3年前の悪夢を忘れたか 猛暑と五輪 TVが煽る愚民政策(日刊ゲンダイ)
http://www.asyura2.com/24/senkyo295/msg/176.html2024 年 7 月 28 日


※2024年7月27日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大 文字起こし

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紙面抜粋

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五輪が開幕し、TVは五輪一色(C)共同通信社

 バリ五輪が始まったが、招致も含めた力ネまみれ五輪の本質は变わったのか。平然とイスラエルも出る中、華やかな開会式やメダルラッシュ報道で着々すすむ「パンとサーカス」。折しも茂木幹事長がユーチューブで言及したのも忘れてはいけない。

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 フランスで「パリ五輪」が開幕した。セーヌ川を舞台にした開会式は日本時間の27日未明、午前2時半(現地時間26日午後7時半)からだったが、テレビは既に26日から大騒ぎ。昼のワイドショーはパリに派遣されたリポーターの中継映像に「まもなく開会式」「いよいよ開会式」のテロップ。「おいおい、開会式までまだ10時間以上あるだろう」とツッコミたくなった。

 もちろん、みなさまのNHKも昨夜7時半から1時間15分の「開会式直前スペシャル」を放送。以降も五輪関連の番組がズラリだった。

 JOC(日本オリンピック委員会)は海外開催の五輪で最多の「金」20個、メダル総数55個の目標を掲げている。日本がこれまでの夏季五輪で積み上げたメダル総数は499個。今大会の最初のメダルが節目の500個目となるから、達成したらまたテレビは騒ぐのだろう。

 ただ、現地はしょっぱなから不穏な空気も漂う。開会式前日の25日夜から26日未明(現地時間)にかけ、パリと地方都市を結ぶ高速鉄道TGVの3路線で放火など複数の破壊行為があったのだ。人的被害はなかったようだが、運行が大きく乱れ、約80万人に影響が出た。来月12日の閉会式までの17日間、現地は厳戒態勢が敷かれるが、パリ五輪をめぐっては、中東情勢の悪化でテロのリスクが高いといわれてきた。この先も緊張は続く。

 イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘では、パレスチナ自治区ガザで民間人を含む4万人近い犠牲者が出ている。ガザの人道状況悪化に、各国からイスラエルへの非難が高まるが、イスラエルはパリ五輪に平然と参加している。ウクライナ侵攻を続けるロシアと、その同盟国のベラルーシは国としての参加が認められず、個人資格の選手のみ出場可能だ。イスラエルとロシアに対する対応は、ダブルスタンダードではないのか。アスリートに非はないとしても、「平和の祭典」をうたう五輪の偽善を感じざるを得ない。

断ち切れない「五輪とカネ」の腐った関係

 もっとも、五輪なんて偽善の塊だ。コロナ禍に強行した3年前の東京五輪の悪夢を思い出して欲しい。

 招致をめぐってはIOC委員の票を獲得するための買収疑惑。大会費用は天文学的に膨らみ続け、道路整備など関連経費も加えた総額は3兆6845億円に上った。立候補時の見積もりの実に5倍だ。

 極めつきが汚職と談合である。大会開催の翌年、大会組織委員会の高橋治之元理事を筆頭に、計22人と6法人が東京地検特捜部に立件される大疑獄事件に発展。検察側は、元理事には5社から総額約2億円のワイロが渡ったとしている(公判で元理事は全面無罪を主張)。談合事件では、五輪を仕切る大手広告代理店・電通にも司直の手が及び、独占禁止法違反の罪で幹部が逮捕・起訴された。

 事件は5ルートにわたり、贈収賄では計11人の有罪が確定。いまだ複数人の公判は継続中だ。金満五輪は、まさに「負のレガシー」を山ほど残したのだが、カネまみれ五輪の本質はいまも何も変わっていない。

 フランスでも捜査当局が今年にかけ、パリ大会の組織委員会本部や関係先を捜索している。組織委や前身の招致委員会が発注した契約をめぐり、便宜供与や公金横領の疑いがあるという。こちらの事件も大会終了後に火を噴くのか。

「五輪とカネ」の腐った関係は、どこまで行っても断ち切れない。商業主義に染まった五輪のあり方に警鐘を鳴らし続けたスポーツジャーナリストの谷口源太郎氏(故人)は生前、本紙の取材にこう語っていた。

