カッパフィールド#4




「せっかくこのカッパフィールドを作ったんだから、ゆっくり楽しんでいってよ」

カワタロウと私は片隅にあるベンチに腰を下ろし、しばらく話をした。
「7次元って、どんな所なの?」
「とっても気持ちいいんだよ。ふわふわしてる。かずちゃんがお日さまに干したお布団はふわふわして気持ちいいって言ってるよね。そんな感じかな」
「あったかい所なの?」
「うん、暑くもなく寒くもなく丁度いい感じ」
「一年中?」
「一年中、ずーっと。っていうか永遠に。しかも、勉強しなくていいんだよ。仕事もしなくていい」
「えー!それ凄くうらやましい。でもいつも何してるの?」
「やりたいこと、なんでも」
「たとえば?」
「だいたい遊んでる。あとは歌ったり、踊ったり」
「すごく楽しそうだね」
「つくるのが好きなヤツは、一緒懸命何かををつくってるね。でもつくるっていってもイメージした途端に現れるからすごく簡単だよ。そして、そのつくったものを3次元の人にプレゼントすることもあるよ」
「プレゼント?」
「うん、インスピレーションとして、3次元の人に送るんだよ」


インスピレーション(直感)というのは、上の次元からのプレゼントなのだそうだ。
目標に向かってがんばってる人や夢中になって輝いている人に、インスピレーションは送られる。
とてもリラックスした状態でいる時も、インスピレーションは貰えるらしい。





カワタロウは更に続ける。
「7次元はとても素晴らしいところだよ。3次元のようにケガや病気もしないし。お金の心配もない。テレパシーで何を考えてるか直ぐに分かるから悪い人もいない」


「そんな天国のような7次元から、なんで私は3次元に生まれようと思ったんだろう?カワタロウは何か知ってるの?」
「かずちゃんはね、『アレが食べてみたい』そう言い残して、いきなり3次元に行ってしまったんだ。アレなんて言うんだっけ?赤い木の実?」
「リンゴ?」
「そうそう、リンゴ。リンゴ。そのリンゴをお砂糖で煮込んだやつ」
「リンゴジャム?」
「そうそう、そのリンゴジャムをパイ生地で包んで、オーブンで焼いたやつ」
「それ、アップルパイでしょ!」
「そうそう、アップルパイ。それだ。あと、春に採れる赤いフルーツで、アレなんだっけ?」
「イチゴ?」
「そうそう、そのイチゴが乗ってるケーキ?」
「ショートケーキでしょ?」
「うん、それも食べたいって言ってた」
「なんか私、それじゃただの食いしん坊じゃん!」





しばらく沈黙が続いた。
そしてカワタロウが話はじめた。
「7次元の世界では、何も食べなくていいんだ。肉体がないからね。おなか、すかないんだ。」
「そうなんだ。天国には美味しい食べ物いっぱいあると思ってた」


「イメージすると食べ物もすぐに出現するよ。でもそれはあくまでイメージだし、肉体がないからどんな味がするのかわからない。あと感触もよくわからないね」
「肉体がないと、食べたり触ったりできないんだね。じゃ匂いは?匂いはわかるの?」
「かずちゃん、そこに咲いている花の匂いを嗅いでみて?」
私はお花の匂いを嗅ぐために、お花に顔を近づけてみた。でもお花の匂いはしなかった。お花だけじゃなく草の匂いも土の匂いもしない。


肉体がないってこういう事なのか。私は、今自分が幽体離脱していることを思い出した。


「かずちゃんゲームするでしょ?」
「うん。あんまりゲームソフト持ってないけどね」
「ゲームの世界の人は、なにも食べなくてもおなかすかないよね。そんな感じだよ7次元は」




「7次元以外の次元はどうなっているの?」
「かずちゃん、上を見てみて」


私は言われた通りに上をみた。すると、カッパフィールドの上空だけ雲がなかった。それは空にポッカリと穴が空いているような感じだった。その穴の上は青空ではなく、底が見えない穴のような感じだ。ずっと見ていると吸い込まれてしまいそうだ。


「あの空の穴の上は、もう4次元だよ」
「えーアレがウワサの4次元空間なんだ!」
「あそこを通ってボクも来たんだ。4次元はいろんな所に行けるパスって感じだね」
「パス?」
「うん、パス」
「よく分からない、パス」
「今かずちゃんパスしたでしょ!そんな感じだよ!パス」
4次元空間は一瞬で時間や空間を移動できる所なのだそうだ。ただの通過点らしい、パス。




「5次元はキミたちが天国とかあの世と呼んでいる世界に近いかもね。そこに亡くなった人たちがいる。かずちゃんのおじいさんもそこにいるよ。そのまたおじいさんやおばあさんたちもそこにいる。そこで3次元で生きていた時のいろんなことを精算しながら、3次元にいる家族や仲間たちを見守っている。6次元にはね、架空の生き物と呼ばれるユニコーンや龍なんかがいるよ。とっても楽しい所なんだ。そこへはよく遊びに行ってる」


