この1週間で最も大きく取り扱われたニュースといえば、日産自動車の代表取締役会長カルロス・ゴーン氏の逮捕でした。

カルロス・ゴーン氏といえば、経営危機に陥っていた日産自動車を救うべくフランスの自動車会社ルノーから派遣され、1999年に最高執行責任者(COO)、00年に社長に就任して見事日産自動車を復活させたカリスマ経営者です。

 

またフランス・ルノーにおいても取締役会長兼CEO、ルノー・日産の統括会社である「ルノー・日産アライアンス」でも会長兼CEOに就任。16年には燃費データ不正で経営悪化が懸念された三菱自動車に出資しこれを傘下に収め、自ら代表取締役会長に就任。このルノー・日産・三菱3社連合は2018年上半期に世界自動車販売台数トップとなっており、まさに「世界自動車業界の巨人」ともいうべき人物でした。

この超大物が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕されたことは、世間に大きな驚きを与えました。

 

ゴーン氏の逮捕容疑は、2011年3月期~15年3月期の5年間に計約99億9800万円の報酬を受け取ったのに、計約49億8700万円と嘘の記載をした有価証券報告書を関東財務局に提出した疑い(報酬50億円を過少申告)ですが、それとは別に16年3月期~18年3月期にも計約30億円の報酬も記載されていなかったようです。

またニュース番組等で「報酬隠しの手段」として紹介されていた、株価に連動して報酬を受け取る「ストック・アプリシエーション権(SAR)」での40億円の報酬は逮捕容疑とは別であったようで、地元紙は「報酬不記載120億円か」と24日の一面トップで報じました。

 

これ以外にも多くの会社のカネを不正に支出していた事が、内部からの告発によって明るみになっています。

 

「正直額が大きすぎて何が何だか分からない。というか、そんな巨額財産を隠し持っていたからと言って何かいいことあるの?」というのが庶民たる私の率直な感想ですが…。

とにかく有価証券報告書というのは、投資家が投資の判断に使う重要な資料であるため、これに虚偽の記載をして提出することは株主を欺くことになります。資本主義社会においては重罪です。

 

また当然所得には税金が発生しますので、高額の所得隠しは「脱税」となります。ですからこの後ゴーン氏は脱税の容疑も掛けられることになります。

本来国民のために使われるための税金を脱税していたというのならば、私達にだって怒る権利があります。私達だって裕福でないのにちゃんと納税しているのにふざけるなというものです。

ですから、ゴーン氏の逮捕に関しては同情の余地はありません。

 

ですが、フランスではちょっと事情が違うようでゴーン氏に同情的に報じている所もあるようです。

23日の日経新聞3面では、フランスの各紙がこのゴーン氏逮捕をどのように報じたかをまとめていますが、興味深いのが

フィガロ(中道右派):「日本人は恩知らずか」

レゼコー(経済紙):「陰謀論は本当か」

の2紙の見出しです。

 

 

フィガロの言っている事は分からなくはないですね。ゴーン氏は曲がりなりにも日産を建て直したのですから。でも犯罪は犯罪です。

レゼコーの「陰謀論」への言及については、今回の逮捕劇が内部告発からであったことから、「フランスでは日本人によるクーデターであったとの見方が広がっている」とゴーン氏が権力闘争で失脚したとの分析を紹介したようです。

 

これについては、あながち間違っていないといえる部分はあります。

ゴーン氏はルノー主導による日産との統合(事実上の吸収)を画策しており、それが日産幹部の猛反対にあっていたからです。

しかもルノーの筆頭株主はフランス政府であり、フランスのマクロン大統領はルノーによる日産の吸収合併論者といわれています。

ルノーが日産を救ったといっても、それはもはや過去の話。現在ではルノーの利益の半分は日産の貢献分と言われ完全に立場が逆転。にも関わらず日産の株式の実に43%をルノーが保有している、という力関係には日産の役員からも不満の声が上がっていました。

 

大体なぜトヨタと並び日本の基幹産業を牽引する日産が、フランスの「国有企業」といわれるルノーに吸収されなければならないのか。

みすみす日本の技術をフランスに流出させるなど、あってはならない事です。(当然フランス側はそれを期待しているわけですが)

 

これについて地元紙の25日の1面トップの記事は大変興味深いものがあります。

 

 

日産、春から極秘調査 日産自動車は今年春ごろから役員を含む少人数の極秘チームを結成し、ゴーン容疑者の不正行為について社内調査を進めていた事が24日分かった。(略)フランス自動車大手ルノー主導による経営統合をゴーン容疑者が進めることを警戒し、会長解任を急いだことも判明した。」

 

これが事実とするならば今回の逮捕劇は、日産役員がルノーとの経営統合を阻止するために画策したクーデターであったということになります。

 

また同紙はこの事件が単なる日産内のクーデター事件に収まらず、政治的な側面を有していた事を2面「永田町 天地人」で匂わせています。この記事では日産の川口均専務が20日午前、菅官房長官と面会したことが書かれています。

 

「確かに日産はトヨタと並ぶ日本を代表する自動車会社であることは違いないが、一民間企業で起きた事件について政権ナンバー2の菅氏への説明は異例と言っていい。」

「日産と提携関係にあるフランスのルノーを巡る処理を誤ると日仏外交問題に発展しかねない危うさをはらんでいるためだ。」

「フランスのマクロン大統領はルノーによる日産の吸収合併論者とみられていた。そこに菅氏は早くから着目していたようだ。」

「菅氏と川口専務の会談があえて公然と行われたのは、日本政府がこの問題に並々ならぬ関心を抱いている事をフランス側に伝えるメッセージの意味を持っていた。」

「これに対してフランス側も異例の行動に出た。駐フランス大使が東京拘置所でゴーン容疑者と面会した。自国民が他国で身柄を拘束された場合は大使館、領事館の外交官が面会するのは当然の職務とされるが、『大使が出向くのは極めて異例』(外務省幹部)という。日仏間に火花が散った瞬間だった。」

 

 

こうした記事の書き方は、同紙がこの事件を単純な「不正をはたらいていたカリスマ経営者の逮捕劇」と捉えていないことを十分伺わせます。

 

さらに興味深い話として、元財務官僚で経済学者である高橋洋一氏の次の動画も紹介致します。

「ゴーン氏逮捕の裏にトランプ大統領の影」と銘打ち、親中派のマクロン大統領によって日産(及びその傘下にある三菱)の技術が中国に流出することをトランプ大統領が懸念していた、という話しが語られています。

 

 

真相は一般人が窺い知る事の出来ない深淵の中にあるのでしょうが、この事件の今後の展開を暫く注視する必要があるでしょう。