最後のドライブはタクシーの中だった。



後部座席に無言で座る二人。



雨降る外の夜景が霞んで僕の目には何も見えない。



この道がどこまでも続いてくれればいいのに。



いつまでも君の隣にいられたらいいのに。



君はガラスに映るビル群を見て、運転手に停止を求めた。



まるで僕との時間を止めたみたいだ。



君がタクシーから降りればサヨナラ。



僕は俯いたまま黙って一人、泣いた。



運転手が静かに音楽を掛けてくれた。



さっきまでの君の温もりが消えないように。



「ガラス越しに貴方を見てらっしゃいましたね」



ポツリと言ったそれは温かくて優しくて。



君との想い出がよみがえってくる。



ガラス越しの君は最後まで僕の好きな君だった……。



運転手が流れるように車を停めた。



「貴方の行きたい場所にお連れするのが仕事です」



僕は、僕の行きたい場所は……。



動かせるだろうか。



君との止まった時間を。



君のいる、あの場所から。