「政治はカネがかかる」を許すな 元首相特別補佐・田中秀征さん

2024/01/10

首相特別補佐や経済企画庁長官などを歴任した田中秀征さん=東京都千代田区で2019年、宮武祐希撮影

首相特別補佐や経済企画庁長官などを歴任した田中秀征さん=東京都千代田区で2019年、宮武祐希撮影© 毎日新聞 提供

 自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件が政界を揺るがしています。かつて「政治とカネ」の問題に斬り込んだ細川護熙政権は「政治改革政権」と呼ばれました。その政権で首相特別補佐を務めた田中秀征さん(83)は「そもそも政治にはカネがかかるという弁解を許しちゃだめだ」と語りました。(田中さん主宰の「さきがけ塾」での講演やインタビューを基に構成)【榊真理子】

 ――7日には安倍派の池田佳隆衆院議員=自民党を除名=が政治資金規正法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕されました。事態の進展をどう受け止めますか。

 ◆私だけでなく、誰もが予想していたことでしょう。ただ、注目すべきは、国民が納得できるところまで(捜査が)追い詰めていけるかどうかです。(派閥の幹部らにまで)伸びていかなければ日本の政治は変わらないでしょう。また、岸田文雄首相は党の新組織、政治刷新本部を設置すると言っていますが、どこまで現状維持を図れるかに心を砕いているように受け取れます。党組織に委ねるのではなく、具体的にどうするのか、総理の指針が聞きたいです。人任せにするのは許されない現状にきていると思います。

 ――岸田内閣や自民党の支持率が急落した昨年12月の毎日新聞の世論調査をどう読み解きますか?

 ◆二つのことを感じています。一つは、自民党は自民党という「画用紙の表と裏」を使い果たしたといえます。保守本流が表だとしたら、これは加藤の乱(2000年、加藤紘一元幹事長らが、野党による当時の森喜朗内閣不信任決議案提出の動きに同調しようとした倒閣運動)で空中分解しました。裏は岸信介元首相(安倍晋三元首相の祖父)の流れから続く清和会(清和政策研究会、安倍派)で、今回、大打撃を受けました。

 それだけではありません。こういう現象なのに野党への支持が盛り上がらず、既成政治がかつてない曲がり角にきていると考えます。裏金問題への処方は政治の内部からは出てこないのではないかと不安に感じます。

 ――なぜ政治とカネの問題は絶えないのでしょう。

 ◆非常に単純です。有権者が政治にカネがかかるという政治家や政党の弁解を許してしまっている、そこから問題が生じています。カネがかかるとなれば、政治腐敗に対する有権者の対抗力がなくなります。また、政治家はそれを集めなきゃいけないじゃないかという話になります。それは僕の持論で、そう思って政治の世界を歩いてきました。

 本来、政治に巨額のカネはかかりません。政策秘書1人、公設秘書2人を公費で雇うことができ、立法事務費も調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)もあるなど、政治家の仕事に寄与する仕組みは整っています。しかし、細川政権での政治改革でもそれを崩せなかったのです。

 ――政治家は何にカネを使うのでしょうか。

 ◆大きくわけて、印刷費、人件費、会食費の三つです。ポスターや後援会報など印刷にかかる印刷費や、秘書の人数なども圧縮可能です。それに、問題は会食費なんです。ここにメスをいれないとダメです。

 議員は情報交換と称して会食を開きます。会食を渡り歩くのも、自分だけが情報を知らないと怖いからなんです。会食自体は否定しませんが、飲み食いは政治活動にはあたらないでしょう。自分のおなかに収まるぜいたくな飲食にかかった費用は自分のお金で払えばよいのです。税金を原資とする政党助成金はもちろんですが、議員自らが集めた政治資金からも会食費を出してはいけません。それから、各議員が地元で開かれる結婚式や入学式などに送る慶弔電報の打ち合いは禁止にすべきです。

関連するビデオ: 岸田首相、自民党に「政治刷新本部」立ち上げ 派閥の“政治とカネ”問題受け (日テレNEWS NNN)

岸田首相、自民党に「政治刷新本部」立ち上げ 派閥の“政治とカネ”問題受け

「政党助成制度があれば、それ以外のカネはいらない」

 ――なぜ裏金を必要とするのですか?

 ◆裏金作りは今に始まったことではありません。昔から必要悪のような形で続いてきましたが、社会的に許されなくなり、「目立たないようにやれ」という流れにはなりました。しかし、極論すれば、今の政党助成制度を続けるならば、それ以外のカネはいらないのです。

 秘書だって今のようには必要ないし、広報通信手段も劇的に変化している。カネ集めの手段の一つが裏金なので、カネが不要になれば、裏金もいらなくなるのです。

 ――今必要なのはどのような政治家でしょうか?

 ◆僕は何人かの首相の近くで働くことができましたが、例えれば「宮沢喜一さんの思想と村山富市さんの人柄を持った人物」が求められていると思います。宮沢さんはJ・S・ミル「自由論」の愛読者で護憲、博学で知られます。村山さんは阪神大震災発生時、首相として「申し訳ない」と目を赤くし、初動の遅れで批判を受けても決して責任転嫁しない姿や、政府・与党が一丸となったことは大変印象的でした。

 ――自民党はどうなるのでしょうか?

 ◆党内の良識ある若手が少人数でもいいから行動を起こす時だと思います。数人の政治家の誤りが世界大戦を引き起こしました。逆に言えば、優秀な人材が一人いれば戦争を止められたのかもしれません。状況を切り開くのは、結局一人一人の政治家なんですよ。少子高齢化や外国人の増加など人口構造が大きく変化する今、見方によっては明治維新や敗戦時以上の根本的な社会の構造変化のさなかにあります。新たな指導者や政治体制を必要としています。カネがかからない政治は新たな人材の発掘につながる可能性もあります。今回の「裏金危機」は天が与えた政治刷新の好機だと受け止めます。

 

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