毎回自ら何かのテーマ(お題目)を決めてお送りするショートストーリー。
今回のテーマは『ほっと』
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「・・・・・・」
仕事から帰ってきた彼女は、部屋着に着替えると
リビングにあるソファに両足を抱えて座りこんだ。
テレビをつけて・・・傍から見れば、テレビを見ている風・・・なんだが。
いつもなら「ただいまー」って言葉さえ、今日は言わずにいる。
・・・こういう時は、大抵虫の居所がよろしくない時。
触らぬ神に何とやら。
それが、同棲を始める時に互いに決めたルール。
逆の立場の時は、やはり彼女はオレに気を遣って極力かまわないようにしてくれるし、
自分のプライベートルームからは出てこない。
それはお互い同じ時。
じゃあ・・・共有スペースであるリビングにわざわざ出てきたのは何でだろう?
そのまま部屋にいればいいじゃないか。
小さいテレビも自分の部屋にあるんだし。
「ねぇ?今日は夕飯済ませたの?」
「・・・・・・・・・」
夕飯の準備は交代制・・・だったり、先に帰ってきたほうがする。これもルール。
遅くなる時、付き合いで外で済ませる時、必ずメールを入れるのもルール。
・・・今日は何もなかった。
一応、自分の分も含めて準備はできている。あとは皿に盛り付けるだけ。
鼻から息を吐いて、一呼吸つけるとオレは黙ってミルクパンに牛乳を注ぎ温め始めた。
夕飯は・・・とりあえず後にしよう。
二人がけのソファの左側に小柄な彼女が丸まっている。
これは特に決めたわけじゃないけれど、右はオレの場所。
「・・・はい・・・」
ソファの前にあるローテーブルに彼女のマグカップをコトリと置いた。
カップを確認して、オレを見上げる。
温めた牛乳でココアを入れた。
もちろんオレの分も。
「・・・となり・・・座ってもいいかな・・・?」
「・・・・・・」
彼女が無言で頷いてくれた。
それを見て一安心してから、隣に座る。
足を抱えて丸まっているから、より小さく見える。
しばらくして・・・じーっと眺めていただけのマグカップに手を伸ばした。
ずず・・・っ
「・・・はぁ・・・あったかくてあまい・・・」
「おいし?」
「・・・うん・・・・・・」
ようやく彼女の声が聞けた。たったそれだけのことなんだけど、それだけのことがとてもうれしい。
器用に足を抱え込んだまま両手でカップを持ち、
唇につくかつかないか位のところでカップの中に視線を落としこんでいる。
「・・・あのね・・・?」
「うん?」
「えっと・・・ありがとう・・・ほっとしたら、少し落ち着いた」
「そっか・・・」
「聞かないの?何があったか?とか・・・」
視線は変わらずカップの中。静かに小気味よいリズムのような
そんな彼女の言葉がココアで湿った彼女の唇に流れる。
「話したい?」
わざと、意地悪っぽく聞き返してみた。
「・・・・・・」
予想通り、彼女は黙り込んでしまった。
オレも無言で彼女の頭をそっとなでる。
「・・・っ!」
帰ってきてから、初めて彼女の瞳にオレが写る。
なんとも複雑そうな表情で、何を言ったらいいのか判らない・・・そんな感じだ。
「話したければ聞くよ?話したくなければ・・・聞かない。君はどっちがいい?」
「・・・んー・・・
とりあえず、ご飯食べたい。お腹空いちゃった。
でもね。その後で聞いて欲しいな」
「了解。んじゃこれだけ飲んじゃおうか」
「うんっ」
べったりでもなく、離れすぎるでもなく、このくらいの距離感が俺たちにはちょうどいいらしい。
夕飯の後には、紅茶でも煎れようか。
彼女のもやもやを晴らすために、いくらでも付き合えるように・・・
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