森喜朗氏発言に対するマスメディアの悪意 | 西陣に住んでます

森喜朗氏発言に対するマスメディアの悪意

浅田真央選手



フィギュアスケート浅田真央選手ソチオリンピックショートプログラム(日本時間2月20日未明)でその優れた実力が十分に発揮できずに本当に残念でしたね。そんな中で、森喜朗 元総理・東京五輪組織委員会会長が福岡の講演会2月20日13:00開演)で失言をしたということが話題になっています。発言の内容は以下のとおりです。


[森喜朗 元総理・東京五輪組織委員会会長の発言 書き起し]
『第262回「毎日・世論フォーラム」』より

今朝も真央ちゃんが最後ひっくり返った時は、4時だったと覚えておりますが。皆さんそれご覧になると、それまでずーっと真央ちゃんがまだ30番目で一番あとだったもんだから。ずーっと皆見てるわけでしょ、あれ。ショートプログラムだから、1回何分かな。3分半くらいかな。そんなもんだったと思いますけど、それ全部やって一番最後に真央ちゃん。なんとか頑張ってくれと思って皆見ておられたんだろうと思いますが、見事にひっくり返っちゃいましたね。あの子、大事なときには必ず転ぶんですよね。なんでなんだろうなと。
僕もソチ行って、開会式の翌日に団体戦がありましてね、あれはね、出なきゃよかったんですよ日本は。あれは色んな種目があって、それを団体戦で。特にペアでやるアイスダンスっていうんですかね。あれ日本にできる人はいないんですね。あのご兄弟は、アメリカに住んでおられるんだと思います確か。ハーフ。お母さんが日本人で、お父さんがアメリカ人なのかな。そのご兄弟がやっておられるから、まだオリンピックに出るだけの力量ではなかったんだということですが、日本にはいないもんですから、あの方を日本に帰化させて日本の選手団で出して、点数が全然とれなかった。
あともう皆ダメで、せめて浅田さんが出れば3回転半をすると、3回転半をする女性がいないというので、彼女が出て3回転半をすると、ひょっとすると3位になれるかもしれないという淡い気持ちでね。浅田さんを出したんですが。また見事にひっくり返っちゃいまして、結局、団体戦も惨敗を喫したという。
その傷が浅田さんに残ってたとしたら、ものすごくかわいそうな話なんですね。団体戦負けるとわかってる、団体戦に何も浅田さんを出して、恥かかせることなかったと思うんですよね。その、転んだということが心にやっぱ残ってますから、今度自分の本番のきのうの夜はですね、昨日というか今朝の明け方は、なんとしても転んじゃいかんという気持ちが強く出てたんだと思いますね。いい回転をされてましたけど、ちょっと勢いが強すぎたでしょうかね。ちょっと転んで手をついてしました。だからそういうふうにちょっと運が悪かったなと思って見ております。


まず、この発言で問題点になりうる項目について考えてみます。


(1) 日本スケート連盟の作戦に対する批判
この発言によって森元首相が批判しているのは、選手起用のディシジョンメイキングをした日本スケート連盟といえます。フィギュアスケートの専門家でない森元首相が専門家である日本スケート連盟のストラテジーを批判することは理に適っていません。「団体戦負けるとわかってる」および「恥かかせることなかった」は団体戦の結果を先験情報として発言したものであり、極めて非論理的な推論と言えます。


(2) 浅田選手の演技に対する配慮に欠けた表現
浅田真央選手が「完全に転倒した」ことは事実ですが、森元首相はそれを「見事にひっくり返っちゃいましたね。」と表現しました。副詞の「見事に」には「完全に」という意味があると同時に「すばらしく」という意味もあるため、揶揄したような表現にも受け取ることもできます。


(3) 浅田選手の過去の演技に対する不正確な評価
「あの子、大事なときには必ず転ぶんですよね。」というのは明らかに不正確な発言です。バンクーバーオリンピックでは転倒していません。


(4) リード兄弟に対する配慮に欠けた表現
「オリンピックに出るだけの力量はないが、日本にはアイスダンスの選手がいないので、日本に帰化させたが、点数が全然とれなかった」というのは明らかに横暴な表現であると思います。帰化という個人のアイデンティティにとって重要な選択を、はなはだ勝手な理由で求めた事実を知っていながら、「点数が全然とれなかった」と不満げに述べるのは明らかに個人の人格軽視であり、倫理的に問題があると考えます。


