8月28日のブログは産経新聞一面から。

2015年2月に終了した日韓通貨交換(スワップ)協定が、
韓国からの申し出によって新たな協定として議論が開始される、というもの。


そもそも『日韓スワップ協定』って何?という話なのですが
新聞を読むと「金融危機などの緊急時の際に米ドルなどの通貨を融通し合う協定」と書かれています。
これだけではちょっとイメージしづらいですね。

もともとは1997年に発生した 「アジア通貨危機」 の反省から端を発したものですが
―この話は後述することとし―
スワップ協定の狙いを一言でいうと、『某国のおカネの信用保証』ということになります。
 

「おカネ=紙幣」とは乱暴に言ってしまえば、その国の中央銀行が絵柄と数字を印刷した
単なる「紙」です。
これがなぜ物と交換することが出来るのかというと、「国がその紙の価値を保証」しているからです。

では、その「国」とやらは信用出来るのか?
と思った人はご明察です。
まさにこの部分が、この話題のキモだからです。

余談ですが、紙幣の価値を保障する国が信用できなくなった時、
その国の紙幣は紙くず同然なまでに価値を落とします。

これが、ハイパーインフレです。

ハイパーインフレとは、物価がいきなり何万倍に跳ね上がる事ではありません。
本当は、それまでの紙幣では買い物が出来なくなる状態のことを言います。
 


因みに昔は、国は自国が保有するゴールドと同じだけしか紙幣を刷れない、
=交換所に紙幣を持っていけば等量のゴールドと変換が可能という「信用」がありました。
(金本位制)


今はそういう縛りがありません。
現実的には、「世界の基軸通貨と安定して交換が可能である」ということが信用の担保となります。

例えばこんな話をイメージして下さい。(言っておきますがあくまで「イメージ」です)
私が住んでいる新潟市の隣に、仮にK市という自治体があるとします。

――

K市では「オン」という市の出先機関が印刷する金券が出回っているとします。
「オン」はK市の役場で等価の日本円と交換が出来ます。

故にK市の住民は、「オン」の価値を信用し、普段は特に疑う事なく
「オン」を使って生活しています。給料も「オン」で支払われるくらいです。
K市への税も「オン」です。
私もK市にいる間は持っている日本円を「オン」に交換して、買い物をします。


そんなある日、
「実はK市の役場には、K市が公言しているほどには日本円がない」
という話を耳にします。

私は慌てます。それでは「『オン』を役場に持っていけば等価の日本円に交換してくれる」という前提が崩れます。

その前提なくば、K市の住民でもない私にとって「オン」などただの紙屑です。要りません。
交換が可能のうちに、持っている「オン」を役場で日本円に交換しておかなければなりません。

役場についたら手遅れでした。
役場は長蛇の列です。
「騒がないでください。安心してください。ちゃんと日本円との交換は可能です。」
役人はそう声を張り上げますが、しかし騒ぎは収まりません。
役人は困ります。近隣の市から日本円を借りてくる時間もありません。
役場にある日本円では、この行列が持つ「オン」とは交換が出来ません。

とうとう役場は白旗を上げます。
「申し訳ありません。諸般の事情により今まで通りのレート(比率)では交換が出来ません。
市とも相談し、ここからは比率を下げ『10オン』につき『1日本円』での交換となります。」

さてK市内は大混乱です。市内で住民が至る所で暴動を起こし、
役場には「オン」と日本円との交換の列が途絶えません。その度に「オン」の比率も順次下げていかざるを得ませんでした。


もっと困ったのがK市です。
K市は複数の隣接市から日本円を借りていましたが、これが返せません。
今までは住民からの市民税で入ってくる「オン」を、等価の日本円と見做してもらって受け取ってもらったりもしてましたが、
自ら比率を変えてしまっていますので、もう税収で入ってくる「オン」では全然返済に足りません。
また新たに日本円を貸してくれる市もありません。(ひとつの隣接市以外は)
債務不履行、つまり「デフォルト」です。

