ニューヨーク物語⑳ | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ



頑張れば何とかなる事と、頑張ってもどうにもならない事。


当時の私にとって見れば、ダンスとバイト…。


これが正しくそうであった。


T君もKさんも、夜中近くまで働き、朝は早くからレッスンに向かう。


私は、そんな彼等を見ては焦っていたが、こればかりはどうにもならなかった。


しかし、諦める訳にもいかない。


ようやく少し、何かを掴めそうな気がして来たのだ。

しかし、バイト探しは難航を極めた…と言うより、四方を壁で塞がれていた。




そんな私に、ある日…


『一緒に踊らない?』


と、スカラー仲間の一人が声をかけて来た。


『知り合いがね、クリスマスのイベントでちょっとしたミュージカルをやるんで、ダンサーを探してるのよ。』


私は一も二もなく飛び付いた。


ギャラが幾らだったかは覚えていない。
恐らく…リハーサルと本番合わせて、300~500ドルくらいではなかったか?と思う。


リハーサル開始までに時間が迫っていた為、オーディションは無し。


『やった!仕事だ!』


私は、突然降って来た幸運に歓喜した。




継続的な仕事ではないし、その場しのぎではあったが、私は嬉しかった。


こんな形で仕事の方からやって来たのだ。



既に夏が終わり、秋も深まっていた。
冬支度もしなければならない。
私は、冬服の一着も持っていなかった。


本当に金が必要だった。




リハーサル開始日、私は教えて貰ったリハーサルスタジオに向かう。


タイムズスクエアにほど近いビルの中、お世辞にも綺麗なスタジオでは無かった。


振付師は若い黒人男性であった。


集まったダンサーは、男女20名ほどだったろうか。

小さな仕事…


履歴に載せても、何の利益も産み出さないだろう程の小さな仕事である。


しかし私は、幸せだった。





ほんの束の間の幸せになる…などとは、夢にも思わなかったから…。