『まぁ!真っ黒じゃない!』
ジョディは目を丸くして私を出迎えた。
『ね!ね!俺、スパニッシュやプエルトリカンに見えると思わない?』
私は開口一番、ジョディに詰め寄った。
『見えない…。』
ジョディは苦笑しながら言った。
『ええ~?みんな見えるって言ってくれたよ?』
『付き合いが長いのよ、あたしに取ってKAZUMIは、色が黒かろうが白かろうが日本人にしか見えないわよ。』
『なんだ…詰まんないの。』
ジョディは不思議そうに聞いた。
『ヒスパニック系に見られたいの?』
『うーん…何人に見られたいって言うか…日本人に見えなきゃいい…かな…。』
ジョディは少し顔を曇らせた。
『どうして?』
『何処にでも行きたいからだよ。』
『この前の南部の話…まだ気にしてるのね…。』
『…………………。』
『あたしは、例え仕事で連れて行って貰えない場所があったとしても、あなたは日本人であるべきだし、日本人以外の何者でもない…と思うわ。』
私は、思いがけないジョディの反応に落胆した。
私は単純に、ジョディにも喜んで欲しかったのである。
私が、オリエンタルであるが為に遭遇して来た誹謗中傷に落ち込めば、いつも励ましてくれていたのはジョディである。
南部に連れて行って貰えなかった事で、私が如何にショックを受けたかを、一番分かっているのもジョディである。
私が、スパニッシュっぽく見える事で、南部の仕事にも連れて行って貰えるかも知れない事を喜んで欲しかったのだ。
『…ジョディには解らないよ…』
私は、一気に爆発してしまいそうな、怒りとも悲しみともつかない感情を必死に抑えて呟いた。
『え?何て言ったの?』
私はジョディの顔も見ずに大声で言った。
『アメリカ人で白人のジョディには、俺の気持ちなんて解らない!って言ったんだ!』
私はジョディの言葉も待たずに、自分の部屋に駆け込んだ。
何とも…
青い青い(笑)。
ジョディの温かい真意…
本当の勇気と誇りを持つべきだ!と言う意見に耳を貸せない、未熟な私。
部屋に駆け込み、ベッドに転がり込んだ私は、枕に顔を埋めていた…。
やりきれない思いに押し潰されそうだった。
しかしそれでも、頭の中では…
「絶対に南部の仕事にも行ってやる!」
と言う考えで一杯であった。
翌朝、私は起き抜け真っ先に、近所のドラッグストアに向かった。
目的の品を手に入れて、帰宅すると、ジョディが言った。
『何処に行ってたの?』
『ドラッグストア…』
私は、昨夜の事にわだかまりを感じており、ジョディの顔が見れなかった。
『何を買って来たの?』
私は黙って、買って来た品をジョディに突き出して見せた。
私の手にはヘアカラーが握られていた。