以上のように、森元首相の発言には明らかにいくつかの問題点があります。ただし、このことが速報するほどのニュース価値があることかとなると、それは大きな疑問があると思います。


まず、(1)について、スポーツの采配に対する批判は世の中に普通に存在することであり、森元首相がたとえ東京五輪・パラリンピック組織委員会会長であったとしてもこのような素人の批判を大ニュースとして特別に取り上げることにどのような合理性があったのかということです。ちなみに、日本スケート連盟は国から補助金を受けていますが、国会議員でない森元首相は、補助金の額の決定に影響を持っているとは考えられず、その立ち位置は一般人と何ら変わらないものと考えられます。

(2)について、とる人によっては配慮に欠ける表現ですが、発言の最後の方では、そのような転ぶという結果を招いたのはスケート連盟のマネジメントに起因するのではということで浅田選手を不運であったとまとめています。このことから浅田選手に対してけっして悪意を持った表現ではなかったことがわかります。

(3)については明らかに不正確であり、森元首相は訂正して浅田選手に謝罪すべきでしょう。ただし、そのような誤解を与えた相手は、第262回「毎日・世論フォーラム」への参加者に限られるわけですから、これをニュースで速報して世間に公表するような事案ではないと考えます。

(4)については、もし事実であるのならば倫理的に問題があると思います。ただし、速報して意味があるような事案ではないと考えます。この段階では森元首相がそのように話しているだけなので、報道記者は、発言内容の証拠をしっかりと取材して報道する価値があるのであれば報道すればよいと考えます。


私は、この一連の報道は、明らかにマスメディアが現在最大の悲劇のヒロインである浅田選手を利用して、スキャンダラスな話題づくりでイエロージャーナリズムを展開しようとしたものと考えています。


森元首相が講演した[毎日・世論フォーラム] とは毎日新聞の主催による講演会で「原則として毎月1回、首相経験者、閣僚級の政治家を中心に、内外に影響力のあるオピニオンリーダーを福岡市に招き、講演していただくもの」だそうです。つまり、フォーラム(公開討論会)の形式をとっていながらも、毎日新聞に高い会費を払った人達が聴くことができる講演会です。したがって、講演者がどのような発言をしようとも参加者が自ら発信しない限り外部には伝わりません。そんな中、2月20日(木)13時から始まった森首相の講演内容の報道が始まったのは、なんと16時からでした。


メモ[2014/02/10 16:11 共同通信]
森元首相 真央に「あの子、大事なときには必ず転ぶ」

東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相は20日、福岡市での講演で、ソチ五輪・フィギュアスケート団体について「負けると分かっていた。浅田真央選手を出して恥をかかせることはなかった」と述べた。

さらに女子ショートプログラム(SP)で16位だった浅田真央を「見事にひっくり返った。あの子、大事なときには必ず転ぶ」と指摘した。

浅田が団体でトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させれば、アイスダンスの劣勢を盛り返し、銅メダルを獲得できるとの期待が日本チームにあったとの見方を強調。「(団体戦で)転んだ心の傷が残っているから(SPで)転んではいけないとの気持ちが強く出たのだろう」との同情も示した。


まずこの件を最初に報道したのは、今回も「失言報道」をリードする共同通信でした。センセーショナルな言い回しは、明らかに森元首相を批判する記事となっています。最後に「同情も示した」と書いてあることが意味するものは、その前に書かかれていることは「非情である」ということを示すものです。この後、この共同通信の記事が各社に配信されて地方紙やスポーツ紙での報道が始まります。



メモ[2014/02/10 17:25 産経]

「フィギュア団体、負けると分かっていた」 森喜朗会長言いたい放題

東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相は20日、福岡市での講演で、ソチ五輪・フィギュアスケート団体について「負けると分かっていた。浅田真央選手を出して恥をかかせることはなかった」と述べた。さらに女子ショートプログラム(SP)で16位だった浅田選手を「見事にひっくり返った。あの子、大事なときには必ず転ぶ」と評した。

森氏は団体戦で転倒した心の傷が、浅田選手を精神的に追い込んだとの同情も示した。
さらに、アイスダンスのキャシー・リード、クリス・リード組に関し「米国に住んでいる。(米国代表として)五輪出場の実力はなかったが、帰化させて日本選手団として出した」と語った。


4大紙では、まず産経新聞が報道しました。こちらも「言いたい放題」という情緒的表現で読者の感情を煽っています。



メモ[2014/02/10/17:38 TBS]