私はふと疑問が浮かんだ。

「神様っているの?」

「神様と呼ばれるスピリットはちょっと特殊なんだ。どの次元にも属してない。3次元の人や生き物を助けたり、上の次元にいるスピリットを指導したりいつも忙しそうにしてるね」


「じゃあ、7次元の上はどうなってるの?」
「それはボクもよく分からない。ボクも上の次元には行けないから。そこはソースって呼ばれているよ」
「ソース?トンカツにつけるやつ?」
「うん、〈ソース:source(源)〉。でもかずちゃんが想像してるソースは〈ソース:sauce(タレ)〉の方でしょ。〈ソース:source(源)〉にはこの世界の全ての記録が集まっているらしいよ。データベースって言えばいいのかな。おっきな図書館みたいな場所。そこには、誰でもアクセスできるんだよ。ボクらはそこにアクセスして情報を受け取れるから、勉強しなくても何でもわかる」
「何それズルイ。私もソースにアクセスしたい。そうしたら、勉強しなくてもいいんでしょ?」
「太古と呼ばれる大昔には、3次元の人もソースにふつうにアスセスしする事が出来たらしいけど。人間が進化していくと同時にソースにアクセスする能力《神秘的なチカラ》が弱まってしまったって言われてる」
《神秘的なチカラ》を、3次元の私たちは何で失ってしまったのよ!それさえあれば、頑張って勉強しなくてもよかったかもしれないのに!!

「ソースには、どんな些細な事もすべて記録されていくんだ。かずちゃんとボクが経験している今の状況もソースに記録されるよ。ソースはそれ自体が生き物のように常に変化しているんだって。情報を継ぎ足し継ぎ足しして変化をし続けているんだ」
「継ぎ足し継ぎ足しって焼き鳥のタレみたい」
「まあ、焼き鳥のタレみたいなもんかもね!」


カワタロウはちょっと待っててと言うと、突然歩き出し草むらの中へ入っていった。しばらくするとフランクフルトのようなものを持って戻ってきた。


「・・・」


「あのね、ボクは草むらに〈たっ○ょん〉しに行ったんじゃないからね!」
私は、テレパシーって結構やっかいかもしれないなぁと思った。
「べつに〈たっ○ょん〉したっていいんじゃないの。恥ずかしがることないよ。男の子なんてそんなの普通でしょ」
「だからボクは何も食べないし、トイレにも行かないの!」
「そうなの?すごい!まるでアイドルみたーい」



しばらくしてからカワタロウが私に尋ねた。
「かずちゃん、テレパシーってやっかいだと思う?」
「うっうん。考えてる事が全部バレちゃうと面倒というか、何というか…」
「かずちゃんは今日はじめてテレパシーを使ったからね。最初はそんなもんだよ。ボクが伝えようとする事以外にボクが考えてることはわかる?」
「わからない。なんで?」
「えっへん。それはね、何も考えてないからだよ!」

???

「ボクたち上の次元のスピリットは今、この瞬間に存在しているからね。そしてあーだこーだって考えたりしないの。それにキミたちみたいな言葉というものがないから」


上の次元には言葉はない。言葉はなくても世界中のどこの人とも、すぐに分かり合う事ができる。人以外にも。動物や植物など全ての存在と言葉ではなく気持ち的なもので、コミュニケーションできるらしい。


「かずちゃんは肉体のクセで、一度言葉(日本語)に変換している。だからボクに伝えようとする言葉以外に頭のなかで考えている時の言葉も、一緒に伝わってきちゃうんだよね」
「分かったような分からないような。もう面倒臭いや、パス」
「かずちゃんは面倒臭がりだね、パス」
「カワタロウは、いろいろ言葉を覚えたり考えたりする苦労も知らないくせに偉そうに、パス」
「パス」
「パス、パス」

パスパスパス👏👏👏👏
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パスーパスパースッパスーーーー👏👏👏
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♪   パス ♪  パス パスーーーー♪♪♪♪パス
パパパパパパパパパパパパパパパパパパ
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???!!?




「とにかく、カワタロウは私の事を何でもお見通しってことだね。じゃあ私が今、何を聞きたいかわかってるよね?」
「うん。このフランクフルトみたいなものが気になるんでしょ?これ、カッパフィールドのワンデーパス」と言いながら、そのフランクフルトのようなものを渡された。

よく見るとガマの穂だった。


「あ、ありがとう。ワンデーパスって何につかうの?」
「せっかくだから、カッパフィールドのアトラクションに乗ってみない?」
「カッパフィールドのアトラクション?何それ?どこにあるの?」


私は原っぱをキョロキョロ見回したけど、特になにもなかった。
「ブチくんも是非ご一緒に♪」
私はとりあえず原っぱで遊んでいるブチを呼んだ。

よほどカエルとバッタと遊ぶのが楽しかったのか、ブチはブーブー文句を言いながら戻ってきた。


「それでは、かずちゃんブチくんカッパフィールドの大人気アトラクション《カッパ・トレイン・ツアーズ》に出発進行。目を閉じて静かにしてて」
私とブチは言われた通りに目をつぶった。
すると次の瞬間、


電車の中にいた。