南シナ海での日中の軍事衝突 - 米国が本音を吐露した昨年の報ステ特集

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3/22のサンデーモーニングで、従来の周辺事態法の地理的制約が撤廃され、自衛隊が地球上のどこでも米軍の後方支援を行うようになる問題が取り上げられていた。その中で、岸井成格が、南シナ海に自衛隊が出て行くことになる点に特に注意を向け、中国軍と軍事衝突する危険性が大きくなるという警告を発していた。この問題は、事態の重要性の割にマスコミ報道で大きく扱われていない。3/21の毎日の記事にこう書いている。「これ(地理的概念の撤廃)を受け、日米両政府は、防衛協力の指針(ガイドライン)の改定作業を本格化させる。中国と周辺国の対立が深まる南シナ海で武力紛争が発生した場合を想定し、自衛隊が米軍などへの後方支援を行う作戦計画の策定に入る見通しだ」「米国は軍事衝突の可能性が高まっていることから、自衛隊による南シナ海での後方支援を強く求めていた」「(日本政府は)周辺事態法を改正し、南シナ海での衝突を「わが国の平和と安全に重要な影響を与える事態」に該当するとし、後方支援をできるようにする方針だ」。新安保法制はまだ法案も作成されてない段階なのに、自衛隊はすでに南シナ海での作戦計画の策定に入ると書いてある。この毎日の記事は、国民に対する警戒警報の意味もあるけれど、同時に政府からの自衛隊の行動予定のダウンロードでもある。

 物騒に感じることの一つは、この記事で堂々と「作戦計画」という語が使用されていることだ。少し前までは、自衛隊は「作戦」の語は使わず、その場合は「防衛」の語で言い換えていた。軍事的内実は同じでも、憲法や世論を配慮して、「作戦計画」と言わず「防衛計画」と呼んでいた。この変化は見逃せない。防衛官僚(かもしくは官邸))が記者にこの情報をリークした時点で、意図的に「作戦計画」と表現しているのであり、そう書かかせている。戦争が前提されている。南シナ海での軍事行動だから、これを防衛の語で呼ぶのも常識外れだが、こうやって専守防衛のタテマエの衣を脱ぎ、どんどん攻撃的な軍隊に変貌していることを国民に知らしめている。南シナ海がどの国の領海もしくは経済水域であるかはともかく、少なくとも日本の領海でも経済水域でもないのだから、ここに日本の自衛隊が出張って他国の軍隊と軍事衝突を起こせば、それは明らかに侵略戦争だろう。新安保法制の眼目の一つが南シナ海での自衛隊の作戦行動にあることについては、実は米国側が積極的に日本のマスコミに告知を続けてきた。1/31に米第七艦隊の司令官がロイターのインタビューに応じ、自衛隊の南シナ海での哨戒活動に期待すると言っている。この発言は日経と時事が記事にした。この発言を受け、2/3には中谷元がこの米軍の要請を受け容れるコメントを発している。

 われわれが思い出さなくてはいけないのは、昨年の12/9の報ステでの特集報道だ。幸いなことに動画が残っていて、アメリカン・エンタープライズ研究所日本部長のマイケル・オースリンという人物が登場し、次のように言っている。「(戦後)日本は空爆の経験がない。航空自衛隊や陸上自衛隊を戦闘状況で派遣したことはない。もし日本が貢献できるのであれば素晴らしいことだと思う。自衛隊が自由に海外で活動できるようにするすべての法律を、(国会で)通過成立させることが最初のステップになると思う」。南シナ海での紛争については、「米国が介入しないと決断をした地域で、日本の単独の参加も含まれるかもしれない」と言っている。非常に重要な発言だ。南シナ海での軍事紛争の勃発を想定しながら、そこには米軍の介入はないとし、自衛隊が単独で戦闘することを期待している。3/22の岸井成格のコメントは、マイケル・オースリンの発言とは逆で、南シナ海で中国とフィリピンが衝突したとき、そこに必ず米国が介入することになるから、米国の要請で自衛隊が南シナ海で戦闘に巻き込まれるという懸念だった。だが、マイケル・オースリンの発言を聞くと、米国側の思惑は全く違う。マイケル・オースリンは共和党系の論者らしいが、きわめて正直に米国側の本音を漏らしている。中国と日本とを直に戦わせるのであり、米国は中国とは戦争しないのだ。

 この論点について、われわれは問題の真実を正確に認識しておく必要があるだろう。尖閣問題も同じなのだ。米国は中国とは直接に戦争しない。米軍が直接に中国軍を相手に戦闘する計画や構想はない。中国軍と戦闘するのは日本軍(自衛隊)である。しかしながら、そのことは、米国が中国と戦争する意思がないということを意味しない。この点が、日本のリベラルが錯覚しているところだ。米国は、共産党が支配するPRCによる太平洋への進出とアジアのテリトリー化を阻止しようとしていて、その手段として軍事を使うことを想定している。その中身は、これまで憲法9条で縛られていた日本の軍隊を使い、装備に優れた日本の軍隊を中国軍と戦闘させ、物理的に中国のエクスパンションを止めようとするものだ。日本と中国とを戦争させ、局地戦で中国の海空軍を壊滅させ、中国に疲弊と動揺を与え、海外膨張(南進・東進)の意思を挫き、その上で、止め男として二国の間に入って調停役になる。漁夫の利を得る。それが米国の思惑であり、最初のナイ・レポ-トの時点から示されてきたグランド・ストラテジーだった。尖閣問題について、繰り返し米国がメッセージしているのは、自分は戦争の直接の当事者にならないということであり、中国を相手に核戦争を始めるような愚は犯さないという意味だ。自衛隊に肩代わりで局地戦をやらせる。その真意を日本の左翼リベラルは誤解している。

