「内閣支持率が急落しました:内田樹氏」  

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 内閣支持率が急落しました。

 官邸は「強行採決で5ポイント」と予測していたそうですが、10ポイントの下落でした。

 参院での審議中に首相の答弁によって「法案への理解が深まり」支持率がV字回復することは考えられません。

 35%以下で危険水域。

 30%を切れば政権は終わります。

 支持率が下がっても内閣の適法性は揺るぎません。

 でも、不思議なもので支持率の低い内閣が出す指示はなかなか現実化しない。

 議員や官僚たちが「徹夜しても、病気になっても、家庭崩壊しても、官邸の指示をただちに物質化する」という意欲を失ってしまうからです。

 「定時に出社し定時に退社する」ような適法的勤務態度では「政体を根本から変える」ような仕事はできません。

 与党議員や官僚の多くがオーバーアチーブする必要があります。

 でも、その「残業意欲」を担保するのは、国民に支持されている政策を実施しているという確信です。

 それがもう揺らいでいる。

 神奈川新聞に強行採決についての少し長めのコメントが載りました。

 どぞ。http://www.kanaloco.jp/article/109832

 カント『永遠平和のために』をめぐるインタビュー記事のゲラリタッチ。

 「民主制は必然的に専制になる」とカントが書いて210年。

 ワイマール共和国もフランス第三共和政も、民主的な手続きによって適法的に独裁政権に全権を委任しました。

 自民党改憲草案の「緊急事態」は日本版の全権委任法です。

 専制の対立概念は民主制ではありません。

 共和制です。

 共和制とは一言で言えば「法の制定者と執行者が別物である」という政体のことです。

 「法の執行者が法を制定することを専制と呼ぶ」というのがカントの定義です。

 専制と共和制はデジタルに二分されるものではありません。

 アナログな連続体です。

 立法府の形骸化、小選挙区制による「イエスマン」候補者への絞り込み、党議拘束、派閥の解体、参院不要論、首相公選論、解釈改憲、違憲立法、これらはどれも「共和制と専制を隔てる無数のバリヤー」をひとつずつ解除して、民主=共和制を民主=専制に変様させるための周到な準備でした。

 それにしてもなぜ民主制社会の市民たちはしばしば専制を進んで選択するのでしょうか。

 「なかなか政策が決まらずぐずぐずしていること」よりも「リスクは高いが、政策決定が早い」ことの方が「気分がいい」という心的傾向が人間の中にはあるのかもしれません。

 どれほどの災厄が予測されても。

 ならば安倍政権の専制化を阻止する最も効果的な方法は「政府が思うように政策決定できずぐずぐずしている状態」を長びかせて、有権者が「なんだよ、自民党的民主=専制ってぜんぜん効率的じゃないじゃないか。これなら話し合いによる合意形成の方がまだしも話が速い!」と思い始めることでは。

 「合意形成をすっとばして、すばやく物事が決められる政治」に好感する人たちが、「この政権ではさっぱり物事が決まらない」という印象を抱くようになれば、政権は瓦解します。

 だから、安倍政権は参院審議では焦燥感に駆られて、衆院以上に強権的・非論理的なふるまいに及ぶことになるでしょう。