ニューヨーク物語 22 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ

私は、振付師不在の稽古場を後にした。


悶々とした気持ちで稽古場に居るよりも、レッスンで汗を流した方が有意義である。


私はステップスに向かった。


こうした時にも、私の暗い気持ちを救うのは、やはりダンスであった。
クラスを受けた後は、モヤモヤした気持ちが晴れる。

身体を動かすと言う事は、斯くも偉大である。


勿論、モヤモヤした気持ちが晴れる…とは言うものの、問題の解決にはならないが、少なくとも私を前向きにしてくれる。


汗を流し、やや気持ちが軽くなった私は、スタジオの廊下でクールダウンしながら、知り合いのダンサー達と喋っていた。


するとそこへ、同じスカラーでチャイニーズの女の子、メイがやって来た。


彼女は非常に美人で、賢く、真面目であった。


日頃受けているクラスが違うので、あまりレッスンを一緒に受ける機会は少なかったが、掃除ではいつも一緒だった。


彼女は私に近づくと…


『KAZUMI、話があるんだけど、ちょっといいかしら?』


と、私を廊下の隅に誘った。


『実は、オリエンタルのダンサーを探しているんだけど…出来ればチャイニーズかジャパニーズ、或いはコリアン。』


『どういう事?』


彼女の説明に寄ると、詳細はこうだ。


この冬、台湾の人気女性歌手が、アメリカ中のチャイナタウンを中心に、チャリティーツアーを開催する。

ついてはダンサーを4名、ニューヨークで調達したい。


ニューヨークのチャイナタウンに、このショーをプロデュースしているオフィスがある。


この2~3日中にはダンサーを集めたい。
時間が迫っているので、オーディションは無し。


との事であった。


私は、考えた。


これは、どうしたものか?

今、携わっているクリスマスのイベントを続けるならば、チャリティーツアーは出来ない。


チャリティーツアーを取るならば、クリスマスのイベントは降りなければならない。



『あたしの知り合いに、ダンサーを集めたいって相談されたんだけど、実はあたしは別の仕事があるから、この話を引き受けられないの。だから、出来ればKAZUMIにダンサーを集めて貰いたいのよ。』



私は、この言葉で心を決めた。


私が自分でダンサーを集めて、アメリカ内を回る!


私の心の天秤は、一気にチャリティーツアーの方に傾いた。



『分かった!やるよ!』


『良かった!お願いね!』


私は、メイからオフィスの連絡先を貰うと、私が気の合う仲間を探し始めたのである。




クリスマスイベントの話をくれたスカラー仲間には、事情を話し、キャストから降ろして貰った。


些か心が痛んだが、もはや私の心はクリスマスイベントには無かった。


『なんか…ごめん…。途中で投げ出して。せっかく誘ってくれたのに。』


『いいのよ。あんな調子だもの。この先、どうなるか分かんないもんね(笑)。もし、あたしがあなただったら、同じ選択をすると思うわ。』




こうして私は、最初に貰った仕事を投げた。


後日、このスカラー仲間に話を聞いた所、クリスマスイベントは散々だった様である。


振付師は稽古場に戻って来たものの、相変わらずの仕事ぶりで、私以外のダンサーの何人かも降板したそうだ。


更に彼女が言うには…


『あんな最低な事ってないわ!KAZUMI、あんたは賢明だったわ!降りて正解よ!客の前であんなに恥ずかしい思いって、した事ないわよ!』



崩壊寸前の、しかも振付未完成に近いショーを踊った彼女達は、本番中終始アドリブで踊ったそうである。


しかも、約束のギャラは、ほんの一部しか支払われなかったらしく、彼女は暫くの間、私を捕まえては、愚痴を溢すのだった。




しかし、チャリティーツアーの方にも、私が想像も出来なかった出来事が待ち受けていたのである…。