医療費控除「知らずに大損」しがちな5つの重要ルール!国税庁エクセルの“罠”にご注意

2024.2.16

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今年も確定申告シーズンが来た。今回はその中でも人気テーマである「医療費控除」について解説する。知らなかったがために大損しがちな、絶対知っておきたい重要ルールが五つあるのだ。その中には、当コラムで何度も指摘してきた「国税庁の“罠”」に関するものもある。悪気はないと思うが、国税庁の「不親切」が原因で大損するリスクがあるのでご注意いただきたい。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)

医療費控除で損をしないための

「重要ルール」を知る

 2月16日から確定申告の受け付けがスタートする。毎年この時期が近づくと、多くのメディアが確定申告をテーマとした記事を掲載するが、中でもよく読まれるのが「医療費控除」の解説記事だと聞く。

 申告自体はそれほど難くないけれど、やり方を間違えると大きく損をしてしまう「落とし穴」が潜んでいることをぜひ知っていただきたい。今回は「損しない医療費控除の申告テクニック」を紹介しよう。

 まず、基本の知識から。医療費控除とは、1月から12月までの1年間に支払った医療費が10万円を超えたときに受けられる所得控除のことだ。足切り額の10万円を超えた部分が所得控除の対象となる(上限200万円)。同じ生計の家族の医療費を合算することも可能だ。

 また、医療費の負担が10万円以下であっても、所得金額が200万円未満の場合は、所得の5%を超えた医療費を所得から控除できることも知っておこう。

 例えば給与収入200万円の場合、所得金額は122万円。その5%である6万1000円が足切り額となるので、6万1000円を超える部分が控除対象となる。医療費の合計額が10万円に満たなかったときは、所得金額200万円未満の人が医療費控除を受けられることを覚えておきたい。

 では、本題の「絶対知っておきたい医療控除の重要ルール」を五つ紹介しよう。

(1)「補てんされる金額」は「支払った医療費が上限」となる

(2)国税庁「確定申告コーナー」の医療費集計フォームのエクセルに潜む「罠」にはまらないように気を付ける

(3)医療費控除は「罠のない申告方法」でする

(4)がん診断給付金、出産手当金は「補てんされる金額」に含めなくていい

(5)公的介護保険の自己負担額も医療控除の対象となる

 この五つはどれも重要だが、特に重要なのが(1)の「補てんされる金額」は「支払った医療費が上限」だ。多くの人がご存じないか、勘違いしている。この重要ルールを間違えると、節税効果は大きく減り、大損することになる。

 そして、これを知らないと(2)の「国税庁のエクセルの罠」にはまってしまう可能性が高い。分かりやすくするために(1)から(3)をまとめて事例で解説しよう。

●重要ルール1

「補てんされる金額」は「支払った医療費が上限」となる

 医療費控除の対象額は、次のように計算する。

 

図:医療費控除の計算式

図:医療費控除の計算式© ダイヤモンド・オンライン

「1年間で支払った医療費の合計額」から「健康保険や民間医療保険などで補てんされる金額」を差し引き、足切り額である10万円を引いた金額が「医療費控除額」だ。

 そして、控除額の計算は「医療を受けた人」「医療費を支払った病院・薬局」ごとに計算する。下記の医療費控除の明細書の抜粋を見るとイメージしやすい。医療を受けた人、医療費を払った場所の「1行ごと」に計算すると、頭にたたき込んでおく。

図:医療費控除の明細書抜粋

図:医療費控除の明細書抜粋© ダイヤモンド・オンライン

 絶対間違えてはいけない重要ポイントは、表中(5)の欄「「補てんされる金額」を正しく記載すること。「補てん」とは、不足を補うことであり、「収入」ではない。つまり、「補てんされる金額」は、「支払った医療費が上限」ということだ(重要ルール1)。

【事例1】

◆手術のために入院して医療費を30万円支払った

◆健康保険からの高額療養費の払い戻し額として20万円、保険会社から入院・手術給付金30万円、合計50万円受け取った

 健康保険と保険会社から受け取ったお金の合計額は50万円だが、「補てんされる金額」は支払った医療費が上限なので、医療費控除の明細書には30万円と記載するのが正解だ。

「補てんされる金額」を50万円と多く書いてしまうと、別の不具合も出てくる。医療費控除の明細書の合計額を出す際に、他の行の医療費からも差し引かれてしまうことになる。どういうことか、事例2で解説しよう。

【事例2】

◆事例1に加え、他の家族が歯科でインプラント治療を受け、50万円支払った

◆インプラント治療費に関し、補てんされる金額はなし

【事例1と事例2の医療費の合計額】

◆正しい金額:50万円

(事例1の医療費30万円は、補てんされる金額を30万円で引き切れるのでゼロ、事例2のインプラント治療の50万円が残る)

