疑惑まみれのマイナンバー制…国が贈収賄企業へ28億円発注、国民の個人情報漏洩発覚

http://biz-journal.jp/2015/11/post_12226.html

015.11.04               

文=溝上憲文/労働ジャーナリスト

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「政府広報オンライン HP」より

 マイナンバー制度の信頼性が揺らいでいる。当初10月中に5400万世帯に「通知カード」が届く予定だったが、自治体の対応の遅れで全員に行き渡るのは11月末の見込みだ。

 そもそもマイナンバーがなぜ必要なのか。政府は「公平・公正な社会の実現」「国民の利便性の向上」「行政の効率化」の3つを掲げ、マイナンバーの利便性を強調する。しかし、マイナンバーが利用できるのは税務や社会保険の事務に限定され、それ以外の利用が禁じられている。いったい国民や企業にどんなメリットがあるのか、現段階では極めて曖昧な状況だ。しかも諸手続のために従業員のマイナンバーの収集・保管の業務を担う企業のコスト負担もばかにならない。企業は特定個人情報(個人情報と個人番号)の厳格な管理が要求され、情報漏洩などマイナンバー法に違反すると、刑事罰を含む厳しい罰則が設けられている。個人情報保護法では従業員5001人以上の個人情報の取扱いについて安全管理措置が義務づけられているが、マイナンバー法では5000人以下も含めてすべての企業が安全管理措置を実施しなければいけない。 情報が漏洩すれば、企業の責任が問われると同時に個人も被害を受ける。情報管理の徹底を求められるが、そんななか、マイナンバーの流出による被害の発生が予測されるような事件が本家本元の政府で頻発している。ひとつは約125万件の個人情報が流出した厚生労働省所管の日本年金機構だ。

 社会保障の中核である公的年金や医療保険も今後マイナンバーと紐付ける予定だ。仮に大量のマイナンバーが流出していたら、マイナンバーを悪用したなりすましによる年金詐欺など大変な事態になっていた可能性もある。情報管理のずさんさは事件を検証した「日本年金機構における不正アクセスによる情報流出事案検証委員会」が明らかにしている。その原因として「情報セキュリティの重要性に関する意識の欠如」「組織的な危機管理対応の欠如」「組織横断的、有機的な連携の欠如」の3つを挙げている。

マイナンバー汚職

 もうひとつは医療保険とマイナンバーの一体化にかかわる事件。システム構築に伴う発注の見返りに賄賂を受け取った“マイナンバー汚職”だ。収賄容疑で逮捕されたのは厚生労働省情報政策担当参事官室室長補佐の中安一幸容疑者。贈賄側の日本システムサイエンス社の社長(当時)から現金100万円のほか、複数回にわたって計数百万円を受け取っていた疑いがあることが報じられている。

逮捕容疑となったのは、厚労省から受注した2011年度の「社会保障分野での番号制度に伴う利用場面での実装設計に資する仮想環境構築請負業務」と「社会保障分野の情報連携のための通信・認証・認可等の要件定義に資する提案請負業務」の2つの事業だ。前者の契約金額は約7400万円、後者は約14000万円。

 中安容疑者はこの2つの事業をシステムサイエンス社が受注できるように便宜を図った見返りとして、金銭を受け取ったとされている。実際にこの2事業の成果物といえる報告書が1021日に開催された民主党の厚生労働部門会議で公開された。前者のファイリングされた資料の厚さは5センチ弱。後者はその倍の10センチ程度の厚さであり、契約金額と比例していた。計15センチ程度の資料が21000万円の価値があるのかと、いささか驚かされた。ところで受注した日本システムサイエンス社の名前は誰も知らないのではないだろうか。無理もない。1990年に設立した資本金3000万円、従業員20人の小さな会社だ。14年の売上高は24000万円。厚労省の受注額に匹敵する金額だ。

 その会社が厚労省から08年から15年までに受注した総額は154717万円に上る。それだけではない。厚労省以外からも受注していたことが前述の厚生労働部門会議に出席した各省の担当者が明らかにした。経済産業省の128745万円(0814年)を筆頭に、内閣官房が1865万円(14年)、総務省が1050万円(12年)。総額131660万円。厚労省の受注額と合計すると286377万円という巨額に上る。小さな会社が大手企業を押しのけてこれほどの金額案件をなぜ受注できたのか不思議である。中安容疑者が賄賂を受け取ったのは今のところ一部の受注案件に限られているが、それ以外になかったのか、今後の捜査の行方に注目したい。

突き進む政府

 また、マイナンバーに関連しては、厚労省は201516年度にかけて日本システムサイエンス社と約6億円の契約を結んでいる。事業名は「医療保険者等の番号制度導入支援等に係る調査研究業務」。医療保険者とは、社員から保険料を徴収する企業の健康保険組合などを指す。マイナンバーと直接関係する案件だ。その中身はマイナンバーとの連携を行う健康保険組合がどんなシステム改修を行う必要があるのかを調査するものだ。その調査が6億円になるのか素人にはわかりづらい。厚労省は今回の事件を受けて日本システムサイエンス社に契約解除を申し入れている。国民の信頼を裏切る事件を起こしたのだから当然だろう。厚労省は新たな事業者と契約し直すという。

同省の情報政策担当の幹部は「今回の事業は医療保険者がいつどういうシステムが必要になるのか調査し、説明の手引き書を作成することを委託するもの。マイナンバーの実施に支障があってはいけないので新たな事業者と契約することが必要だ」と答えている。

 情報の安全管理が最も求められるはずの政府の情報漏れや導入事業の贈収賄事件でマイナンバーの信頼性は著しく失われた。それでも政府は多額の税金を投入して導入に突き進もうとしている。マイナンバーに投入される国・自治体の開発費用は総額3兆円ともいわれる。さらに企業が支払うシステム導入など手続きコストも上乗せされる。それに見合う国民の利便性はあるのか。下手をすれば、情報漏洩で大きな社会的混乱が生じる可能性がある。