今日は日経新聞の一面から。
「単位労働コスト」で日中が逆転したことによって、日本企業の国内回帰が広がりつつある。
という内容です。


昨日は大きなニュースがなかったと見えて、
各紙一面はバラバラ。日経や朝日などは特集記事をトップに持ってきていました。


「単位労働コスト」というのは
企業が一定のモノを作るのに必要なコストを指す言葉で、
表面的な人件費に労働生産性、日本企業が外国に工場を建ててモノを作る際にはそれについてのコストなんかも加味したものですが

これが日中で逆転した、というのは
簡単に言うと「日本企業が中国でモノを作ることについてのメリットがなくなった」ということです。


私が子供の頃、母から聞いた言葉で印象に残っているものに
「グローバリズムにおける経済とはプールの中の『湧き水』のようなもので、最初は一か所で吹き上がっていても、
やがてその勢いは弱まり、周囲の水位が上がり水面がフラットになった状態で落ち着く」
というのがありました。

ここでは、「グローバリズム」を「国境を越えてヒト・モノ・カネが行き来する世界、及び思想」と定義します。

昔、
高度成長期以降の日本は、日本の工場で作ったモノがアメリカで高く売れ
(今と比べれば格段に円が安かったのでアメリカ人から見ると安い)、
それが日本の労働者の賃金となり、日本人自身が消費者となってモノを買うことで
それが企業の収益になり、それがまた労働者に還元されるという経済の好循環が行われてました。
市場におけるカネの流通量も増え、インフレとなりました。


現代史の話ではないので途中経過はすっ飛ばしますが、
1985年プラザ合意の後、円は急激に高くなり
好景気の末すっかり日本人労働者の人件費は高くなっていたため、日本企業の国際競争力は以前に比べ低下しました。
そこで日本企業は、当時日本に比べ各段に人件費が安かった中国に工場を移転し、生産コストを抑えようとしたのですが、
個人的には、それは日本全体にとっては不幸な選択であったように思います。


確かに企業は生産コストを抑え、安い商品を売ることで利益を上げることができましたが
(ユニクロなんて有名でしたよね)
一部の役員報酬を除き、労働者への賃金は中国大陸に落ちることになり、
マクロ的な視点でいえば、日本のカネが中国に流出する結果になりました。
(もっと大切な「技術」も流出することになりました)
そして日本国内では中国からくる安い商品に対抗するため、日本労働者の賃金も抑えられることになりました。
牛丼の値下げ競争なんて記憶に新しいですが、高い商品が売れなくなり
安いものが買われるようになりました。当然ながら企業の収益は落ち、労働者の賃金は上がらなくなり、
市場にカネが回らない、デフレが起こりました。
これが約20年続きます。「失われた20年」です。

そしてこの現象は、結局中国が経済的に(さらに言えば軍事的にも)日本を上回るようになるまで続いたわけです。

そう考えると恐ろしいですよね、グローバリズム。

記事では「日本企業の国内回帰も広がりつつある」なんて書いてありますが、
随分と呑気な話だなと思います。
とはいえ、これで日本国内で流通するカネが少しは増えてくれるのでしょうから、
この記事自体は日本にとって歓迎すべきことなのです。

気になるのは記事の後半に

アダストリア(という企業がある)は「(生産比率を引き下げる中国に代わり)ベトナムなど東南アジアを1割から3割に高める。」

とありますが、
いやいや、それじゃまた「同じ道」を再度歩くことになるでしょう。