「W杯や世界選手権などの国際大会と違い、理想や理念を掲げている大会であることが五輪の存在意義です。それがモスクワとロス以降壊れ、選手を含むすべてが商品価値で測られ、国威発揚の道具となり、勝利至上主義が持ち込まれた。商品価値を高めるために取られたのは拡大路線。しかし、豪華さを求め続ければ限界が来る」

岸田自民党の狙いは、都合の悪いことは忘却の彼方へ

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シメシメ(自民党の茂木幹事長)/(C)日刊ゲンダイ

 東京五輪をめぐっては、政治利用も酷かった。汚職や談合事件とは別に、当時の安倍政権がシャカリキになって招致に動いた驚愕の内幕も、昨年末、当事者の口が滑って明らかになっている。

 石川県の馳浩知事が衆院議員時代に自民党の東京五輪招致推進本部長だった際のことだ。後に撤回して火消ししたものの、講演会で口にしたのは、こんな話だった。

「当時、総理だった安倍晋三さんから、『国会を代表して五輪招致は必ず勝ち取れ』と。『馳、カネはいくらでも出す。官房機密費もあるから』と。105名のIOC委員の全員のアルバムを作った。そのお土産の額、外で言っちゃダメですよ、官房機密費使っているから。1冊20万円するんですよ」

 安倍元首相ほど、五輪を政権浮揚や国威発揚に利用しようとした総理はいなかったのではないか。この馳発言で我々は、汚れた五輪を嫌というほど思い知らされたはずだ。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。

「五輪自体のあり方が曲がり角に来ているのは誰の目にも明らかです。商業化に巨大化。カネがかかりすぎる。もはやアスリートのための大会ではなくなっています。そして、別の問題としてあるのは、五輪と政治の関係。今ごろ自民党は、パリ五輪を『パンとサーカス』にしようとしていますよ。これからテレビはニュース番組まで五輪にジャックされ、重要なニュースはますます報じられなくなる」

 その通りで、パリ五輪の期間中、自民党はシメシメだろう。華やかな開会式やメダルラッシュ報道で着々と進む「パンとサーカス」。権力者が民衆にパン(生活の糧)とサーカス(娯楽)を与え、政治に対する批判精神を忘れさせてしまう。そうした状況を意味する古代ローマの言葉である。

「どんなにたくさんの金メダルを取っても、日本の行く末には関係ありません。自民党の裏金事件や防衛省・自衛隊のスキャンダルなど、国民が目を光らせていなければならないことがまだまだある。国のお金の使い方に関わる問題ですから」(五十嵐仁氏=前出)

円安物価高で浮かれてられない

 ただでさえ猛暑でテレビは気象絡みのニュースばかりだ。このままパリ五輪になだれ込み、五輪が終われば、お盆休み。その後は自民党総裁選。そんな流れになれば、都合の悪いことは忘却の彼方にできる。岸田首相や自民党の狙いはそんなところだ。

 折しも、自民党の茂木幹事長がユーチューブ番組で「パンとサーカス」に言及したことを忘れてはいけない。番組内で「炎上しますよ」ととがめられ訂正したが、「国民が求めているのはパンじゃない、サーカスだ」と発言していた。

「ポスト岸田」に虎視眈々の茂木のことだ。定額減税などバラマキ政策に傾斜する岸田をあてこすったのだろうが、政治への批判を忘れさせる愚民政策が念頭にあるから、こういう発言が出るのだ。

 そんな悪辣岸田自民党の思惑に、まんまと乗っかって、国民の愚民化を煽っているのがテレビなのだからどうしようもない。

 政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。

「新聞もテレビも政治が喜ぶことを一生懸命やるようになって久しい。国際的にも日本の言論の自由への疑問が投げかけられています。『五輪が始まれば皆熱狂する』という発想は、1936年のベルリン五輪を開催したヒトラーのナチスを彷彿させる。国民の目をスポーツに向けさせることで、政治や生活に対する不満を忘れさせる。これにメディアが協力している形です。しかし、この円安物価高です。五輪だからって、国民はとても浮かれてはいられないですよ」

 そうだ。怒りを忘れてはいけない。
 

以下コメント略