能登被災者への給付、一気に〝倍増〟も「建て替えには足りない」

2024/02/27

地震発生から1カ月以上が経過してもそのままになっている、津波と火災の被害があった住宅=石川県能登町で2024年2月23日午後4時8分、山崎一輝撮影

地震発生から1カ月以上が経過してもそのままになっている、津波と火災の被害があった住宅=石川県能登町で2024年2月23日午後4時8分、山崎一輝撮影© 毎日新聞 提供

 能登半島地震の被災者に最大600万円を給付する仕組みが整った。被災者の生活再建につながると期待される一方、課題もある。

 もともとの制度である被災者生活再建支援法は、阪神大震災(1995年)の被災者の訴えが与野党に広がり、98年に議員立法で成立した。当初は生活必需品の購入などに限られていた使途は徐々に拡大し、2007年の改正で住宅本体の支援にも使うことができるようになった。

 東日本大震災(11年)や熊本地震(16年)など、23年12月末までに約30万世帯に5378億円が支給されている。

 ただ、支給額の上限は04年の改正で、100万円から300万円に引き上げられて以来、見直されていない。今回設けられた制度を所管する厚生労働省幹部は「同法とはあくまで別制度だが、運用上は一体的に進めていきたい」と語る。災害で住宅を失った被災者らの手元に届く給付金としては、一気に倍増が実現したことになる。

 被災者の生活再建に詳しい津久井進弁護士(兵庫県弁護士会)は「被災者の不安解消、生活再建にプラスになることは間違いない」と今回の政府の対応を評価する。

 一方で、「対象が地域や収入などで絞られたことは、被災者の中での分断を招きかねない。支援の格差をなくし、誰一人取り残さない仕組みが望ましい」と指摘する。また「今回上乗せが必要だったということは、同法の金額では足りないということを示している。今後は同法の抜本的な改正も視野に、次の災害に生かしてもらいたい」と訴える。

 被災者支援では一人一人の課題に応じて、就労を含めたきめ細かい支援をする「災害ケースマネジメント」という考え方があり、津久井氏は「受給の要件を住宅の損壊だけで決めるのではなく、多様な状況に対応できるような制度を作ることが大切だ」と語った。

「早く手続きを」

 能登半島地震の住宅被害は2月26日現在で約7万7800棟に上る。給付を受けられるかどうかに関わる全壊・半壊などの被害程度は、今も全容が明らかになっていない。

 石川県輪島市内にある内科医院は、医院の建物の一部が崩れ、隣にある男性院長(66)の自宅にもたれかかるように傾いている。しかし、恐怖を感じた院長が市役所に問い合わせても、なかなか罹災(りさい)証明の申請を受け付けてもらえない。地震発生から約50日後にやっと申請できたという。

 「2カ月近くたってやっと進んだという気持ち。でも状況は変わらない。早く何とかしたい」と院長は言う。

 支援金の額も建て替え費用としては十分ではなく、医院を畳もうとも考えたが、住民から「やめんといて」と言われ、小さく建て替えようと思い直した。「足りなくても、もらえる分にはありがたい。できれば早くしてほしい」と要望する。

 各種支援金の申し込みに必要な、各市町による罹災証明書の交付は遅れている。輪島市によると、26日現在で6885件の申請に対し、交付済みは約45%の3096件にとどまる。

 また高齢者に手厚い給付に当事者らは複雑な心境だ。珠洲市蛸島地区の鮮魚店経営、番匠(ばんじょう)利一さん(65)は住宅が半壊し、市外に2次避難している。自宅の再建は難しいとも考えており、「支援をもらえるのはありがたいが、自分たちより、若者世帯を支援してあげてほしい。若者が出て行ったら、珠洲市は終わってしまう」と要望した。【神足俊輔、国本ようこ、野原寛史】

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