東京オリンピックの開催支持率
東京オリンピックの招致活動もいよいよ本格化されてきました。
私はぜひ東京で開催してほしいと思っていますが[過去記事] 、
オリンピック招致委員会の招致活動の中でもっとも障壁となっているのが
国民の開催支持率と言われています。
IOC(国際オリンピック委員会)が2012年5月に実施した
開催各地の支持率調査では、
マドリッド 78%
イスタンブル 73%
東京 47%
という結果になり、東京が最低となりました。
その後、ロンドンオリンピックが開催されて
オリンピックの楽しさが再認識されると、
東京の支持率(東京招致委員会調査)は66%に上昇し、
その後の11月の調査では微増して67%になりました。
ただし、マドリッドも招致委員会の10月の調査によれば、
80.2%とさらに支持率を高めています。
この東京の開催支持率の低さにはいろいろな理由があると思いますが、
そのもっとも本質的な問題は日本人の気質にあると私は思います。
各種アンケートに対して、次のような理由から
一般に私達日本人は明確な回答を避ける性向があると考えられます。
(1) 和を重んじる日本人は、敵を作らないために
明確な回答を避けて中立的な立場をとりがちです。
(2) 事を慎重に運ぶことを美徳と考える日本人は、
考え過ぎてディレンマに陥りがちです。
(3) 上記(1)(2)の文化が根付いているため、意思決定の経験が少なく、
そのことが意思決定自体を困難にしています。
(4) 他人に事物を譲ることを美徳と考える日本人は、
自己評価する際には、自分を好評価する回答を避ける傾向があります。
そんな日本人の性向を端的に表している例があります。
BBCでは、毎年「世界に良い影響を与えている国」というワールドワイドの
2012年の調査で、世界の人から「世界に最も良い影響を与えている国」
と考えられている国は下図に示すように日本です。
日本が世界から評価されていることは大変素晴らしいことなのですが、
この記事ではこのことは置いておいて、
日本がアンケート調査の際に他国と比較して
どのような傾向があるかに対して別の視点から考えていきます。
下の表は、公表されているデータを基に私が新たに作成したもので、
各国が自国や他国に対してどのような評価を行っているかを示したものです。
(クリック拡大)
この表には、
「世界に良い影響を与えている」という投票(○)のパーセンテイジ、
「世界に悪い影響を与えている」という投票(×)のパーセンテイジ、
そして「どちらでもない」という投票(△)のパーセンテイジを示していますが、
一目瞭然なことに、他の世界各国に対して
「日本は「どちらでもない」という回答が異常に多い」
ことがわかります。
世界標準の25%以下という値に対して50%を超える値を示しています。
この値は、オリンピック開催を競っているスペインやトルコの2倍以上です。
また、下の表は、世界各国における
自国の評価(自己評価)と他国の評価(外部評価)の
結果の違いを示したものです。
ここで注目していただきたいのは、
表の一番右に示した「自国-他国」の値です。
この値は、
自国が「世界に良い影響を与えている」と評価した割合(%)から
他国が「世界に良い影響を与えている」と評価した割合(%)を
差し引いたもので、
値が大きいほど自分の国を過大評価していて、
値が小さいほど自分の国を過小評価しているということになります。
この値を見ると、日本以外のすべての国が
自分の国を過大評価しているのに対して、
「日本だけが著しく自分の国を過小評価している」ことがわかります。
以上のように、日本がマドリッドやイスタンブルと比較して支持率が低いのは
必ずしも実情を完全に反映しているものではなく、
日本独特の文化によって培われた日本人の性向と
考えられなくもないと私は思います。
ただし、このような論理が必ずしもIOCの選考委員に有効であるという
保障は全くありません。
重要なのは、私たち日本人がこの性向を自覚し、
オリンピックなどの世界標準が強いられる場では、
自身を持って意思決定することが重要であるということであるかと思います。
このような日本人の性向は、インターネットの議論などにも
顕著に表れていると私は思います。
希望がある意見やオプティミスティックな意見を過度に否定して
ペシミストとなることが国を救うとでも言いたげな意見が
過度に蔓延していると思います。
特に、オリンピックの開催費用があるのだったら震災復興に回すべき
という意見がよくありますが、
木を見て森を見ない意見であると私は思います。
ロンドンオリンピックの開催費用89億ポンド(約1兆1000億円)に対し、
経済波及効果(GDP押し上げ効果)は165億ポンド(約2兆円)あったと
されています[London 2012: Economic Impact] 。
東京オリンピック・パラリンピック招致委員会の[試算] によれば、
経済波及効果は約3兆円あり、開催費用を大きく上回ります。
震災復興予算は5年間で19兆円(現在増額見直し中)で
開催費用とはオーダーが異なると同時に、
GDPが増加することは震災被災地の復興にもポジティヴに
作用するはずです。
また、「東京が混むから反対」などと言う意見については、
東京からすべてのスポーツの大会やコンサートの開催も
中止すべきと言っていることと同値です。
京都の清水寺や金閣寺の拝観反対と同じくらいの
ありえないレベルの暴論かと思います。
日本のマインドと経済再生のブレイクスルーとしての
東京オリンピック実現のために
開催支持率が少しでも上昇することを願ってやみません。