葛飾北斎『萬神和合神』
東京が江戸と呼ばれた頃。
文政4・1821年『萬神和合神』刊行され
る。
これは葛飾北斎(1760-1849)により
書かれ、挿絵もそうで、北斎61歳のと
きの最後の艶本となる。
噺の筋は、13歳のときから30歳のとき
まで、生まれも育ちが違うふたり(お
つびとおさね)を主人公にし、男との
遍歴を綴り、女性がこれを回顧する色
問答の噺である。
有輔の娘おさね
裕福な家庭の有輔の娘のおさね。
夫婦別れし、勘当の身となり、粋な男
と一緒になるが、させ好きの性根は直
らず、とうとう夜鷹になり果てた。
させて 〱 ころばしひと流行(はや
り)はやったが、後は身骨がいためる
やら、こんなざまでは好きなへのこを
食えなくなると意を決し伊豆の国は熱
海へ指して独り旅に出た。
道連れをこしらえては例のところを任
せて旅宿代を稼ぎ、一番一夜のぼぼ道
中、つびは道連れ夜は情。

有輔の娘おさね
貧兵衛の娘おつび
おつびは、わが子の身上は丸取り。
たっぷり金ができ、表向きは一生後家
だが内証(ないしょう)は悪性たらた
ら。
おつびが内々の男妾の角は今年17歳の
粋な若衆。昼寝と言っては添い寝させ、
ふぃんどしひっぱずしては白まらにお
おいかぶさなる指南の毎日である。
おつびは白まらの食い過ぎで腰を痛い
と、伊豆は熱海に湯治旅に出かけたお
つび。
湯治に着くとおつび。腰が痛いもなん
のその、伴った角と引っ組んで、だれ
はばかぬ大よがり。
こちらはおさね。
先ほどから隣のよがり声で隙間かのぞ
いてこたえらず…

おさねと熱海湯治旅の貧兵衛の娘おつびと若衆角
おさねとおつび
こたえられずに手水場にて、指人形
で熱(ほめ)ぎを冷ましていたおさ
ね。
一方おつびは二番三番むし返し、あ
あ熱いと乗り出し手水(ちょうず)
に行く…。
二人、顔を見合わせてやや、お前は
あの沢山屋のおさねさん。
そんなら今のよがり声は食わぬ屋の
おつびさん「ままこちらへ」と一つ
座敷。
互いに懐かしく語る幸せ不幸せ、憂
いも辛いも恥ずかしいも包み隠さず
打ち明けて、色問答の始まり〱。

貧兵衛の娘おつびと有輔の娘おさね(13歳の姿)
おさねとおつび「色問答」
おさね
わたしは、かかるよがり声を聞く見で
あるが、心に足るものがないがもどか
しい。
それにひきかえ、お前の身の上は何不
足ない若衆盛りの桜花。
日陰の花の色見えぬ、お前はよほど親
たちがよい(宵)の細工のもとにてよ
くよくよかったでござんしょう。
おつび
いえ 〱 おさねさん、お前はどうも
心根がよほど違っていやしゃんす
おさね
それはどういうことでござんすえ
おつび
お前は沢山屋の娘子で勝手しだいの男
好き。婿さんをし殺し、あげくは才三
さんと駆け落ち。夜昼なしの楽しみを
勝手気ままになさんしたではないかい
な。
人の一寸は見えても、わが八寸の胴返
し、隠し食いの恨みごと、たしなまし
ゃんすがよいわいな。
おさね
それはおつびさん、あんまりな。
わたしが隠し食いより、お前の水揚か
らの評判は、まらに上下のへだてなく、
させて花咲く月経も、させる役に教わ
りゃ、妾奉公したらいで、陰間や間夫
のもの狂い、貞女顔していさんすが、
隠し食いではないかいな。
互いに争う問答の、その傍らに和合
神現れ給うて「両人の、その問答は
後編の、程に宿して、はらみ句のわ
が神力を見すべし」

有輔のおさねと貧兵衛のおつび(30歳の姿)
作者北斎曰く。
蝶、花に遊んで蝶、花の密に酔い、花
の香にさめて、またよく露の情みを得
る。
男は女をまって悦び、女は男を迎えて
行う。
若し枕をともにする信(まこと)があ
るなら、霊宝の徳を得ること掌を指す
が如くである。
人間の福徳に衣と食と住があるが、こ
の三つはいわば花であって、福徳の実
とするのは、男には女に、女には男に
あり、これ和合神の一物である。

北斎の艶本「萬神和合神(まんぷくわごうじん)」
蔦屋重三郎(その縁者)
蔦屋重三郎(1750-1797) 蔦唐丸(吉原連)
鈴木春信 (1725-1770)
平賀源内 (1728-1780)
磯田湖龍斎(1735-1790)
北尾重政 (1739-1820)
勝川春章 (1743-1792)
恋川春町 (1744-1789)
太田南畝 (1749-1823) 四方赤良・蜀山
喜多川歌麿(1753-1806)筆綾丸(吉原連)
志水燕十(生没年不詳) 志水つばくら(本町連)
山東京伝 (1761-1816) 北尾政演
石川雅望 (1754-1830) 宿屋飯盛(号:六樹園)
葛飾北斎 (1760-1849)
歌川広重 (1797-1858)
歌川国芳 (1797-1861)
歌川国貞 (1786-1865) 三代豊国(号:五渡亭)
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