日本の地方自治制度では二元代表制が採用され、首長と議員のそれぞれが住民の直接選挙で選ばれ、首長の執行機関と議会によって地方自治が担われていいます。制度上、両者は対等の立場であり、競い合いながら地方政治がおこなわれてはいますが、実際は首長の執行機関が優位な立場にあり、多くの自治体で、議会と首長は衝突することなく、穏やかな協調路線をたどっていいます。
【強い権限を有する首長】
「首長が予算編成権、議案提出権、再議権を持ち、議会は、当該予算の趣旨を損なうような増額修正はできない制度である」これは私が執筆した修士論文の一文です。
予算決算委員会で約3億3000万円余りを減額した新年度予算案の修正案が我々自民党を含む4つの会派から提出され、可決されました。賛成31、反対5の採決結果は再議を検討させる余地を与えない圧倒的多数の民意が示された採決でありました。知事とは違い議会修正案を受け入れざるを得ない結果であったと言えます。奈良県議会で再議が行われたのは戦後では初めてとのことでありましたが、奈良市議会では、2016年度の当初予算審議において、当初予算の一部を減額修正し可決していますが、市長がこれを不服として再議権を行使しています。しかし議会は、再度出席議員の3分の2以上の賛成で、先の議決のとおりの再可決をおこなったことがあり、私も現職議員として再議を経験しました。※ 添付2:市議会だより No.126確認
添付2:市議会だより No.126(表紙)
この議会提出の修正案議決の採決結果では、修正案賛成議員数は出席議員の3分の2以下でありました。あくまで推測ですが、当時市長は再議行使で修正案を不同意にできると読んでいたんだと思われます。ただ先にのべたように、再議の行使は議決に対する拒否権であるため非常に重く今後の議会対応を考えると安易には行使できないものであります。仮に再議で修正案を不同意にできたとしても、原案に議会が同意することは考えにくく、たとえば骨格予算を組み直すことになりますが、短期間で出来る作業ではなく奈良市規模の財政でも数週間要すると考えられます。当然年度をまたぐので市民生活へに影響は避けられません。今回、予算に関する議会修正案を受け入れ再議を行わなかった奈良県知事の判断は、最善策であったと思われます。
当時、暴走ともいえる市長の再議から、市民生活を守ったのは上原議員でした。※ 添付3:市議会だより No.126確認
添付3:市議会だより No.126(採決結果)
上原議員は、議会提出の修正案には反対でしたが、再議の採決においては賛成されています。唯一採決対応を変えられた議員でした。のちに理由を「すべての新規事業がストップすることに伴う市民生活への著しい影響を考慮した」と、このような説明をされたことを記憶しています。振り返ると今回、奈良県知事が説明された理由と同様であったと思います。
【再議の是非】
ここまでのべてきたように、地方自治法によって首長には強い権限が与えられていますが、その権限の行使については慎重な判断が必要です。このあたりについては、議会としても与えられた権限の中で首長と対峙していかなければならないといます。なぜなら首長の暴走を止められるのは議会であるからです。