◆間違った金額:30万円

(事例1の補てんされる金額を間違えて50万円と記入すると、引き切れなかった20万円がインプラント治療の50万円から引かれてしまう

 医療費の合計額から10万円の足切り額を差し引いたものが医療費控除の対象額となる。それが20万円も減ってしまうので、間違えると大損するというわけだ。

 医療控除の明細書の抜粋を掲載するので、「正しい記入法」を覚えてほしい。

図:医療費控除の明細書の注意点

図:医療費控除の明細書の注意点© ダイヤモンド・オンライン

●重要ルール2

国税庁「確定申告コーナー」の医療費集計フォームのエクセルに潜む「罠」にはまらないように気を付ける

 さて、エクセルに潜む「罠」とは、どういうことか。

 確定申告の方法は複数あるが、国税庁のウエブサイト上にある「確定申告コーナー」を利用して、e-Tax(国税電子申告・納税システム)で電子申告をするのが便利。手書きより記入ミスが減るし、書類の持参・郵送よりも還付金が早く振り込まれるメリットがあるからだ。

 ただし、「確定申告コーナー」で医療費控除の入力をしていくと、途中に「罠」があるので、その点には注意が必要だ。

 e-Taxの入力画面には「医療費の領収書が多い場合は、医療費集計フォームで入力すると便利です」とあり、エクセルの「医療費集計フォーム」がダウンロードできる仕組みになっている。下記がそのエクセルシートだ。

図:医療費集計フォーム(エクセル)

図:医療費集計フォーム(エクセル)© ダイヤモンド・オンライン

「支払った医療費の金額」と「左のうち、補てんされる金額」に数字を入力すると、左上の「入力した合計金額」のセルに反映される。便利だが、エクセルのセルに重要ルール1の「『補てんされる金額』は『支払った医療費が上限』」となる関数が入っていない。このため、「補てんされる金額」の欄で支払った医療費以上の金額を間違えて入力すると、合計金額欄の「補てんされる金額」も本来より多額になり、損をすることになる。

 これを「罠」と言っていいものかと多少迷う気持ちもあるが、申告する人は税のプロじゃないのだから「補てんされる金額」のセルにMIN関数(支払った医療費が上限になる関数)くらい入れておいてよと思う。このフォームを作った国税庁の人に悪気はないのだろうが、不親切であることは間違いない。

●重要ルール3

医療費控除は「罠のない申告方法」でする

「医療費集計フォーム」のエクセルを利用するなら、重要ルール1を念頭に置いて「補てんされる金額」は支払った医療費を上限となることを忘れずに、ミスのないように入力しよう。

 領収書が多い人への私のお勧めは、「医療費控除の明細書」作成のエクセルだ。e-tax上の「医療費控除の入力方法」の選択肢が出てくる。そのうち「【入力方法5】医療費の合計額のみ入力する」を選ぶと、「医療費控除明細書作成のエクセル」をダウンロードできる。

 このエクセルシートなら、セルに関数が入っているので「補てんされる金額」が「支払った医療費」を上限とする数字になるため、ミスせずに済む。このシートはe-Taxでの申告の際にアップロードする必要はなく、最終的な医療費控除の金額を入力すればいいだけだ。電卓代わりに使えばよく、作成した明細書のファイルは保存の義務があるので5年間持っておこう。

 医療控除の明細書のエクセル(計算式が入っている)にたどり着くには、検索窓に「医療費控除明細書様式 エクセル版」と入力をするといい。「ref」というエクセルシートがダウンロードできる。

●重要ルール4

がん診断給付金、出産手当金は「補てんされる金額」に入れなくていい

 このルールもぜひ覚えておきたい。

 多くのがん保険には、がんに罹患(りかん)すると受け取れる「がん診断給付金」がある。給付金は、一時金で50万~100万円などまとまった金額を受け取れる保険商品が大半だ。

 がん診断給付金は、「がんの確定診断がされたことにより支払われる」ものであり、入院や手術の医療費等の補てんとして給付されるものではないというのが国税庁の見解だ。しかし、残念なことにほとんど知られていない。

 医療保険の入院給付金や手術給付金は「補てんされる金額」とするので、普通に考えるとがん診断給付金も同様と考えてしまい、間違えてしまう人は多いだろう。

 がん診断給付金を100万円受け取った人が重要ルール1と4をダブルで間違えてしまうと、他の家族の医療費から差し引かれてしまい、医療費控除額がゼロになってしまうかもしれない。

 また、出産のために欠勤した場合に健康保険から給付される「出産手当金」も「補てんされる金額」に含めなくていい。出産手当金は、欠勤による収入減を補償する給付であり、出産時にかかった費用を補てんするものではないからだ。

 これらのことは知ってさえいれば還付を受けられ、知らずにミスをすると大損になる。ルール4も重要なので忘れないようにしてほしい。

●重要ルール5

公的介護保険の自己負担額も医療控除の対象となる

 これも意外と盲点だ。

 生計を一にしている家族が公的介護保険を利用していたら、自己負担額も医療費控除の対象となる。私はファイナンシャルプランナーなのに、恥ずかしながら同居の義両親が要介護認定を受けるまでこのルールを知らなかった。

 医療費だけだと足切り額の10万円を超えるほどかからない家庭でも、介護サービスの自己負担額を合わせると結構な金額になり、医療費控除の対象となるかもしれない。介護サービス事業者の領収書を集計してみることをお勧めする。

 毎年、医療控除の記事を執筆して思うのは、申告自体は難解ではないけれど、間違えやすいポイントを知っておかないと、ちょっとした落とし穴に落ちて損をするということ。正しく税金還付を受けるために、記事をじっくり読んでノーミスで申告してくださいね。

 

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