現場…色々物語⑰ | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ

その生徒はそれ以来、毎クラス腹痛を訴える様になった。


『一度、医者に見て貰ったら?』


訝しく思った私が、そう言うと、彼女は「大丈夫です」の一点張り。


しかし、周りの生徒達も既に怪訝に思っている。


『先生…あの子変だよ、絶対!』


付き合いの長い生徒は、眉間に皺を寄せて、私に言った。


『みんな変だと思っているし、気を付けた方がいいよ!』


教え始めて間もない私は、こうした生徒にどう対処したら良いのか分からなかった。



ある日、私が外人インストラクターのクラスを受けていると、いつの間にか教室の後ろの壁に張り付き、例の体育座りの彼女が居た。

エクササイズ、コンビネーション…と、そのクラスの間中ずっと彼女の視線を感じた。


私は、気持ち悪くなり、立ち位置を変える。


すると、彼女も居場所を変えるのだった。


『これは…困った…。』


私はクラスに集中出来なくなってしまった。


やがて、彼女の腹痛癖は無くなったものの、クラス終了後、なかなか帰らなくなってしまった。


当時、私のクラスは全て、タイムテーブルのラストに位置付けられており、クラス終了後は、生徒達を帰した後にスタジオを閉めなければならなかったのだが、他の生徒達が帰っても、彼女は帰る様子もなく、ずっと私の帰宅を待つ様になってしまったのである。


私が帰る様に促しても、なかなか動かない。


『キミが帰らなきゃ、スタジオを閉められないんだけど…帰ってくれないかな。』


と、かなり消極的にたしなめる事しか出来ない私…。

今の私なら、一喝怒鳴り付けて終わるのだが、当時の私はそれが出来なかった(笑)。


誰だ?


信じられない!と言ったのは?


私にだって、可愛い新人時代くらいあったわい!




私は、付き合いが長く、仲の良い生徒達何人かに頼み、スタジオを閉めるまで一緒に残って貰う事にした。

彼女と二人きりになる事を避けたのである。


以来、私の周りには親衛隊の様な取り巻きが出来た。

親衛隊は、スタジオを閉めると彼女を私から引っ剥がす様にして、先に私を帰宅させ、その後、彼女を取り囲む様にして駅まで連れて行ってくれたのである。


随分後に、親衛隊長から聞いた話によると…


ある日の事、スタジオを後にした彼女と親衛隊は、道々話をしたそうである。


『みんなKAZUMI-BOY先生のファンなんだから、先生に迷惑かけたらダメだよ。』

と、彼女を諭した所…


『…ファンだけでいいの?』


と、遠い眼で答えるともなく呟いたそうである。


その時の彼女の、あまりに不気味な様子に、親衛隊の諸君は一斉に鳥肌が立ったそうだ。



しかし、こうした親衛隊諸君の努力も空しく、彼女の行動はエスカレートし続けたのである…。