真夏のデザートには吉野葛の葛切りが涼しくていいです。

葛根は、葛の根を乾燥させたものを生薬名葛根(かっこん)と呼びます。日本薬局方に収録されている生薬で、数年かけて肥大した根が用いられます。発汗作用、解熱作用、鎮痛作用があるとされ、漢方方剤の葛根湯、参蘇飲、独活葛根湯などの原料になります。

風邪の初期症状に用いられる葛根湯の主薬です。

葛は、マメ科クズ属のつる性の多年草です。山野に生え、半低木となり、根を用いて食材の葛澱粉が作られ、花は万葉の昔から秋の七草の一つに数えられています。甘い香りの花が好きです。

大和国(奈良県)吉野川(紀の川)上流の国栖(くず)が葛の産地であったことに由来して、葛という名です。国栖の人たちが売り歩きました。

大きく肥大した塊根に含まれる澱粉をとり、「葛粉」として利用します。秋から冬にかけて掘り起こしたものを砕いて水を加え、繊維を取り除き、精製して澱粉だけを採取します。

「吉野葛」は、葛澱粉50%に甘藷などの澱粉を50%混ぜたものです。「吉野本葛」とは、葛根からつくれた澱粉を100%使った葛粉のことです。もちろん添加物や化学物質などは使用されていません。

吉野は良い水に恵まれ、葛が自生する吉野地方は、昔から吉野本葛の製造が盛んに行われてきた土地です。葛粉を精製する「吉野晒し(よしのざらし)」「寒晒し(かんざらし)」という伝統製法があります。極寒期に、葛根から取り出した澱粉を何回も冷水に晒し、攪拌して不純物を取り除く工程を10日ほどかけて繰り返します。

葛粉を湯で溶かしたものを葛湯と言います。熱を加えて溶かすと透明になります。葛切りや葛餅、葛菓子などの和菓子材料、料理のとろみ付けに古くから用いられています。

吉野本葛の塊を砕いて、三温糖を加えて混ぜます。電子レンジで温めながら透明になるように仕上げます。これは冬のご馳走です。夏はそのまま冷蔵庫で冷やして食べることもできますが、やはり夏は葛切りです。

葛切りは、葛粉を水で溶かし、型に入れてから加熱し板状に固めたものを、うどんのように細長く切ってえ麺状にしたものです。葛切りは澱粉なので加熱する事でゲル化します。冷して黒蜜をかけて食べます。

京都四条の鍵善良房の「くずきり」は店の代名詞の役割となっています。また、奈良女子大学へ行くとき必ず立ち寄る寛永堂奈良

本店でも葛切りを注文します。黒蜜を選びます。これで涼しくなるのです。

金沢も和菓子の名品の多い街です。加賀藩御用菓子司の森八では加賀藩伝統の宝達葛を用いた「くずきり」が有名です。自分で葛切りを押し出して作ります。それを黒糖と和三盆の黒蜜でいただきます。

葛切りを乾燥したものは鍋料理の具にします。お弁当に残りを入れると一見糸蒟蒻のようにも見えますが、光り方が異なります。艶があります。食べるときの弾力ある歯ごたえが違います。


葛切に京極の夜を思ひ出づ     能村登四郎
葛切と鎧庇に品書き吊る      松崎鉄之介
葛切や些事ばかりなるひと日とて   豊田都峰

葛切や無言の笑を交はしをり     かずモン
澱粉を鎌で確かめ葛根掘る
葛の葉や島の石炭試掘跡
葛枯るや神の積まれし古生層
姫川のひすい巨石や葛の花
葛の花かつて酒屋の黒き屋根
断崖に如砥如矢葛の花
荒海へ崖突き刺さる葛の花
よく揺るる吊橋渡り葛の花