森元首相 浅田選手は「大事なときに必ず転ぶ」
森元総理は20日、ソチオリンピックに出場している浅田真央選手のショートプログラムに触れ、「大事なときに必ず転ぶ」と発言しました。フリーの演技を控えていた時点での発言に波紋が広がっています。

「あの娘、大事なときには必ず転ぶんですよね」(森喜朗元首相)

森元総理は20日、福岡市での講演で、ソチオリンピックのフィギュアスケートに出場した浅田真央選手のショートプログラムの演技についてこのように述べました。その上で、日本時間の今月9日未明に行われた団体戦に出場して、ジャンプで転倒したことがショートプログラムに影響したと分析。

「負けるとわかっている団体戦に何も浅田選手を出して恥をかかせることはなかったと思う」(森喜朗元首相)


テレビでは日本の「失言」の繰り返し報道を得意とするTBSが講演会の映像を放映しました。毎日新聞が主催なのでTBSが映像を放映するのは理に適っています。これがインターネットに配信されて話題が盛り上がっていきました。



メモ[2014/02/10 19:38 毎日新聞]

森元首相:北方領土解決へ具体的協議
森喜朗元首相は20日、福岡市で開かれた「毎日・世論フォーラム」(毎日新聞社主催)で講演し、北方領土問題について「ロシアが4島全部返すことはないし、4島とも返さないということもあり得ない。どういう方法があるか、(日露)両政府がまじめに真剣に話している」と述べ、領土問題解決に向け両政府が具体的な協議に入っているとした。

森氏は「安倍晋三首相とプーチン大統領が忌憚(きたん)のない意見交換ができて、どこかで(具体案を)決めれば、戦後処理の中の最大の成果だ」と強調。「どうしようもないなら(4島を)特別区域にして双方で運営していくやり方だってある」などと語った。

2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森氏は、フィギュアスケート女子ショートプログラム(SP)で浅田真央選手がジャンプでミスし出遅れたことについて「(団体戦でのミスの)傷が浅田さんに残っていたら、ものすごくかわいそうな話。負けると分かっている団体戦に浅田さんを出して恥をかかせることはなかった」と語った。【高山祐】


フォーラムを主催した毎日新聞は、しっかりとフォーラムの宣伝をしてから(笑)、この件に触れています。



メモ[2014/02/10 20:23 朝日新聞]

「大事な時には必ず転ぶ」 森元首相、浅田選手の演技に
2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相は20日の福岡市での「毎日・世論フォーラム」の講演で、フィギュアスケート女子の浅田真央選手のショートプログラムでの演技について「頑張れと思って見てたら、見事にひっくり返ってしまった。あの子、大事な時には必ず転ぶんですよね。何でなんだろうなあ」と述べた。

また、団体で日本が5位になったことについても「あれは出なければよかった。浅田さんが3回転半をすれば、ひょっとしたら3位になるかもしれないという気持ちで浅田さんを出したが、見事にひっくり返った」とも述べた。さらに「団体戦も惨敗を喫し、その傷が浅田さんに残っていたら、ものすごくかわいそうな話だ。負けるとわかっている団体戦に浅田さんを出して恥をかかせることはなかった」とも語った。

東京五輪・パラリンピックに向け、五輪選手を支援する立場の森氏の発言だけに、今後、波紋を広げそうだ。


そして、「失言報道」のクオリティーペーパー(笑)の朝日新聞が報道します。この後、この件についてしつこく報道することになります。「今後、波紋を広げそうだ」というのは、朝日新聞がよく使う表現で、朝日新聞が波紋を広げる報道を始める予告のようなものです。今後このような表現があったときには注目しましょう(笑)。



メモ[2014/02/10 23:00 NEWS23]

森元首相 浅田真央選手に・・・「大事なときに必ず転ぶ」

膳場キャスター
女子フィギュアの浅田真央選手について森元総理が今日行った講演の中で「大事なときには必ず転ぶ」などと述べました。
森元首相

一番最後に真央ちゃん。なんとか頑張ってくれと思って皆見ておられたんだろうと思いますが、見事にひっくり返っちゃいましたね。あの子、大事なときには必ず転ぶんですよね。なんでなんだろうなと。

