世の中に不思議なことがある。
ものには霊があるという。
夢枕獏の小説「陰陽師」には
秘事をなすという安倍晴明が
描かれている。
 
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安倍晴明
安倍晴明は陰陽師(おんみょうじ)で
ある。
陰陽師は、霊の世界が見えるひとで、
病などもなおし宮中にても高い位につ
いていた。
いわば、夢のような風景が見える人物
である。
友人の博雅が晴明の力を借りにきた。
 
くちなしの女性
知り合いの僧の身にふりかかった桂
川に近い妙安寺の僧のことであった。
庵に入ると、甘味のある梔子(くち
なし)の花の匂いがする。
 
寺僧の前に女性が毎晩あらわれる。
口がないその彼女がやってきて7日
目。
女が僧の顔を見て、なぜか机の
経文に指さした。
清明は、「古今集」のなかの歌
耳なしの 山のくちなしえてしがな
思ひの色の したぞめにせん
 
思ひの色(恋)を下染めすれば口無
し(梔子・クチナシ)、秘密は漏れ
ないという歌をふと想い、推察する。
 
くちなしの女性と晴明
清明、博雅、僧の3人が寺におるとこ
女があらわれた。
羅(うすもの)の単(ひとえ)を身
につけ、単の下は裸であるらしい。
 
晴明が、一字「如」だけ書いたもの
を見せた。
喜びの色が、女の瞳に浮かび、女は
消えた。
 
「般若経」(女と如)
僧の部屋の文机の上の一冊の「般
若経」がある。
色即是空、空即是色、その次
受想行識(じゅそうぎょうしき)
亦復女是(やくぶにょぜ)に「
女」の文字があった。
その「女」の文字の横の「口」が
墨で汚れていた。
 
それで女には口がなかったのであ
る。と、晴明が言う。
「般若心経」の文字のひとつが化
けてでてきた。
「ものには霊がある」というのは
、こういうことだという。
それ以後、女は二度と僧の前に現
れることはなかった。
 
今日の近畿地方は、台風にともなう
大雨で、京都では桂川などが氾濫し、
のクチナシの花が風ですっかり散
っていた。
 
 
 
7月5日