――

とある方向から、もの凄い罵声を浴びそうなイメージ話ですが
お察しの通り
K市を「韓国」
オンを「ウォン」
日本円を 「アメリカドル」
役場へ交換に並ぶ長蛇の列を「為替市場」に置き換えれば
大体、1997年に起きた「アジア通貨危機」の話となります。


 
当時、タイ、インドネシア、韓国などの発展途上国や新興国は
国際的に信用のない自国通貨と、世界の基軸通貨であるアメリカドルとを
常に一定の割合で交換する「固定相場制」を採ることで、自国通貨の信用を保ち
国内のインフレを抑え、外国からの投資を呼び込もうとしていました(ドル・ペッグ制)。

しかし、それはアメリカの金融政策によって
自国の経済が大きく左右されてしまうことを意味しており、
1990年代後半、アメリカのクリントン政権がドル高政策を採ると
これらの国は深刻な不況に陥ります。
(輸出品の値段が高くなって外国で物が売れなくなるから)

そこに目を付けたのが国際金融資本(ヘッジファンド)でした。

「まあ、もともと経済規模が全く違うし、無理があるシステムだったんだよ。
もう間もなく、ドル・ペッグ制は崩壊し、アジア新興国の通貨は大暴落するよ。

だから、僕達は一斉に世界中にある新興国の通貨、
―とりあえずタイの通貨「バーツ」―を借り集めて
それをもって タイにアメリカドルへの交換を求めるよ。

タイの中央銀行はそんなにドルを持っていないから、
絶対に途中で音を上げて、通貨を切り下げるよ。
そうしたらもう、バーツなんて紙屑さ。
タダ当然で回収して、借りた先に返せばいい。」

こうして1997年、ヘッジファンドはタイにバーツの「空売り」を仕掛け、巨額の利益を得ます。
タイの経済は混乱に陥り、IMF(国際通貨基金)の管理下に置かれることになります。

混乱は飛び火して、
インドネシアの「ルピア」が暴落、スハルト政権崩壊の切っ掛けとなり
同様に韓国の「ウォン」も暴落、デフォルトしIMFの管理下に入ります。

この時、韓国に助け船を出したのが日本でした。

――

この危機の後、タイのチェンマイで開かれたASEAN(東南アジア諸連合)+3(日中韓)首脳会議では、
加盟国が外貨(要はアメリカドル)を融通しあう「通貨スワップ」(チェンマイ・イニシアティブ)が結ばれることになり、

特に日韓の間では、この融通額を次第に大きくしていく「日韓通貨スワップ協定」へとなっていくのです。しかしこれは韓国側が「もう必要ない」という事で2015年2月に終了、したはずでした。

以上見てきた「スワップ協定」、
日本が多額のドルを保有し、国際的な信用もあることから
ハッキリ言ってこれは事実上、日本が(厳密に言えば日本銀行が)アジア諸国、
日韓スワップに関しては韓国の、通貨の信用を担保し、
場合によっては保証人になるという制度なのです。

(日本が通貨危機に陥って、韓国はじめアジアの国からドルを融通してもらうケースなど考えられないから)

まあ、しかし韓国…
よく言ってこれたものですよね。
日本としては、何のメリットもない話ですが
アメリカが半島に高精度レーダーを配備したいという地政学的な事情から
「『貸し』をつくってやった」というところなのでしょう。
(恐らくその『貸し』が返って来ることはないのだろうが)


しかし、本当に韓国が破綻して 地域を混乱させるとか
或いはそこからチャイナが援助することでその影響下に入り、
アメリカを激怒させるとか
そういう足の引っ張られ方をされるくらいなら
不快な話ではありますが、まだスワップ協定を認めた方がいいのかもしれません。

でも、これから協議ということなのであれば
せめて韓国に何らかの条件を呑ませる必要ぐらいはあると思いますが。