。

 

 

 

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