これは驚愕の第9である。ヘルベルト・ケーゲルを知ったのは1970~80年代に東ドイツ(当時)シャルプラッテンから、ウェーベルンやヒンデミットなど一連の優れた20世紀音楽のレコードを通じてであった。東側にも現代音楽をここまで見事に演奏できる音楽家がいるのかと驚いたものである。


ドイツ統一時の彼の悲劇はここでは触れない。


しかしケーゲルはブルックナーやベートーベンに超名演を残していた。


この第9は、現代音楽を得意にしたケーゲルならではの対位法的な楽曲の構成把握とその処理がずば抜けて見事である。そこへ、彼ならではの激しい思い入れが加わっている。とくにティンパニの処理がすごい。クレンペラーやミュンシュ、クナ、フルトヴェングラーら19世紀的な指揮者たちのようにティンパニをぶったったかせ、低弦を強調する。さらにロマン的な旋律は豊かに歌わせる。ドイツ・オーストリア的なのである。


おそらくこのベートーベンのチクルスは20世紀後半の最高のもののひとつであろう。特に「この9番はセッションではあるがその迫力たるや壮絶である。


ライブ録音も残されているいうであるが興味がわくのである。