東大の逆井さんと共著で書き進めていた「パズルゲームで楽しむ写像類群入門」の初校ゲラと格闘しています.「パズルゲームで楽しむ」というのはずっと昔に作った「てるあき」というパズルゲームなのですが,このゲームをネタに教科書を書くことが当時からの夢だったのです.それがこの9月に実現するということで,感慨ひとしおであるとともに,この企画でこの大変な作業を共有してくれた逆井さんに感謝します.

写像類群という数学の概念は一言でいうと「図形の自己同相写像のイソトピー類全体」なのですが,まずここに現れる概念を説明するだけでも一苦労,そのうえ,さまざまな大定理に支えられていて,かつ今もなお盛んに研究されている対象でもあります.そこまでの長い道のりを1冊の本にしようということで,全15章からなり,特に後半のほうは内容がとって重いのです.しかし,抽象論に明け暮れて難しいのとは違って,基本的に数学セミナー誌に掲載するつもりで,逆井さんと僕で「難しくならないように」必死に易しい証明を追及しました.この本は日本語でかかれた初めての「曲面の写像類群を俯瞰した本」であるわけですが,部分をとってみれば難しくならないように工夫されている,と思います.

 初校でこんなに大変とは思いませんでした.まず分量が膨れ上がってしまって300ページを少し越えました.数学セミナー誌で連載した内容が約150ページくらいですので,倍増したことになりますその代わり,内容はかなり充実しています.おとといくらいに,ハンフリースが証明した「デーンツィストによる生成系を考えると個数が2g+1個以上になる」という定理を逆井君がやさしく書き下したもの(12章の最後)を読んでいたのですが,アイディアの鮮やかさに改めて感動しました.写像類群まわりの定理とその証明はアイディアの宝庫と言う感じで,証明をじっくり読むとうっとりしますね.(いや,うっとりしちゃダメだろうwwww)

さて,目次だけ紹介しておきます.

1.パズルゲーム てるあき(パズルゲームの紹介)
2.「写像」・「類」・「群」(基本的な用語の導入)
3.曲面と曲線(曲面と曲線の導入ですが,曲線の近似まで触れています)
4.曲面の写像類群(定義と,アレキサンダーの手品など)
5.デーン-リコリッシュの定理(証明をフルバージョンで載せています.)
6.1次元ホモロジー群(特異ホモロジー群の導入)
7.曲面の1次元ホモロジー群(求めてます)
8.トーラスの写像類群(SL2Zと同型であること)
9.リコリッシュの定理とその証明(これは連載でも書きましたがフルバージョンで証明しています.)
10.リコリッシュの定理でてるあきを解く(そもそもこれが本題だったはずなのですがwww)
11.リコリッシュの生成元と組み紐(リコリッシュ生成元の関係式について.)
12.シンプレクティック表現とトレリ群(シンプレクティック表現の全射の証明など)
13.基本群(定義と,フルビッツ準同型の導入)
14.デーン-ニールセンの定理(ねっとりと証明しています)
15.写像類群とトポロジー(まとめ)

逆にこの内容が300ページというほうが不思議かもしれませんね.最近,「ファーブ・マルガリ本」がでましたが,これは470ページに渡る上に,かなり予備知識を要する専門家向けの本です.これよりはずっと初学者向けにかかれています.

A Primer on Mapping Class Groups (Princeton Mat.../Princeton Univ Pr

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