KAZUMI-BOY夜話 9 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ



シャー・・・・・



私はバスルームのドアに身体を寄せると、耳を近付ける。



『確かに・・・この中からシャワーの音がする・・・』



意を決し、ドアノブに手を掛けた・・・・



と、その瞬間!



「あ!」



シャワーの音がピタリと止んだ。



私は勢いよくドアを開けると・・・



「誰だ!?」



と声を掛けた。



シャワーカーテンは、閉まっている。



私がシャワーからあがる時に閉めたのだ。



「!?」



しかし変だ・・・



私はバスルーム内にこもっている筈の湯気が全くない事に気づいた。



『水を出してた・・・?』



私は手を伸ばすとシャワーカーテンを掴み、勢いよく開けた。



「?」



誰もいない・・・?



バスタブを覗き込んでみるも、つい今の今迄シャワーを使っていたとは思えない状態であった。



新たな水飛沫もないばかりか・・・バスタブは乾きかけている。




普段の私ならば、この時点で・・・いや、シャワーの音が聞こえた時点でフロントに電話をかけただろう。



しかし何故か・・・



私はそうしなかった。



私はバスルームのドアを閉めると、ベッドに戻った。



そして、ベッドに腰をかけると・・・・



「ここはキミの部屋なんだな?」



と、無意識に呟いた。



再び強烈な眠気がやって来た。



私はバタリと身を横たえ、そのまま再び眠ってしまったのである。






私の様な人間にとって、こうした状態は非常に危険なのである。



事によっては、このまま憑依されてしまいかねないからだ。



この状況は既に、私は『キミ』に操作されている様なものである。



そして、もはや第三者の介入なしには、解決されない状況と言っても過言ではなかっただろう。






再び眠りに落ちてしまった私が、次に目覚めたのは明け方であった。



そして先程と同じ様に、まるで眠りになど就かなかったかの様な覚醒であった。



目も脳も冴え冴えとしている。



私はベッドがよせてある壁に背を向け左横向きに寝ていた。


私の左手はベッドの外に突き出ており、私はかなり、ベッドの端に寝ているらしかった。


それこそ、あと数センチで床に転がり落ちそうである。


私が姿勢を変えようとした、その時である。






「!!!」



身体が突如動かなくなった。



金縛りである。



さらに・・・・



私は『ある物』の存在を感じていた。







それは・・・・



私の背中にあった・・・・






誰かが・・・・・








私のTシャツを背中から掴んでいる・・・・







『だ・・・ダメだ・・・・動けない・・・・』



私は身体の自由も声も失っていた。






・・・・と・・・・




『!?』





私は、更に『何か』を感じた・・・。














この手・・・・




二本じゃない!!!




もっと・・・・





沢山ある!!!!






私のTシャツは背後からあちらこちらを掴まれており、いびつに引っ張られてた。



既に襟ぐりは私の喉を圧迫している。



『や・・・やめろ!!!』



私はこの時、ようやく我に返った様な気がした。



悪寒がし、恐怖を感じた。



金縛りを解こうと、必死にもがき、声を発し様と足掻いた。







『え!?』




私は一瞬、自分の目を疑った・・・。






ず・・・・ずず・・・・ず・・・・









私の身体が・・・・



少しづつ・・・・



移動し始めたのである。












つまり・・・・




背中を向けている壁の方へ・・・・・。







ずず・・・・ず・・・・ずずず・・・・・




衣擦れの音・・・・




身体がシーツに擦れる音がする・・・・。




目に映っている、テレビを乗せたサイドボードが少しづつ離れて行く・・・。






『くっ!!ダメだ!!いつもみたいに声が・・・出せない!!』






ず・・・・・ずずずず・・・・・





私の身体は、本当に少しづつ壁に近づいて行く・・・・。






Tシャツを掴む、数本の手は、時折私の肩や背中、そして腕に触れた。






体温のない手・・・・






ずず・・・・ず・・・・・・ずずずずず・・・・










ドンッ!




私の背中が壁にあたった。









うわーーーーーーーーーーーーーっ!!




声が出る!!!



金縛りが解け、同時に背中の手の感触も消えた。



私はあたふたと壁から離れ、ベッドから降りた。





私はベッドから距離を置き、ジッと壁を見つめるも、何もない。



「なんなんだよ・・・一体・・・?」



私は窓辺に行き、カーテンを開ける。



朝日が昇って来る気配・・・・。




私は『ふっ』と息をつくと、その場にしゃがみこんだ。




「だからさぁ・・・・」




部屋中を見渡しながら言った。




「出るなら『出る』って、最初に言えよぉ~!!!!」



気づくと、Tシャツは酷くねじ曲がっている。





私はゆっくりと立ち上がると、Tシャツの捻じれを直し、コーヒーを入れた。



「こんな・・・朝になってからじゃ、部屋を変えて貰う意味もないじゃん!!」




私はその後、テレビを見、シャワーを浴び、帰京の支度を始めたのだった。







荷物をまとめた私は、出る際に部屋を振り返った。




ベッドの足もとに掛かっている絵が目に入った。



私は荷物を床に置き、ツカツカとその絵に近づいた。




額縁を持って裏返す・・・・。







「は!やっぱりな・・・。」




絵の裏側には、一枚のお札が貼り付けられていた。




「一枚じゃ足んないみたいだぜぃ!!」




私は荷物を取り上げると、この部屋を離れた。






その後、東京に戻った私は、寺の住職である友人のお父上から、お札を頂き、それをツアー中持ち歩いた。



小さなものだったので、本番中も衣装のリストバンドの中に貼り付けた。



お陰で、それ以降のツアー日程は快適に進んで行ったのである。





この友人のお父上と言うのは、当時日本で五本の指に入る程の、偉く徳の高いご住職であったのだが、私はその後、別の機会にまた、このご住職のお世話になる事となるのだが・・・・




それはまた・・・・



来年の夏にでも・・・




お話するとしよう。






    <掴む手>完