
ジャズの歴史において、ジャズの聖地のバードランドで行われたこのライヴは、それまでのバップというスタイルを発展させたハードバップというスタイルの夜明けと言われています。
バップとは、それまでのスウィング・ジャズに見られた楽譜に従う演奏を排除して、即興演奏を主体としたジャズのスタイルです。最初のコーラスで曲のテーマをテキトーに演奏した上で、第2コーラス以降は延々と即興演奏を続け、最後にもう一度テーマに戻って演奏を終えるというものです[演奏例]。
これに対して、ハードバップとは、最初のコーラスで洗練されたアレンジ演奏を行い、第2コーラス以降の即興演奏に有機的に接続するものです。これによって、バップの唐突感を改善して、より曲の完成度を高めながら即興演奏も楽しむことができるわけです。バッキングのリズムセクションも管楽器のソロに対して有機的に絡んでいきます。
このセッションのパーソネルは次の通りです。
Horace Silver – piano
Curley Russell – bass
Art Blakey – drums
Lou Donaldson – alto saxophone
Clifford Brown – trumpet
バンドの公式なリーダーはドラムのアート・ブレイキーですが、実際にはピアノのホレス・シルヴァーとの双頭バンドです。ベースはバップの有名ベイシストであるカーリー・ラッセル、アルト・サックスはチャーリー・パーカーの影響を強く受けていい味出している新鋭のルー・ドナルドソン、そしてトランペットはこのセッションで大ブレイクすることになる史上最高のジャズ・トランぺッターと呼ばれるクリフォード・ブラウンです。
まさに役者が揃った中でのライブ・レコーディング『バードランドの夜』はブルーノート・レーベルから3枚にわたる10インチLPで発売され、後に2枚の12インチLPに集約されました。
1 Announcement By Pee Wee Marquette
2 Split Kick (Horace Silver)
3 Once Ina While (B. Green - M. Edwards)
4 Quicksilver (Horace Silver)
5 A Night In Tunisia (D. Gillespie-F. Paparelli)
6 Mayreh (Horace Silver)
7 Wee-Dot (Alternate Take)
8 Blues' (Improvisation)
1 Wee-Dot (J.J. Johnson-L. Parker)
2 Ifi Had You (Shapiro-Campbell-Connelly)
3 Quicksilver (Alt. Take) (Horace Silver)
4 Now'S The Time (Charlie Parker)
5 Confirmation (Charlie Parker)
6 The Way You Look Tonight' (J. Kern-D. Fields)
7 Lou'S Blues' (Lou Donaldson)
1枚目の"Split Kick"はまさに典型的なハードバップです。
16ビートのラテンリズムで始まって4ビートに転じたり、
サックスとトランペットが決められた役割を演じてアンサンブルしています。
また、第二コーラスからのソロへの移行も非常にスムーズであることがわかります。
1枚目の"A Night In Tunisia"はジャズ史に残る名テイクと言われています。
ソロを展開する各プレイヤーが見事に有機的につながっています。
ドナルドソンのサックスはよく歌っていますし、
ブラウニーのトランペットは憎らしいほどのテクニックを魅せてくれます(笑)
シルヴァーもブレイキーもそれぞれ素晴らしい見せ場を創出しています。
2枚目の"Now'S The Time"はバップの有名ブルースですが[演奏例]、
ハードバップ曲としても見事に機能していることがわかります。
ハードバップの登場により、モダンジャズは黄金期を迎えることになります。