「自衛隊と他国との訓練」がこんなに増えている 対中防衛の最前線を「日本に任せたい」アメリカの思惑?(東京新聞) 
http://www.asyura2.com/23/warb25/msg/594.html 2024 年 6 月 25 日

2024年6月25日 12時00分

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 自衛隊と他国軍の共同訓練が相次いでいる。今月は、太平洋地域での米軍の大規模演習に自衛隊が初めて参加。米国だけでなく、インド・太平洋諸国などとの多国間訓練も多くなっている。抑止力を高める戦略のためだが、地域の緊張を高め、軍拡や偶発的な衝突につながる懸念も。あわただしい動きの背景に何があるのか。(西田直晃、山田祐一郎)

◆米軍の大規模演習に初めて参加
 「軍事的緊張を高めてしまうだけだ」
 10日、空自松島基地(宮城県東松島市)を訪れた市民団体「とめよう戦争への道! 百万人署名運動・宮城県連絡会」代表の立石美穂さん(64)は、米軍の大規模演習「バリアント・シールド」への自衛隊参加の中止を訴えた。米陸海空軍や海兵隊が2006年から隔年で実施しているが、日本が参加するのは初めてだ。
 防衛省統合幕僚監部は「同盟国や同志国との連携を強化し、インド太平洋地域の抑止力と対処力を強化する」と発表。今月7〜18日にグアム、ハワイを含むインド太平洋地域の広範囲で展開され、自衛隊は各地の基地や在日米軍施設、日本周辺の海空域での訓練に臨んだ。

◆命懸けで戦争を避ける努力こそ重要なのに
 防衛省や各地の自治体などによると、松島基地では13日以降、米軍のF16戦闘機が離着陸し、洋上での飛行訓練も実施された。海自八戸航空基地(青森県八戸市)での米軍機の展開訓練や、硫黄島(東京都小笠原村)での滑走路復旧の共同訓練、陸自国分駐屯地(鹿児島県霧島市)でのミサイル部隊の展開訓練も行われた。
 バリアント・シールドを巡っては、5月下旬の会見で木原稔防衛相が「日本の安全保障環境が厳しさを増している中、極めて意義が高い」と強調。表面化して約2週間後に行われたことについて、立石さんは「訓練の内容は1段上のステージなのに、これまでと同じようなレベルの雰囲気で進んでいくのが怖い。命懸けで戦争を避ける外交に取り組むべきなのに、逆の方角に向かっている」と危ぶむ。
 自衛隊基地を活用した演習について、軍事評論家の文谷数重氏は「在日米軍基地が使えなくなる非常事態を想定している」と話す。中国を念頭に置いた有事を前提として「いずれは民間空港への拡大も視野に入れているはずだ」とみる。

◆中国を南シナ海にくぎ付けにする狙い
 この動きと並行し、海自でも「初」の訓練が行われた。16日、米国、フィリピン、カナダの海軍との4カ国共同訓練を南シナ海で実施。同日、関東周辺の海域で実施されたトルコ海軍との共同訓練も、日本近海に艦船を招いたケースは初めてという。
 陸上幕僚監部によると、7月下旬〜8月上旬には、離島防衛を想定した陸自と米海兵隊の実動訓練「レゾリュート・ドラゴン」が今年も予定される。昨年に引き続き、陸自の輸送機V22オスプレイが参加。国内最大規模の共同訓練を九州・沖縄で展開する。
 こうした流れについて、文谷氏は「中国のアキレス腱(けん)は海上交通の要衝かつ、領土問題を抱えている南シナ海だ。日米はこの海域での多国間訓練を増加させ、南沙諸島などの権益を争うフィリピンもたき付けた。中国を南シナ海にくぎ付けにすることで、日本の領土を保全する戦略が全体的に練られている」と話す。

