燃料デブリ取り出し3度目延期 事故発生から3月で13年を迎える東電福島第1原発の今 2024/02/11

東京電力福島第1原発の敷地を埋め尽くす大型のタンク=福島県大熊町(芹沢伸生撮影)

東京電力福島第1原発の敷地を埋め尽くす大型のタンク=福島県大熊町(芹沢伸生撮影)© 産経新聞

東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の事故は、今年3月で発生から13年を迎える。東電は先月、今年度中に予定していた、事故で溶け落ちた燃料デブリの試験的取り出し着手を断念。着手時期を「遅くとも今年10月」とした。廃炉作業で最難関とされる燃料デブリの取り出し延期は3回目。困難な作業が続く現場を取材した。

毎日4千人が従事

現在、福島第1原発では毎日約4千人が作業に従事している。取材当日は快晴で真冬とは思えない陽気。構内の96%で普通の作業服で仕事ができ、他の工事現場との違いは感じない。ただ、原子炉建屋から離れた事務棟付近の空間線量が1時間当たり0・3マイクロシーベルト程度なのに対し、事故を起こした原子炉建屋に近付くと、移動用バス車内の線量計は、長時間の滞在でも影響は少ないと思われるが、1時間当たり27マイクロシーベルトを示した。

 

爆発で天井や壁が吹き飛び、今も事故当時の状況が残る東京電力福島第1原発1号機=福島県大熊町(芹沢伸生撮影)

爆発で天井や壁が吹き飛び、今も事故当時の状況が残る東京電力福島第1原発1号機=福島県大熊町(芹沢伸生撮影)© 産経新聞

福島第1原発には、1~4号機の原子炉建屋を見渡せる高台があり、東電はここで視察者らに事故当時の状況や作業の現状などを説明する。海に向かって左から2番目が燃料デブリ取り出しが最初に行われる2号機。水色の壁に「2」と描かれているが、建屋の周囲には作業用の構台などが設置され見えにくい。取材は保安上の制約が多く撮影アングルも限られる。

堆積物除去できず

今年度中の燃料デブリの取り出し着手を目指していた2号機では、年明けから原子炉格納容器への貫通部(内径約55センチ、奥行き約2メートル)をふさぐ堆積物の除去が行われた。堆積物は灰色で、ケーブルなどが事故の高熱で溶けて固まったものとみられる。

強い放射線を出す燃料デブリ取り出しには、取り出し用のロボットアームを貫通部から内部に通すことが必要。当初は堆積物を棒状の装置で突き、さらに水を噴射して流すなどしてスペースを確保し、ロボットアームを入れる計画だった。

しかし、堆積物除去に時間がかかり、ロボットアームの改良も遅れたことなどから、東電は今年度中のデブリ取り出し着手を断念。既に使用実績がある、釣りざお状の伸縮式パイプを最初に使うことを決定した。試験的取り出しで最初に取り出す燃料デブリの量は数グラムという。

ドローンで内部へ

一方、高台から見て一番左にある1号機。水素爆発で吹き飛んだ原子炉建屋の上部はむき出しのままで、事故当時の状況が今も残っている。がれきの下部にある使用済み燃料プールには、392体の核燃料が残されている。これを取り出すため現在、建物全体を覆うカバーの設置や、がれきの撤去作業を急いでいる。

また、1号機は燃料デブリが原子炉格納容器の底に堆積しているとみられるが内部の詳しい状況は不明。そのため東電は今月、原子炉格納容器に小型ドローンを入れ内部を撮影する。昨年3月に水がたまった底部の調査を水中ロボットで実施したが、水がたまっていない空間の状況も把握し、燃料デブリ取り出し方法の検討に役立てたい考えだ。

1000基超えるタンク

第1原発が見渡せる大型休憩所の屋上に立つと、敷地を埋め尽くすおびただしい数のタンクが目に入る。1000基余りあるタンクの総容量は約137万トン。このうち約97%が埋まっている。

昨年8月に始まった放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出は、今年度最後となる4回目が今月下旬から行われる。これまでの3回と同じ約7800トンを海水で薄めて流す予定だ。過去3回の海洋放出で大きなトラブルはなく、周辺の海水のトリチウム濃度にも異常はなかった。

見えないゴール…

事故発生から13年が過ぎても、燃料デブリや原子炉格納容器内部の詳しい状況は分かっていない。試験的取り出しに成功した後は、燃料デブリの詳細を調べ本格的な取り出し方法などを検討することになる。

関連するビデオ: 福島第一原発のデブリ取り出し 今年度中の着手を断念 計画延期は3度目 (テレ朝news)

福島第一原発のデブリ取り出し 今年度中の着手を断念 計画延期は3度目

国際廃炉研究開発機構(IRID)は第1原発の燃料デブリの総量を880トンと推定。一方、処理水の海洋放出について、東電は約30年かかるとみている。いまだ、廃炉のゴールは見えていない。

燃料デブリの取り出し着手延期を受け、福島県の内堀雅雄知事は「進捗(しんちょく)状況の丁寧な情報発信などに、国が総力で取り組むことを求めている。廃炉に向けた取り組みを県民や国民の理解のもと、安全かつ着実に進めることは福島復興の大前提」とし、延期に伴う地域経済への影響については「現時点では明確ではない」と話した。(芹沢伸生)

原子力発電所を巡っては、福島第1原発が廃炉作業を進める一方、東電柏崎刈羽6、7号機(新潟県)や東北電女川2号機(宮城県)、中国電島根2号機(松江市)、日本原子力発電東海第2(茨城県)は原子力規制委員会の審査に合格済みとなるなど、再稼働に向けた準備が進む。

ただ、震度7を記録した能登半島地震で多くの道路寸断や建物倒壊に見舞われたことを受け、原発事故を伴う複合災害の際に避難計画が機能しない恐れが取り沙汰されているほか、断層活動を巡るリスクを指摘する声も出ている。原子力規制委員会は、原発事故時の避難に関する指針を見直す方針だ。

また、石川県志賀町に立地する北陸電力志賀原発は、重要施設に安全上の大きな被害はなかったが、外部電源の一部は今も使えず、北陸電は完全復旧に少なくとも半年以上かかるとの見通しを示す。9年に及ぶ再稼働審査のさらなる長期化は必至で、同社が目指す早期稼働の道のりは険しい。

 

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