頑張れば何とかなる事と、頑張ってもどうにもならない事。
当時の私にとって見れば、ダンスとバイト…。
これが正しくそうであった。
T君もKさんも、夜中近くまで働き、朝は早くからレッスンに向かう。
私は、そんな彼等を見ては焦っていたが、こればかりはどうにもならなかった。
しかし、諦める訳にもいかない。
ようやく少し、何かを掴めそうな気がして来たのだ。
しかし、バイト探しは難航を極めた…と言うより、四方を壁で塞がれていた。
そんな私に、ある日…
『一緒に踊らない?』
と、スカラー仲間の一人が声をかけて来た。
『知り合いがね、クリスマスのイベントでちょっとしたミュージカルをやるんで、ダンサーを探してるのよ。』
私は一も二もなく飛び付いた。
ギャラが幾らだったかは覚えていない。
恐らく…リハーサルと本番合わせて、300~500ドルくらいではなかったか?と思う。
リハーサル開始までに時間が迫っていた為、オーディションは無し。
『やった!仕事だ!』
私は、突然降って来た幸運に歓喜した。
継続的な仕事ではないし、その場しのぎではあったが、私は嬉しかった。
こんな形で仕事の方からやって来たのだ。
既に夏が終わり、秋も深まっていた。
冬支度もしなければならない。
私は、冬服の一着も持っていなかった。
本当に金が必要だった。
リハーサル開始日、私は教えて貰ったリハーサルスタジオに向かう。
タイムズスクエアにほど近いビルの中、お世辞にも綺麗なスタジオでは無かった。
振付師は若い黒人男性であった。
集まったダンサーは、男女20名ほどだったろうか。
小さな仕事…
履歴に載せても、何の利益も産み出さないだろう程の小さな仕事である。
しかし私は、幸せだった。
ほんの束の間の幸せになる…などとは、夢にも思わなかったから…。