検察、初公判で「政治屋ではない」会計責任者主導を強調…裏金づくりの背景には踏み込まず 2024/05/11

https://img-s-msn-com.akamaized.net/tenant/amp/entityid/BB1mbwPX.img?w=511&h=400&m=6&x=222&y=57&s=50&d=50

検察側の冒頭陳述を聞く松本淳一郎被告(右)=イラスト・構成 秋山史朗

検察側の冒頭陳述を聞く松本淳一郎被告(右)=イラスト・構成 秋山史朗© 読売新聞

 派閥の解散や政治資金規正法の改正議論に発展し、自民党を揺るがし続けている政治資金パーティーを巡る事件。同法違反(虚偽記入)に問われた安倍派の会計責任者・松本淳一郎被告(76)の初公判が10日、東京地裁で開かれた。派閥での「裏金づくり」の実態解明が期待されたが、検察側は背景事情には踏み込まず、派閥幹部でも政治家でもない被告が事件を主導したと強調した。

 10日午後2時半、東京地裁104号法廷。紺色のスーツに赤色のネクタイを締めた松本被告は、細谷 泰暢(やすのぶ) 裁判長から名前や生年月日を確認され、職業を問われると、「団体職員をやっています」とはっきりとした口調で答えた。続く罪状認否では封筒から取り出した紙に目線を落とし、「一部間違いがあります」と述べたものの、起訴事実をおおむね認めた。

 NTT出身の松本被告は退社後に元社員らでつくる政治団体の代表を務め、同社出身の世耕弘成・前参院幹事長(61)(離党)の紹介で2019年2月に安倍派の事務局長に就任。会計責任者も担うことになったが、国会議員はもちろん、議員秘書や党職員の経験もなかった。

 ある安倍派関係者は、松本被告について「選挙や政治資金のあり方に精通した『政治屋』ではなく、事務屋だ」と指摘。その被告が巨額の政治資金を還流させ、政治資金収支報告書への虚偽記入を実行できたのか、という疑問がくすぶっていた。

 しかし、検察側は冒頭陳述で「収支報告書の作成に国会議員は関与しなかった」と明言。松本被告が部下の事務局職員に原案作成を指示した上で、内容を確認・了承し、内容が真実だとする宣誓書にも押印していたと指摘した。

 さらに、松本被告が会計責任者になる際、前任者から還流や虚偽記入の仕組みを説明されたとし、かねて行われていた裏金化が引き継がれたと言及。「被告は虚偽記入になると認識していたのに、発覚しなかったために継続した」と非難した。

 検察側はこの日の公判で、松本被告の捜査段階の供述調書も読み上げた。虚偽記入を続けた理由について、「大きな問題になったことはないということだったので、深く考えることなく続けてしまった」と述べたとし、「会計責任者として深く反省している」と謝罪したことも明かした。

 松本被告は捜査を受けている間も派閥の業務に追われ、東京都千代田区にある派閥事務所に出勤していた。在宅起訴後も解散が決まっている派閥の残務整理などを淡々と続けているという。安倍派は現在、中堅・若手議員らによる実務チームが解散手続きを進めているが、解散の時期は未定だ。

 事件では、松本被告を含め、現職の国会議員や秘書ら計10人が同法違反で起訴(在宅・略式含む)されている。

 4000万円超の虚偽記入罪に問われた池田佳隆衆院議員(57)と大野泰正参院議員(64)らは起訴事実を争う方針とみられるが、初公判の期日は決まっていない。「 志帥(しすい) 会」(二階派)の元会計責任者・永井等被告(70)は6月19日に初公判を迎える。

関連するビデオ: 【解説】「裏金事件」実態解明できる? 安倍派“金庫番”初公判の影響は… (日テレNEWS NNN)

【解説】「裏金事件」実態解明できる? 安倍派“金庫番”初公判の影響は…

 略式起訴された谷川弥一・前衆院議員(82)や谷川議員の元秘書、「宏池会」(岸田派)の元会計責任者、二階俊博・元党幹事長(85)の秘書は有罪が確定している。

「包み隠さず語って」議員ら

 派閥側の指示で自身の政治団体の収支報告書に計数百万円の還流分を記載しなかったという安倍派の衆院議員は「なぜ派閥があのような指示を出したのか知りたかったが、何も明らかにならないまま初公判が終わってしまった。国民も納得しないだろう」と語った。

 6月18日の次回公判では被告人質問が予定されており、別の安倍派若手議員は「松本さんには真相をぶちまけてほしいとの思いはある」と漏らした。ベテラン参院議員の秘書は「事務方の松本さんが一人で虚偽記入を決断できるはずがない。派閥幹部の指示が本当になかったのか、法廷で包み隠さず語ってほしい」と話した。

 日大の岩井奉信名誉教授(政治学)は「検察側の立証は機械的で、事件の 全貌(ぜんぼう) は見えないままだ」とした上で、「大規模な違法行為が、なぜ平然と続いてきたのか分からなければ『政治とカネ』の問題の抜本的な解決にはつながらない。今後の公判で明らかになることを期待したい」と話した。