 米国は日中の軍事衝突を望んでおらず、平和的に尖閣問題が解決されることを願っている、という見方は、寺島実郎を始めとする日本のリベラルがマスコミやネットで撒いている言説だが、これは全く真実を見誤った願望だ。右翼の安倍政権に対する言論上の政治的牽制の効果はあるけれど、米国の真意については錯覚にすぎない。無論、米国の中にはタカ派もいればハト派もいて、東アジアの安保問題についての展望と構想は一枚岩ではない。米国の中には、日中が軍事衝突を起こせば、必ず米国が巻き込まれて第3次世界大戦に発展する事態になるから、それは何としても避けたいという、寺島実郎や内田樹らが米国の論理と立場として説明する勢力も一定はある。ケリーなどそうだろう。だが、現実の米国の軍事政策は、ホワイトハウスではなく軍産複合体によって担われ進められていて、日本の霞ヶ関と同じように、選挙とは無縁な権力がロングタームのレンジで方針と予算に関与し政策決定している。そのことは、オリバー・ストーンがドキュメンタリー番組で指摘していたとおりだ。ナイもアーミテージもマイケル・グリーンも、米国政府の高官でも何でもなく、オバマと近い系列の人脈ではないけれど、実際には彼らが強力に実権を握っていて、対日政策を仕切り、防衛省と自衛隊を操り、日本マスコミの世論工作を牛耳り、安倍晋三や右翼に指示して日米ガイドラインを策定している。

 安倍晋三の訪米に合わせて登場する新しい日米防衛ガイドラインは、具体的に、特に二つの戦争と戦場にフォーカスしたものになるだろう。一つは南シナ海での中国との戦争であり、もう一つは中東でのイスラム国との戦争である。南シナ海での中国との戦争については、マイケル・オースリンが説明しているとおりで、ここで中国と戦争する主役は日本軍(自衛隊)であり、米軍は後方支援の脇役である。今の一般認識と逆だ。新しいガイドラインでは、自衛隊は南シナ海を定常の活動範囲として明確に位置づけ、フィリピンの米軍基地にイージス艦や潜水艦を常駐させ、米軍の指揮の下で哨戒活動を始めることになるだろう。当然、中国海軍の艦船と一触即発の睨み合いになる。南シナ海が尖閣周辺の東シナ海と同じ緊張状態になる。東シナ海の場合は、日中双方が直接に対峙する構図であり、ホットライン等のセーフティネットや最前線の人員同士の阿吽の呼吸や良識の判断で衝突を避けられるが、南シナ海の場合はフィリピンやベトナムが間に入る厄介な構図のため、東シナ海よりも事情が複雑で不測の事態が格段に起きやすい。南シナ海で日中が軍事衝突を起こせば、戦火はすぐに東シナ海に拡大し、日中両軍による(双方がかねてから机上演習していた)尖閣確保作戦が発動されることになるだろう。尖閣確保作戦とは、周辺海域から相手国艦船を完全に締め出し、領土領海保全を物理的に恒久化する軍事行動である。

 新しい日米防衛ガイドラインのもう一つの眼目となるはずの、中東でのイスラム国との戦争への自衛隊の参加だが、この点については、12/9の報ステの映像の中では、新米国安全保障センター・シニアフェローのデビッド・アッシャーなる人物が具体論を語っている。曰く、「将来(イラクに)コソボの時のような平和維持軍が必要になるだろう。日本がその役割を果たしてくれることを望む」。新しい安保法制では、PKO派遣された自衛隊の武器使用が緩和され、他国の軍隊や民間人を守るために武力行使することができるよう「法改正」されることになっている。ここにデビッド・アッシャーの議論を被せると、すなわち、米軍とイラク軍がイスラム国を撃破し掃討した後、スンニー派が多く占めるイラク中西部地域で、武装した自衛隊がPKOの任務に当たり、イラク軍やクルド軍と連携して治安作戦に当たるという図式になる。要するに簡単に言えば、イラク戦争でフセイン政権を打倒した後の、2003年後半から2010年の占領米軍の役割を自衛隊が果たせという要求に他ならない。この戦争と占領期の治安活動で、米国は8100億ドル(97兆円)の財政負担を出し、最終的には3兆ドル(360兆円)に達すると言われている。その倍の6兆ドル(720兆円)に上るという報告もある。帰還兵の多くがPTSDを発症し、深刻な後遺症に苦しむ結果になった。ということで、米国はもう治安維持の方は懲り懲りだから、代わりに自衛隊が引き受けてくれという話だ。

 この12/9放送の報ステの特集映像は、10分間のコンパクトな内容ながら実によくできた報道作品だ。真実が伝えられている。しかしこれは、朝日が果敢なジャーナリズムの挑戦で真実を暴露したというよりも、米国の方が日本国民向けに「こうなるからね」と本音をダウンロードした側面が強い。第3次ナイ・アーミテージレポートが新ガイドラインにどう反映し、日本政府の新安保法制としてどのように具体化するか、すなわち来年の春(=したがって現在)の展開を、前もって、昨年12月の時点で米国側がわれわれに丁寧に予告したものだ。この報道は誰が企画し、どのように関係者を調整して取材撮影したのだろう。私の推測では、おそらく春名幹男だと思われる。真実と予測の報道として秀逸であり、同時に支配者(米国)の意図を正確に伝え、われわれに心構えをさせている。中国との戦争は南シナ海で始まる。

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