【4月から相続登記が義務化】不動産が“曽祖父の代の名義”のままだと大変なことに! 戸籍取得・遺産分割協議書作成に膨大な手間  2024/02/13

戸籍類を集めるだけでも大変な手間だが…(写真:イメージマート)

戸籍類を集めるだけでも大変な手間だが…(写真:イメージマート)© マネーポストWEB 提供

 相続で最もトラブルになりやすいのが家や土地などの「不動産」だ。うまく使えば節税になる一方、ひとつ間違えると争いごとや煩わしい手続き、そして金銭的な負担を招くことになる。

【表】不動産「相続登記」の手間を減らす準備3

死亡者全員の出生から死亡までの戸籍を取得する必要

 今年4月1日、土地や建物の相続をめぐるルールが大きく変わる。「相続登記の義務化」だ。

 不動産の相続権があることを知ってから3年以内に相続登記をしないと、原則として10万円以下の過料が科されることになる。土地や建物を相続したら、親など被相続人の名義から自分の名義に書き換えなくてはならなくなるのだ。

 今回の新ルールは、今年4月以降に相続が発生したケースだけでなく、それ以前に相続された不動産にも適用される。相続登記せずに放置してきた不動産を持っている人は、2027年3月末までに登記を行なわなくてはならない。

「これまでは相続登記をしなくても罰則がなかったため、名義変更されずに放置されている不動産が数多く存在します。義務化を前に、私たちの事務所にも相談の問い合わせが増えています」

 そう説明するのは司法書士法人リーガルサービス代表の野谷邦宏氏だ。長年にわたり相続登記されないまま放置されてきた不動産の名義変更には、多大な手間がかかるのだという。野谷氏が続ける。

「曾祖父や曾祖母の代の名義のままになっている不動産だと、手続きが非常に面倒になるため途中で挫折してしまう人も珍しくありません。相続登記にはまず、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本の収集が必要です。本籍地が何度も変わっている人だとそれだけでも十分に手間ですし、“曾祖父名義のまま”といったケースでは、曾祖父から相続権を承継した人たちも死亡していることが多い。そうした死亡者全員の出生から死亡までの戸籍を取得する必要が出てくるのです」

 曾祖父、曾祖母に始まって、祖父母の代の兄弟姉妹全員、父母の代の兄弟姉妹のうち既に亡くなった人の出生から死亡までの戸籍を取得し、さらに存命中の相続権者の戸籍謄本も必要……といった具合にねずみ算式に必要書類が増えていくのだ。

「戸籍類を集めただけでは終わりません。登記名義を取得する相続人を確定するには、遺産分割協議書を作成しないといけない。その際には、相続権を引き継いだ人たち全員の署名・実印・印鑑証明書を受領しなくてはなりません。相続権者が数十人になっていることもあり、全員の協力を得るのが困難という問題も生じます」(野谷氏)

 地方の家屋や田畑、山林で名義変更されていない例が目立つといい、相続登記の義務化により、各地で問題が噴出すると懸念されているのだ。

遺産分割書をまとめるための期間と費用

 真面目な人ほど、「ルールが変わる以上は、自分がなんとかしなくては」などと考えがちだが、そこはむしろ、「専門家にある程度、任せてしまおう」という“手抜き”の発想をしたほうがよさそうだ。登記業務を代行できるプロといえば司法書士だが、前出・野谷氏はこう話す。

「曾祖父・曾祖母の代から名義変更なされていないといった不動産の相続登記について、私たちの司法書士法人で受託した場合、必要な戸籍類の収集から始め、依頼者と協力しながら相続権のある方全員に連絡を取って遺産分割協議書への署名などを取り付けたうえで、相続登記を完了させるという流れになります。

 相続登記が放置されてきた原因が、“親族間の不和”というケースも少なくないので、専門家が間に入りながら適度に依頼者本人も関与していくといったかたちが望ましいと思います」

 遺産分割協議書をまとめるための期間は他の相続権者がどのくらい協力的かでケースバイケースだが、戸籍の収集は1~2か月、法務局への登記申請は2週間~1か月程度で終わるという。「費用は当該の不動産の評価額などで変わるが、都内の一戸建てなら40万円前後が一般的」(野谷氏)といった水準だ。

親がやるか、子がやるか

 もちろん、“曾祖父の名義のまま”といった事例に限らず、親が亡くなって子が不動産を継ぐなどの場合でも、相続登記が必須となる。

 野谷氏によれば、相続登記は法律に定められた手順が求められるので、相続発生後に手間を減らす方策はないという。一方、「相続が発生する前」、つまり親世代が存命のうちなら、手間を減らす方法が複数ある。主な選択肢は右ページの表にまとめた通りだ。

「ひとつは『遺言書の作成』です。遺言書で不動産の取得者が定まっていると、必要書類は死亡者と取得者の戸籍謄本、住民票だけで済みます。死亡者の出生までの戸籍謄本や相続人全員の戸籍・印鑑証明書は不要になるし、遺産分割協議書も必要ありません」(野谷氏)

 遺産分割協議書がなくていいということは、相続人全員の署名・実印の取得も不要になって、手間は大幅に削減される。

 ただし、「相続登記」の手間を減らす方策について「親世代が積極的に発案・実行する事例はほとんどない」(野谷氏)という。

「親世代は安定性を求める傾向が強く、手間暇かけて現状を変更することに否定的です。事前に対策を講じるには子世代が働きかけなくてはなりません。“転ばぬ先の杖として準備しよう”といった具合に、親に信用してもらえるような言葉を選んで提案したうえで、“準備は子供たちでするから”などと親に手間をかけさせずに進めることが大切です」(野谷氏)

 話を切り出す際、“4月に制度が変わるらしいけど……”とルール変更を逆手に取ってきっかけとする方法もありそうだ。

※週刊ポスト2024年2月23日号

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5 件の新しいコメント

NS

NSGT39ArHt5 時間

”寝た子を起こす”事になって揉め事が増えそう。 まあ、いつまでも放っておくことも更に困難になるだろうから誰かが決着付けなきゃだろうけど。 長期間、固定資産税負担している人に優先権や、放置していた側は状況により権利消滅するとか時効等の現実的措置も必要では。

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H*******1 時間

表示の報告的登記をしなかった場合の過料10万円は課されたことがないらしいけど、こっちはどのぐらい本気なのやら。

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