◆2011年度8回→16年度30回→22年度46回
 1955年以降、米国と自衛隊の共同訓練は繰り返されてきたが、近年は多国間での訓練が目立っている。防衛白書によると、自衛隊が参加した多国間共同訓練は2011年度が8回だったのに対し、16年度は30回に急増。その後も増え続け22年度は46回を数え、11年で6倍近くになった。
 参加国が公表されている22年度の訓練のうち、21回はオーストラリアで9回は韓国。このほかインドネシアやフィリピン、インドなどインド・太平洋諸国との訓練が多い。
 「多国間の共同訓練は、15年の安保法制で集団的自衛権の行使が容認されたことを背景に増えた。現在は自衛隊の訓練の多くを占める」と話すのは、軍事評論家の前田哲男氏。22年に改定された安全保障関連3文書で、防衛力の抜本的な強化や敵基地攻撃能力保有を認めたことが加速させているとし、「『専守防衛』が言葉だけとなっている」と懸念を示す。

◆自衛隊もNATOのように米軍の指揮下に置かれる?
 政府は、3文書の一つの防衛力整備計画で「二国間・多国間の共同訓練・演習を積極的に推進し、各国との相互運用性の向上や他国との関係強化等を図る」と明記している。念頭にあるのは、中国の海洋進出や北朝鮮のミサイルの脅威だ。
 防衛省の茂木陽報道官は今月18日の記者会見で、この10年で共同訓練が増えていることへの見解を問われ、「日米同盟を基軸に『自由で開かれたインド太平洋』の実現のために積極的に他国との連携を強化しようとするもののあらわれだ」と説明した。
 前田氏は「新冷戦の考えの下、日本に対中国の防衛の最前線を肩代わりさせるのが米国の考えだろう」とみる。今年4月に訪米した岸田文雄首相は、在日米軍司令部の権限を強化することでバイデン大統領と合意。陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」の発足に伴い、日米の連携が強化されることに前田氏は警鐘を鳴らす。「北大西洋条約機構(NATO)のように、自衛隊が米軍の指揮下に置かれることになるのでは」

◆「仮想敵国視が軍拡を刺激していないか」
 沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)も「日本の多国間共同訓練の増加は、米国の意向をくんだものだろう」と指摘。「日本のNATO化を進めているように感じられる。台湾有事の脅威をあおり、日本の防衛力を増強させた上で、米軍の主力部隊は後方に退いて役割を軽減するという流れだ。もはや有事の際に米国が自動的に日本を助けるということはないのでは」
 その上で「米国に見捨てられたり、米国の紛争に巻き込まれたりする恐怖から日本は防衛力強化を加速している」と説明。「中国を仮想敵国とした訓練などが示威行為となって軍拡や核配備を刺激していないか。冷静な分析が必要だ」と強調する。

◆負のスパイラルを絶つ外交を
 日本が各地で多国間の共同訓練に参加することによってリスクが高まる恐れもある。民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」の猿田佐世代表は「共同訓練は、中国を念頭に多くの国々と手を組んで軍事力で抑止するという意思の表れ。南シナ海などでの訓練に参加することで、その地域での軍事衝突が具体化した際に日本が当事国となる懸念はより広がる。平時の負担も増えると同時に、戦時の際の被害の可能性も高まる」と話す。
 「いつか火花が散るかもしれないと思いつつ、対立の道を進み続ける負のスパイラルを、どこかで転換しなければならない」と猿田氏は危機感を抱く。対立緩和のために日本ができることは何か。
 「中国との制度化された外交が必要だ。首脳同士の定期的会談を始め、省庁横断的にさまざまな分野で連携し、日ごろから連絡を取り合う密な関係を恒常的に持つことが、政府だけでなく民間も求められている」

◆デスクメモ
 日本の北から南までの基地が関わる大演習なのに、どれだけの人々が知っているのだろうか。歴史的にも緊張を高めてきたのが、軍事同盟や経済のブロック化。示威行動というリスクまで重ねれば、危険極まりない。外交が緊張を緩めないと、前に立たされている人たちはたまらない。(本)

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