ナレーター
森元総理は今日午後、福岡市で行った講演でフィギュアスケートショートプログラムの浅田選手の演技についてこのように述べた。その上で、

森元首相

僕もソチ行って、開会式の翌日に団体戦がありましてね、あれはね、出なきゃよかったんですよ日本は。彼女が出て3回転半をすると、ひょっとすると3位になれるかもしれないという淡い気持ちでね。浅田さんを出したんですが。また見事にひっくり返っちゃいまして、結局、団体戦も惨敗を喫したという。その傷が浅田さんに残ってたとしたら、ものすごくかわいそうな話なんですね。団体戦負けるとわかってる、団体戦に何も浅田さんを出して、恥かかせることなかったと思うんですよね。

ナレーター
団体戦については「負けるとわかっていた」と述べ、「浅田選手が団体戦のジャンプで転倒したことが、ショートプログラムに響いた」と分析。さらにアイスダンスに出場したキャシー・リード、クリス・リード組について「アイスダンスは日本にできる人がいない。オリンピックに出場する実力はなかったが、帰化させて日本の選手団として出した。」などと述べた。森元総理は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長を務めている。


「森元首相 浅田真央選手に」というタイトルは、まるで森元首相が浅田選手に対して語ったような誤解を生じさせる表現です。全体的に何も批評のない報道ですが、最後に「森元総理は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長を務めている。」とナレーターが言っているのは、併記による暗示(jaxtaposition)という聴き手を誘導する巧妙な暗示手法です。問題を生じさせるような発言を切り取っては何もそのことについて言及せずに、それだけの情報で聴き手に勝手に評価させるという悪意をこめた手法です。


そしてこの後、日本時間2014年2月21日午前1時45分ごろ、浅田真央選手は女子シングルフリーに出場しました。


翌朝、TBSが森元首相の報道を続けます。



メモ[2014/02/11 05:30 朝ズバッ!]

森元首相 真央に 「大事なときに必ず転ぶ」

アナウンサー
確かにそのショートプログラムを本当に悔しかったのは何といってもご本人だと思うんです。しかし浅田選手に対してこういった発言があったというのが森元総理なんですね。下の記事見てみましょう。日刊スポーツです。「あの子は大事なときには必ず転ぶ」と発言しました。「あの子、大事なときには必ず転ぶ」「見事にひっくり返った」と福岡県での講演で語ったんです。団体戦での転倒が影響をしたとの持論を示す中での発言ですが、選手への配慮に欠ける失言として批判が出そうです。森元総理といえば、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長に就任したばかり、この発言に関しては、あのダルビッシュ投手もツイッターで「スポーツの本質を何もわかっていない発言だ」と批判をしているんですね。吉越さん・・・

吉越浩一郎氏

ね~。何なんでしょうね~。これで東京オリンピック大丈夫なんですかね~。

アナウンサー
って思っちゃいますけどね、吉川さん。

吉川美代子氏
元総理ですしね~。当然いろんな人が注目してると。これもともとあれなんですね。安倍外交についての講演会で・・・

与良正男氏(毎日新聞)

日露とかですね。北方領土問題とかについての講演会で、一種のサービス精神みたいなところが森さんあったと思うんですけど、それから団体戦出すべきじゃなかったみたいなこと言いたかったのかもしれない。けどもね、やっぱりこれ最近流行の個人的見解というやつではなかなか済みませんか。

アナウンサー
そうですね~。地元の愛知県の方からも本人を追い込むような発言は本当にやめて欲しいなと言う声が上がっています。

与良正男氏(毎日新聞)

しかもフリーの前だったからですからね。

アナウンサー
そうなんですよね。もしご本人の耳に入ったらと思うと。


もしご本人の耳に入って浅田選手が傷つけられたとしたら、それは森元首相のせいではありません。それはこのニュースを最初に発信した共同通信、繰り返しこの件をテレビで報道すると同時にインターネットに画像を配信したTBS、そして産経新聞・毎日新聞・朝日新聞のようなこの件について報道をした各社のせいです。


マスメディアがこのような速報性がまったくないニュースを競って報道しなければ、浅田選手がこの件について知る危険性はなかったはずです。選手に対して配慮がないのは、森元首相よりも、このことに飛びついて大々的に報道したマスメディアであると言えます。


マスメディアにとっては、自分たちの報道を仮に浅田真央選手が耳にして傷ついたとしても、まったく怖くなかったはずです。それは森元首相という格好のスケープゴートが存在しているためです。むしろ自分たちの報道を浅田選手が耳にして傷つくことで、森元首相をさらに批判するという図式を望んでいたようにも見えます。


この件について報道しなかった読売新聞には敬意を表します。もちろん、森元首相の発言を検証して議論するならこれからだと思います。