家庭訪問しても「本当に警察官?」と疑われ…「巡回連絡カード」の収集は警察署内が効果的 2024.3.29

福岡県警の巡回連絡カード

福岡県警の巡回連絡カード© 読売新聞

 犯罪などへの悪用を恐れて個人情報流出に対する市民の警戒感が強まり、警察でさえその収集が難しくなっている。管内住民を訪問し、緊急連絡先や家族構成を任意で書いてもらってきた「巡回連絡カード」は、警察官を装った詐欺の横行やコロナ禍もあり、協力してもらうのも一苦労だ。そんな中、福岡県警は昨年、収集方法を工夫したことでコロナ禍での急減前の水準に回復させた。県警が案じた一計とは――。(河津佑哉)

■勤務先や実家も

 交番勤務などの警察官が管内を回って任意で個人情報を記載してもらうカードは全国の警察が導入しており、「連絡表」「案内簿」など呼び方は様々。福岡県警の「巡回連絡カード」には、本人だけでなく、家族の氏名や生年月日、電話番号のほか、非常時の連絡先(勤務先や実家)の記入欄もある。

 相手が警察でなければ提供を躊躇(ちゅうちょ)しそうな内容だが、県警が特に活用を想定するのは頻発する災害時の確認・連絡用だ。行方が分からないのは誰か、優先的に救助、避難誘導すべき高齢者はいないかなどを確認する。認知症で徘徊(はいかい)した高齢者の家族への引き渡しや、独居世帯に対する特殊詐欺被害の確認にも活用してきた。

 しかし、社会の変化やコロナ禍で収集が難航するようになった。危機感を抱いた県警が取り入れたのは、「家庭訪問が難しいなら、警察署に来る住民に書いてもらおう」という逆転の発想だった。

■「警察官名乗っていたが本物?」

 県警では以前、管内の各家庭を年1回は巡回できていたが、核家族や共働きの増加などで日中不在の世帯が増え、一巡に数年かかるようになっていた。

 在宅していても協力を拒否されるケースも増えた。個人情報の流出から詐欺や強盗などの犯罪に巻き込まれてしまう時代。近年は、SNS上で警察手帳や逮捕状の写真を被害者に見せて警察官を装い、口座の暗証番号を聞き出す特殊詐欺事件まで起きている。

 「本当に警察官?」と怪しまれて収集に応じてもらえなかったり、理解を得るのに時間がかかったりすることもしばしば。記入してもらっても、その後、「昼間に警察官を名乗る人が来たが、本物か?」と署に確認の電話がかかってきたケースもあったという。

 さらに、コロナ禍で感染防止のため訪問を自粛し、収集件数は2020年の約23万件から緊急事態宣言などが多く出された21年は約12万6000件に半減。持ち直した22年も約17万件にとどまった。逆転の発想が生まれたのはこの時期だ。

 県警は23年2月、運転免許証の各種手続きなどの来署者に記入を呼びかける取り組みを県内全36署で始めた。全署での呼びかけは全国初の試みだった。

■災害時に活用

 「災害時などに役立ちます。ぜひ、記入をお願いします」。今月25日、うきは市のうきは署。免許更新手続きに訪れた住民6人に地域課の本多美佳巡査長(37)が次々と声をかけた。

 昨年7月の記録的大雨で甚大な被害が出た久留米市田主丸町の竹野地区も管内で、カードを基に独居や介護が必要な高齢者らを把握し、迅速な救助や避難誘導につなげたという。協力を求められた同市の女性(62)は「昨年の大雨で近所の人が亡くなった。緊急時に生かしてほしい」と、迷わず記入した。同市の会社員男性(34)も「詐欺が多いけど、ここは警察署。安心して個人情報を書ける」と快諾し、6人全員が協力した。

 昨春から署内で記入を促してきた本多巡査長は「拒否されることはほぼないですね」と手応えを語る。23年の全署の収集件数は、コロナ禍前と同水準の約21万5000件に回復した。

 ただ、全国では市民の信頼を損ねる事件も続く。長野県警では17年10月、交番相談員がカードから不正に情報を入手し、女性らに連絡を取ったとして県個人情報保護条例違反(盗用)容疑で書類送検された。今年1月には、大阪府警の交番巡査が住宅巡回後にカードを入れたかばんを紛失した。

 福岡県警地域総務課の石内直樹次席は「署内で収集すれば紛失リスクも低い。情報の取り扱いには万全を期すので協力してほしい」と呼びかけている。

 

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